第4話 この先
1年ぶりです!←
リーデルハイト王国っつーところに召喚されて一晩が経った。
俺はいま朝飯を食っているが、離れた席に座る意味わかんねぇおっさんはメイドと一緒にどこかへ行った。
「ふん」
「海斗、そんなにあの人が嫌い?」
「嫌いだ! なんだよあいつ! ……でもまぁ、俺も勇者になったんだ。ぜってぇあいつをぶん殴ってやる」
「勇者、ねぇ……あたしにはよくわかんないけど、海斗と一緒なら……どこにでもついていく……よ?」
隣に座る茜が、俺を上目遣いで見る。
俺の彼女だ。超絶可愛くてヤバイ。
楽しく茜と話しながら、ほかの二人の女子とも話しながら飯を食う。
ほかの二人は雫と詩織で、二人とも可愛い。でも俺は茜一筋だから、こいつらに告白されても振ったことがある。
それでも友達でいたいというから、雫も詩織も、俺からあまり離れない。
まぁ、俺ってばモテるから仕方ないよな!
「少し、よろしいでしょうか?」
「あ、はい」
ゆったりしていると、俺に付けられたメイド、確か名前はアズリーとか言ったかな。そのアズリーが話しかけてきた。
二度目となる勇者様は、どうやら五人もいるようです。
私たち侍女は、勇者様がたの世界ではメイドと言うらしく、世話係という位置付けがされています。
私たち勇者様に付いた侍女のリーダーは私ですが、ほかの子たちもとても可愛らしく、いろいろと洗練されています。
「このあと、皆様を一度会堂へ連れてくるよう命じられております。もう一人の勇者様はそちらで合流する手はずとなっておりますので、これからそちらへ向かおうと思います」
「わかりました!」
「では、参りましょう」
この勇者様たちは随分と若いです。それがあってか、随分と元気が良く、私たちは見ていて微笑ましく思います。と言っても、私たちは十六歳。たった一歳しか違わないのですが、十六歳から働き始める私たちの常識とは若干異なるようで。
昨晩、軽く話した中で十五歳と聞きました。元の世界では中学生という職業だったようで、こちらの世界でいう地区委員と同じとのことです。
ユキト様を連れて会堂へ向かう。
予定の変更が国王様やツヴェル様から話されなかったから、おそらく予定通りことを進めるのだと思う。
「これは……会堂に向かってるのか?」
「は、はい。そうです」
声が震える。ユキト様は3000年前の英雄で、私なんかが案内するなんてとんでもない。
……だけど、私、ユキト様としちゃったんだよね……?
「会堂で何をするのか、聞いていいか」
「はい。えと、予定では国王様が勇者様がたを送り出す日程と訓練期間を告げて、そのあと騎士団長のツヴェル様がいろいらとお話をすると聞いていました。ですが……」
「サフィニアの心配ごとは表向きなくなり、勇者たちにきっちりした訓練を行わせて、その間にサフィニアを特定し、現在の状況を調べる、と。殺すのは無理だとわかっただろうから、あとは国王たちがどう判断するかだな」
ユキト様が淡々と予想を口にする。私も考えていたことで、国王様がどう判断するのか、とても気になる。
会堂に着いた。
中に入ると、お子ちゃま勇者たちが先にいて、会堂の上座にはすでに国王たちが座っていた。
俺とリスレイは遅刻したのか? というより、お前ら相談してないのかよ。なんで俺よりはやくここに着いたんだ?
「全員揃ったようだ。勇者たちよ、其方らには申し訳ないことをした。
復活したと思われる稀代の悪の魔王、サフィニアは不死身であり、いまは力を失い、力を回復するすべも持たないという。
そこで、勇者たちには申し訳ないが、元の世界に帰ってもらうか……こちらの世界で、万が一の時のために強くなってもらうか。
そのどちらかを選んでほしい」
元の世界に、か。
俺はもう帰らない。帰りたくない。あんなつまらない世界より、こちらのほうがよっぽど楽しい。
前回より3000年も時間が経っているのだから、国も変わっているだろうし、見るものは多そうだ。
「俺は帰らねぇ! あんな世界より、こっちで勇者として生きて行くぜ」
「あ、その、じゃあ、あたしも……」
「ずるーい! じゃあ私も!」
「じゃあ、うちもかな」
学生四人が居残り宣言すると、ちら、と国王が俺に目を向ける。
国王的には、たぶん俺には残ってほしいと思っているに違いない。なにせ、騎士団長なんか目じゃないくらいの強さだ。
もしサフィニアが暴走した時、止められるのは俺しかいないとでも思っているのだろう。
バカなやつだ。
俺でも止められねぇよあんなの!
