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第5.5話 その頃

 ヒスギ様より呼び出しを受けた。魔卿大元帥の座はすでにピエールだというのに。こんな老いぼれに何の用だろうか?


「ヒスギ様、このカルロス、老いぼれの身ながら参上致しました」


「カルロス……正気か?」


「……は」


 ヒスギ様は何を言っておられる? なんの話だ?


「ピエールが何か?」


「違う! あれはよくやってくれている! 問題はカルロス、お前だ!」


 儂か!? な、なぜだ。儂は何も……。


「本気でわかっていないようだな……。サフィニア様はどうした?」


「サフィニア様でしたら、グリニッジ高等教育地区へ」


 そう言うと、ヒスギ様が呆れた顔をした。


 こいつは、何をしでかしたのかわかっていないのか?

 人種の情報を集めてはいないのか?


「カルロス、勇者が召喚されたことは掴んでいるか?」


 念のために聞いておこう。これで知らないなどと言われては……。


「はて、そうなのですか?」


「は……?」


 情報収集は基本だろ!? 何してるんだこの老骨! マジでピエールにすべてを託したのか!?


「トチ狂ったか!」


「いえ、至って正常です」


「そんなわけあるかぁ! カルロス、お前にサフィニア様を託したのはお前を信用していたからだ! ……よもやこのようなことになるとは……!」


「………はて」


 俺、もうむり。限界。


「ほう。お前には罰が必要らしいな。『大転輪・四陣滅却』」


「んなぁ!? ヒスギ様ぁ!」


 その魔法名を聞いた瞬間、カルロスがひれ伏した。

 俺の最終奥義とでも呼ぶべきこの魔法は、任意の空間を滅却することができる。

 カルロスの反応は当然だ。

 俺は魔力を霧散させ、魔法の発動を解除した。


 どうやら儂は、ヒスギ様を怒らせたようだ。

 理由はわからない。どうやら勇者が関係しているようだが……情報収集は一切していないからわからない。

 久しぶりの休暇だ! 少しくらい休んでもよいではないか!


「ヒスギ様、この老いぼれに教えてくだされ。勇者がどうしたと言うのですか? たとえ勇者が現れても、サフィニア様が害されるとは思いませんが」


「……全員集めろ」


 ……はて?


「魔卿大元帥を全員集めろ。大至急だ。お前の息子も」


「はっ」


 ここは素直に従っておこう。

 これ以上怒らせては、本気で儂の生命が脅かされかねない。



 魔卿大元帥が全員集まった。

 カルロスのこともある。マヌケがいたら困るし、この場で言っておこう。


「いいか、よく聞け。先日勇者が召喚された、と情報が入った」


 その時点で、驚いている者はいない。ピエールもだ。つまり、カルロスの手落ちだとわかる。


「勇者は、リーデルハイト王国のグリニッジ高等教育地区で教育を受けるらしい」


 そこでようやく、カルロスは思い至ったようだ。


「そしてカルロスが、サフィニア様を孫であるジュムルとともにグリニッジ高等教育地区に行かせたらしい」


 唯一、サフィニア様の言葉に驚いているピエール。そうか、ピエールには知らせていなかったな。あとで教えておこう。


「運が悪ければ、勇者とサフィニア様が戦うことになってしまう。だが、サフィニア様は一方的に何度も殺されるだけだ。ジュムルの力は、まだひよっこであり頼りにできない。そこで、カルロス、お前には特別な任務を与える」


「おまかせを。サフィニア様を影から守るのですな」


「違う。グリニッジ地区の地区長に無理を押し通せ。サフィニア様の正体を明かし、便宜を図らせろ。これは魔族の総意である、とも伝えて構わん。異論は?」


 ぐるりと全員に視線を向けると、みな不服なようだった。


「正体を明かす理由を、お伺いしても?」


「いいとも。当然の疑問だ。だが、サフィニア様はただでさえあの容姿だ。確実に目立つ。勇者に知られないわけがない。勇者に知られ、殺されでもしろ。生き返って異常としか言えなくなるぞ。

 そうしないためにも、サフィニア様と勇者が争わない環境を作らねばならない。つまり、会わないことがもっともいいのだが、先も言ったとおり容姿が問題だ。

 確実に出会うだろう。そうしたときに対処できる者が必要になる。あの地区は血縁者でさえ付き添いはできん。サフィニア様と明かさずにそれをするには無理だ。しかも、明かしてそれを実行するとなれば、それはそれで問題がある。

 サフィニア様のことを明かすのは、何も地区長だけではない。リーデルハイト王にもだ。そして、すべてをありのまま説明する」


 一気にしゃべりすぎたか?

 そう思ったが、なんとか理解しているようだ。ほかにも複数理由はあるのだが、もっともらしいわかりやすい言葉を並べてやるほうが、この脳筋にはちょうどいい。


「では、そもそも行かせなければいいのでは?」


「いや、サフィニア様のことを他国に公表しないことは魔種と人種に溝ができかねない。公表はしなくてはならない。なら、最高学府に入れておこう。少なくとも他国から干渉があるのは地区になる。俺はもう、面倒は嫌だ」


 公表するにしても、国の上層部に絞るがな。

 平民にまで広めるなんてことはあってはならない。世界が混乱してしまう。


「わかったか、カルロス」


「拝命いたします」


 俺は大きく息を吐き出して、この先に起こるであろう面倒ごとに憂鬱になる。


「ああ、そうだカルロス。地区長はおそらく、ビビるだろう。だから、せめて倫理の授業だけは受けさせるように、ほかはどうでもいいから、と言っといてくれ」


「はは、そうですな」


 では、とカルロスが城を飛び出していく。





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