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第5話 移動

 話し合いから5日が経ち、残り一週間と少しでグリニッジ高等教育地区とやらに行かなくてはならない。

 俺は学徒にはならないし、二十歳以下という制限があるのでなれないのだが……何を血迷ったのか、あの国王たちは。

 あろうことか俺を教師に仕立て上げた。正式な書類にサインもさせられた。働かざる者食うべからず、というのは、俺が以前――3000年前の活動期に残した言葉だ。

 それを逆手に取られてしまったのだ。

 まさか自分の首を締めることになるとは、当時の俺は思いもしなかった。再び召喚されるなど誰が考えただろうか。


「リスレイ、本当に、俺はこいつらの教育係もしなきゃならないのか?」


「はい。でなければ、即刻送り返す、と」


「くそっ、面倒なことになったな」


 この世界において、契約者とは絶大な力を持つ。

 一度契約したことを反故すれば死にかねない。しかも、それがどんな理由であれ、だ。

 つまるところ、教師になる契約書にサインした俺は、無理やり地球に帰されると最悪の場合死んでしまう。

 こんな脅し、勇者が屈してはならないものであるのだが……仕方ない。

 教師をするだけだ。

 ついでに、この役立たずな勇者たちを鍛えるだけ。

 地面に這いつくばる4人の子どもをみて、思わず溜息を吐いた。


「この程度で気絶するか……神様とは会ってないみたいだな」


 実を言うと、俺は二度目の召喚時も神様に会った。そのときこいつらはいなかったから、タイミングがずらされたか、あるいは会っていないか。

 だが、この結果を見れば一目瞭然だ。こいつらは神様に会ってなどいない。

 会っていれば、俺やサフィニアのように強い力を手に入れていただろう。

 とはいえ、いま思えば3000年前のことは、すべて神様に仕組まれていたと言えなくもないが。

 サフィニアも神様に会ったと言っていたのだ。ひどいマッチポンプのように思える。しかも、能力的に俺は勝てない。

 勇者が勝つ。それが王道だというのに。


「はぁ」


 リスレイやアズリーといった侍女に目配せすると、4人の子どもたちに向かって魔法をぶつけた。


「ぐぁっ」


「うぐぅ」


「……っ」


「ひぃっ」


 地球でいうと、気付け薬のようなものだ。それの魔法版と思えばいい。

 4人は俺を視界に収めると、慌てて立ち上がろうとする。だが足腰に力が入らないのか、ふらついて全員が倒れる。立ち上がることすらままならない。


「まったく、勘弁してくれよ……」


 こんなお子ちゃまを相手に訓練? 王たちも随分ふざけた真似をする。この程度ならそこらの騎士のほうが数百倍マシだ。


「お前ら、少しは頑張れよな……」


 ちょっと前から始まった訓練、俺が受け持つのは実践方式の訓練だ。

 武器を持たず、ひとまずは足さばきや体の動かし方を学んでもらう、というものであるが、こいつらはまだその段階に達したいない。

 どうしたものか。


「はぁ〜……」


 重く、深いため息が出た。




 それから2日経った。

 ちっとも上達しないちびっこ勇者たちと俺は、そろそろ移動すべきということで列車に乗る。

 驚いた。この時代には鉄道が走っているのだ。しかも、車のようなものまで多数ある。

 ほぼ現代日本と変わらないのでは、と思ったが、治安が圧倒的に違った。

 世界一の大国という肩書きがリーデルハイト王国にはあり、これが世界最高水準らしい。

 ほかの国は行っていないからわからないが、ここより水準が下なのであれば、近代、もしくは明治時代レベルということも考えられる。


「おい、お前」


「なんだよ、ちびっこ勇者」


「ちびっこ言うな! お前、ぜってぇぶん殴ってやるからな!」


 ふん、と鼻を鳴らして、彼はどかっと列車の席に座った。


「あ、あなたはもうちょっと手加減を知るべき」


 ちびっこ勇者の彼女が、頬を赤く染めながら言ってきた。最近、少しエムの気を引き出してしまったことは反省している。

 だがそれでも、一応俺のことは嫌いらしい。あの男の子が俺を嫌っているからだろう。


「私も、あんな屈辱は初めてだった。いつか絶対見返してやるんだから!」


「はいはい」


「んなっ」


「いいから座れよ……」


 一人ずつ決意表明なんぞしなくていいっつーの。

 しかも訓練しているのは俺の意思でなく王たちの采配だ。俺に八つ当たりされても困る。


「うちはあんさんのこと気に入った! ……けど、まずはうちを辱しめた罰を与えんとなぁ……」


 恍惚な表情を浮かべる最後の関西弁女子。

 こいつはドエムだ。あまり関わりあいになってはいけないと、俺の長年の勘が告げていた。


「ユキト様、皆様、そろそろ出発いたします。揺れにご注意ください」


 アズリーがそう言って、俺たちに注意を促す。

 侍女5人も、俺たちについて来るらしい。学徒に侍女なんかは関係ないけど、そこは王国の権力を使う。

 まぁでも、この侍女たちは優秀だから何も心配ないだろう。心配事といえば、ぬくぬくと生ぬるい日本で育ったちびっこ勇者たちのほうだ。

 俺がグリニッジ高等教育地区の教師になるのも、王が強引に押し込んだからだと思っている。

 まずはついたら地区長に挨拶からか。いや、その前に中央騎士団の詰め所で申請やら何やらをしなくてはならないな。


「いろいろと面倒なことになったなぁ……」


 サフィニアが復活したことは、喜ぶべきことか、悲しむべきことか。

 いまの俺の状態を考えれば、どちらとも言えなかった。

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