「ユキトはどうするのかな?」
その声には圧力がかかっていた。が、俺にはまるで効かない。
「もちろん、残る」
「……そうか」
小声で「よかった」と言っている国王に苦笑しながら、俺は次の話に耳を傾ける。
ユキトが残ってくれるのであれば、何も心配はない。できればあの子どもたちは帰したかったのだが、一人だけ残すと不審に思われかねないしな……。
送り返せば済む話ではあるが、自分の意思で残ったとあれば、何かが起きても自己責任だ、と言えるだろう。
一応、宰相のジェラルドと相談して、簡単に死なないように手配する予定だ。
「さて、ではジェラルド、あとを頼む」
「はい」
ジェラルドと我は幼い頃からの親友だ。唯一、我と同等に語り合ってくれる。二人きりの時なんかは呼び捨てにタメ語だ。これほど楽なやつはいない。
しかし、どうしたものか。勇者を召喚するために、魔法使いを三人も死なせてしまった。
これはもう少し落ち着いてから考えるしかないか……。
「と、いうわけで、勇者であるあなた方には、我がリーデルハイト王国が誇る世界最高の教育機関、グリニッジ高等教育地区に入地区してもらおうと考えている」
「はぁ? 異世界に来てまで学校?」
「やんなっちゃうわぁそれ」
少年と少女が文句を言う。異世界の学校とやらは知らないが、ユキトの世界より来たのであれば、まったく違う教育をすることになる。
満足してくれればいいのだが。
「あなた方は、戦い方や貴族との関わり方、魔族との関わり方を知らない。私たちには問題ないが、私たちであっても、相手が貴族であれば、あなた方のような礼儀を知らない者とは会わない。
つまり、この世界での生き方を教えようと言うわけだ。魔法の使い方、武器の使い方、いろいろなことを」
「……それはおもしろそうだな」
少年が深く考えて、ぽつりとこぼす。
魔法や武器は、少年たちの世界にはなかったと報告されている。であれば、これで興味は唆られるだろう。
「でも、このおっさんはどうするんだ……ですか?」
礼儀を知らない、と言ったのが効いたのか、なれない口調だ。
「ユキトにはまた別の仕事を用意している」
そう言ってユキトを見ると、露骨に嫌な顔をされた。だが、管理させてくれ。頼むから。あなたがいなくなればサフィニアが現れた時どうすればいいのやら……!
俺だけ別のこと?
まさか、仕事でも押し付ける気か? 冒険者にならせてくれよ。いいだろ? あぁ、でも騎士団に入るってのも……いやこれは無しか。
てか、グリニッジ高等教育地区ってのができたんだな。初耳だぞ。しかも魔族との関わり方ということはつまり、それなりに仲良くなっているのだろう。
もともと魔族は好戦的ではないし、サフィニアがいなければ魔族とは友好だったはずだ。
なにはともあれ、面倒臭いことを押し付けられなければいいのだが……。
「さしあたって、そのグリニッジ地区の入地区日が二週間後に迫っている。それまでに最低限を身につけてもらうこととし、教育係の言うことをよく聞いて欲しい」
二週間後、だと?
こいつら、いつのまに時間の概念を開発しやがった? いや、暦はあったが、何週間、なんてのはなかったはずだ。
もしかしたら、時計があるのか? この世界に。
「これは楽しくなりそうだ」
思わず声に出す。
すると、国王が泣きそうな目で見てきた。声を出さずに口を動かしている。
「変なことはしないでくれ」
と言っているように思った。