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第4.5話 入地区

「ここがグリニッジ高等教育地区、か」


「サニアちゃんはここ初めてだったっけ」


「そうだな。……ジュムルは初めてじゃないのか?」


「うん。僕は何度か来たことあるよ」


 道中何事もなく、目的地であるグリニッジ高等教育地区とやらに辿り着いた。

 こういうのは普通、列車が故障したり事故を起こしたりと、散々な日々が送られるものだと思っていたのだが。

 グリニッジ高等教育地区はリーデルハイト王国の最西端にある。地区というだけあって、その広さは学校というには収まらない。

 だけど、地区というには広すぎる。町一つ分丸ごとが学校になっていて、さながら学園都市だ。

 しかもこの世界、この時代は前世とほぼ変わらない技術レベルだ。もちろんと言っていいのか科学技術は遅れているが、代わりに魔法技術が優れている。

 一部分では、魔法技術のほうが優れているところもあった。

 鉄道は前世の新幹線のようなもので、長距離移動でしか使わないらしい。しかも主要都市しか繋いでいないから、割と離れた位置でも想像していたよりずっと早く着いた。

 ちなみに、リーデルハイト王国は勇者を召喚した国だ。最近、また勇者を召喚したと風の噂で聞いている。

 私の封印が解けたことが伝わったと考えるべきだろう。時期的に、間違いないと思う。


「ん〜と、僕たちは中央区に行けばいいみたいだよ」


 通称グリニッジ地区は、中央区、北区、西区、南区、東区と5つの区に分けられている。

 そのうち、最高学府と名高い学校は地区の中心――中央区に建っていた。

 どの地区からも見えるし、このグリニッジ地区の周囲は10メートルほどの壁で囲まれているけれど、外からもてっぺん辺りは見えた。

 それだけ、大きいのだ。


「中央区に行ったら、次はどこに行けばいい?」


「カルロスのメモだと……中央区に入ってすぐの中央騎士団の詰め所に行って、手続きできるみたい」


 中央騎士団なんてものがあるのか……。そういえば、この時代には拳銃や大砲、果ては遠距離魔導追尾砲というものもある。いわゆる、大陸間弾道ミサイルと似たようなものだろう。

 なんでも、人種と魔種の諍いがなくなっても、人種同士の戦争が起きるらしい。魔種は魔王の下に集い、仲間意識が強いから争うこともなかったのだろう。

 だから、もともと魔力の高い魔種が魔導技術を。魔法だけでは限界が来ていた人種が科学技術を。足りないところをお互いに補い合う――そうやってこの3000年歩んで来たのだ。

 そう、3000年だ。移動中に(サフィニア)が封印されてから何年かを問いかけると、ジュムルは3000年と答えた。

 日本でさえ、2600年であれだけの技術が進んだ。人類史で見れば、もっと短い期間で科学技術を発展させている。

 なにせ、魔法という技術が元からこの世界にはあったのだ。科学技術の発展を阻害されてもおかしくない。


 中央騎士団の詰め所にきた。

 中央区に入った途端、二十歳以下の人がどっと増えた気がしたけれど、気のせいではないように思う。

 だって、中央騎士団と思われる詰め所にいるのは二十歳以下に見えるからだ。


「すみません、僕たち入学しに来たんですけど」


「ああ、新入生か。ちょっと待ってな」


 カルロスの孫、いや、カルロスは息子に魔卿大元帥を譲ったから、魔卿大元帥の息子に対して普通に接しているあたり、身分による差別などはないように思った。

 次期魔卿大元帥と言えば、魔王候補、つまり魔王の素質を持っているということに他ならない。

 なのに、ただの一般人のような扱い。

 良い時代だ、と思った。


「ここに、住所・名前・歳・種族を書いて、紹介状と一緒に渡してくれ」


「わかりました」


「わかった」


 ふむ。紹介状というのはあれか。レクサスが渡して来た大事な物の中の一つに、カルロスの名前で何か書かれていた。

 ともあれ、まずは住所からか。住所は……たぶんジュムルと一緒で問題ない。

 名前はサニアで、歳は……ジュムルに合わせるか。

 ジュムルの用紙を見ると、15歳と書いていた。私も同じように書いて、次に種族は竜種(ドラゴニア)と記す。

 紹介状と一緒に先ほどの騎士に渡すと、また少し待ってくれと言われた。

 しっかり管理できているとは思うけれど、時間がかかる。お役所仕事というのはどうにも好きになれない。

 と、ジュムルとは名前以外すべて同じだと気付く。

 大したことではないと思うが、それでどうということもないだろう。


「よし、確認した。これをよく読んでくれ。この中央区でのルールと生活の基本、住むところなんかも全部載ってるからな」


「はい。ありがとうございます」


「助かった。礼を言う」


 ジュムルはよくできた子どもだ。まだ15歳だというのに、私が15歳だったころよりしっかりしている。


 騎士に渡された冊子を読み進めていくと、私とジュムルは違うところに住むとなっていた。

 一応異性だからな。こればかりは仕方ない。

 ……ジュムル、そんな悲しそうな顔をするな。お前にはまだ早い。


 中央区でのルール、と騎士は言った。だけど、常識的なことばかり書かれている。

 例えば、


 一つ、人を差別してはならない。

 一つ、人を傷つけてはならない。

 一つ、物を盗んだり壊してはならない。

 一つ、他人の住居に許可なく侵入してはならない。


 とかだ。

 特別これといっておかしなことは書かれていないので、何も問題ない。

 生活の基本は、


 一つ、排便はトイレで行う。

 一つ、17時に店仕舞いを行う。

 一つ、学徒は6時間以下の労働を許可する。


 など、ほぼルールと被っている。


 ただ一つ気になるのが、“地区委員制度”だ。

 この地区委員というのは、地球で言えば生徒会や文化委員、体育委員とかと同じと言える。

 ただこの場合、給料を貰えるのだ。


 生活の基本とルールにはこうも書かれている。


 一つ、学徒は自ら金銭を稼がなくてはならない。

 ※ただし学費以外に限る。


 つまり、学費は保護者が、生活費や娯楽費は自分で、ということだ。

 最後にはこうも書かれている。


 一つ、生活不適合者と判断された学徒は、中央区への立ち入りを禁ずる。

 ※ただし帰還を認めないものではない。


 ということは、だ。

 中央区から追い出されれば、ほかの4区のどこかで過ごさなければならない。実家に帰ることは許されているが、最高学府から逃げ帰って来た、というレッテルを貼られて生きていくのはさぞ辛いだろう。


 これは成績の可否にかかわらず、だ。

 優等生も劣等生も同じ条件。いくら優秀な学徒でも、日常生活を自力でどうにかできなければ退学という、とんでもない最高学府だ。

 きっと、最低限の条件というのがそれに当たる。

 私は不老不死だから、最悪飲食しなくても生きていくことはできるから問題ないけれど、ジュムルは違う。

 良い子だから、追放されなければいいな、と思う。


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