桃色の罠
深い、海の中に沈むような感覚。
実際に沈んだことはないが、眠りにつく感覚と似ていると思った。
気がつくと、足元にカンカンと固い感触。石畳の上にいる事を確認し、目の前を見ると、マモルは重そうな扉の前にいた。
扉は2メートル程の高さがあり、RPGゲームに出てきそうな洋風の古い扉だった。
「おはようございまーす。」
ノックもぜず元気よく扉を開けた。鍵は閉まっていなかったようだ。
中には誰も居らず、ただただ暗くて長い廊下が続いている。
「いっけね、また遅れちまったようだな…急がなきゃ!」
そういってマモルは走り出した。
廊下は、かなり長い。
走っている内に息が切れてきてしまった。
「廊下は走っちゃいけません!!!」
背後から突然声が聞こえたかと思うと、ピンクのボールがマモルの頭上めがけて飛んできて目の前で破裂。
破裂と同時にピンクのインクが飛び出し、身体中ピンクのインクだらけになってしまった。
「僕はコンビニで強盗して逃げようとした犯罪者ですか…。」
はぁ。とため息つきながら後ろを振り返る。
「コホン。決まりを守らない違反者という面では、全く、えぇ、全く同じ事かと思いますの。」
態とらしく咳払いをしてそんな言葉を放ったのは、桃色の髪色をツインテールに結んだ、小学生程の見た目の少女だった。
「また君に捕まっちゃったか…。ピンクのボールが見えた時点で嫌な予感はしたが…」
「私の名前は君ではないですの。ちゃんとリリという名前がありますわ。そろそろ覚えて下さると嬉しいのですが。それに、また君かだなんて、違反しておいてよく言えたものですわ。私の方こそ、また君か!ですわ。違反者リストの名前に何度名前を連ねる気ですか。」
リストに何か文字を書きながら話す少女は、怒った様子だった。
「そんな、廊下走ったくらいで大袈裟な…。こんなピンクの状態で教室に行けというのですか…?あんまりですよ…。」
「防御魔法のひとつも覚えないで、廊下を走るなんて、私を舐めすぎですわ。仕方ないわね。」
そういって少女が手を振り上げ目を閉じる。
その瞬間その場の空気が熱気に包まれた。
そして手を振りかざした瞬間、マモルの頭上だけ土砂降りの雨が降った。
「わっうわぁぁぁぁぁ!?何をするんですかリリさん!!!?」
「ピンクのインクが嫌だと言うので洗い流してあげたまでですわ。雨程度じゃ足りなかったかしら?さっさと教室に行かないと、授業が終わってしまうわよ。ただえさえ知識不足のあなたが余計に落ちこぼれにならないように、私から忠告ですわ。」
そう言うとリリさんは去っていった。
僕は仕方なく、ピンクの残骸と水浸しの服装で教室に向かった。