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第3.5話 出発

 カルロスの背に乗せてもらい、1時間ほどかかってようやく屋敷についたようだ。

 その屋敷は流石魔卿大元帥というべきなのか、王城より一回り小さいという大きさだった。

 つまり、それなりに大きいということである。

 飛行機ほどの速さは出ていないだろうが、それでも相当な速さが出ていたため、それなりに王城から離れているだろう。

 そして、ここにも負けず劣らずな城下町が眼下に広がっている。

 カルロスは屋敷2階のバルコニーに降り立ち、人の姿に戻った。


「ここが儂の家だ。ここが玄関なのだが⋯⋯一階に玄関を作るべきか」


 どうやらここが玄関だったらしい。

 カルロスがずんずん進んでいくのに対し、私はちまちまとしか歩けなくて実にもどかしい。だけど、こういったことがまた楽しく思える。


「ピエール、帰ったぞ」


「おお、父上!」


 この人がカルロスの息子なのか。

 そんなに似ていないような気がする⋯⋯お母さん似なのかな?


「父上、まさか誘拐ですか?私は加担致しませんよ?」


「違うッ!この子はヒスギ様から預かった子で、儂の養子とすることになった。そこで、本来であれば魔卿大元帥の座からは離れられないが、この子を世話するため、という理由でヒスギ様が儂を降ろし、ピエールをつかせることになった」


「んなっ!それは本当ですか!?遂に私が魔卿大元帥になれるのですね!」


「ああ、儂は別館で隠居生活を送るから、後は任せたぞ」


 そう言ってカルロスはピエールから離れていく。私もその後について行った。


「さて、子ども用の服などは侍女に任せれば良いだろう。あちらにも侍女や侍従はいるし、何も持っていく必要はなさそうだな」


 カルロスはもう一度私を背に乗せて地を蹴り、飛び立った。


 父上のあの子どもを育てる仕事はそれほどまでに重要であるということだが、私にもようやく魔卿大元帥の座が回ってきた。

 これほど嬉しいものはない。

 しかし、実力で言えばまだ父上よりも弱いだろう。

 これは特例ということに違いない。

 今後、もっと訓練に励まねば⋯⋯!


父様(ととさま)、お爺様が帰ってこられたと聞いたのですが、どこにおられるか知りませんか?」


 可愛らしい声が聞こえ、そちらを見ると愛しい息子が顔をのぞかせていた。

 今年で14歳になる息子で、今度人種の中でも相当高度な教育を受けられると言われる世界最高の教育機関、グリニッジ高等教育地区に入学させる予定だ。

 ⋯⋯そう言えば、父上が連れていた少女も息子と同じくらいの年齢に見えたな。


「父上は別館に行かれた。私も詳しくは聞けなかったが、これから王城へ向かわねばならん。父上の代わりに、と魔卿大元帥になることになったのだ」


「本当ですか!?凄いです父様!」


 こう、無邪気な目を向けられると心がほっこりする。

 やはり息子は世界一可愛らしい。


「僕はもうすぐグリニッジ地区に行かないといけないので、お爺様とお話したいのですが⋯⋯」


「父上は別館へ向かったそうだ。そうそう、お前と同じくらいの少女を連れていた。とても可愛らしい少女だったからお前も気に入るかもしれんな」


 にやりと言ってやると息子は顔を赤らめて目を逸らす。

 初心な奴だ。


 お爺様のところに僕と同じくらいの女の子がいるらしい。

 お爺様とお話するついでに、その女の子ともお話したいな。


「では父様、僕はお爺様のいる別館に行きます」


「うむ。気を付けるんだぞ」


「はい!」


 近頃ようやく、一人で空を飛んで出かけることを許されたのだ。

 父様に認められたようでとても嬉しい。

 僕は竜の姿になって別館目指して空を飛んだ。

 それから2時間くらいでやっと着いた。

 お爺様や父様のような速さはまだ出せないけど、父様は頑張れば速くなると言ってくれている。

 だから、いっぱい頑張ってびっくりさせるんだ。


「おや、ジュムル様。どうされましたか?」


「お爺様、いる?」


「はい。おられますよ」


「ありがと!」


 門のところで私兵に出会ったので、お爺様のことを聞いてみると、ここに来ていたらしい。

 父様の言ったことは本当だったんだ。


「お爺様!」


 扉を勢いよく開けると、そこにはお爺様ともう一人、天使がいた。

 僕がその子に見惚れていると、その子がクスクスと笑い始めてとても楽しそうにする。

 それがどうしようもなく嬉しくてついつい僕も笑った。


「ジュムルか。この子はサニアと言って、同じ竜種なのだが事情があって竜の姿になれなくてな。儂のところで預かるようにとヒスギ様から仰せつかったんだ。仲良くしてやってくれ」


「は、はい!⋯⋯えと、ジュムルです。よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 サニアちゃんはそう言ってニコリと笑う。

 僕は眩しすぎて目を開けられなかった。


 儂とサフィニア様が今後について話し合っていると、孫であるジュムルが入ってきた。

 どうやらピエールが教えたみたいだな。


「そう言えば、ジュムルは再来週からグリニッジ地区に行くんだったか」


「はい、お爺様」


 これはタイミングが良かったかもしれん。


「ふむ⋯⋯そうだな。ならサニアも入学してみないか?同じ世代の子たちが世界中から集まってくるから友人を作るにも困らんだろうし、これまでのこともあるし、新鮮な生活を送ってみるのもいいだろう」


 サフィニア様は殺戮の限りを尽くしたとされている。

 そんな子どもに道徳や倫理を教える言い機会ではないか。

 丁度ジュムルも入学するから報告はそちらからさせればいい。報告という形では、サフィニア様が疑われかねないか。

 ならばそれとなく聞けばいいだけだ。


「グリニッジ地区?」


 そうか。グリニッジ地区はサフィニア様が封印された後に設立されていたから、知らないのも無理はないか。


「世界最高峰の教育機関だ。そこで、今の世を知るといいのではないか?」


「⋯⋯なるほど。それはいい考えだ」


 ジュムルめ⋯⋯目を輝かせおって。確かにサフィニア様の外見は美しく整ってはいるが、お前では相手にならないだろう。

 同じ種族で真っ先に知り合ったことだけがアドバンテージではあるか。

 サフィニア様も賛同してくれたし、その方向性で進めよう。


「レクサス」


「はっ」


 名を呼ぶとすぐに扉から姿を現す。こいつは本当によくできた執事長だ。


「サニアの服と他に必要な物を全て用意しろ」


「かしこまりました」


 レクサスはそう言って扉を閉め、どこかへ行った。

 あいつに任せれば家のことは大抵解決する。非常に便利な執事長だ。


 グリニッジ地区とか、天文台の間違いじゃないのか?

 まぁ、それはいいとして教育機関か。それも世界最高峰となると⋯⋯私が勉強についていけるのかが心配だな。

 それに、私はこの世界での活動期間はたった4年だ。

 最初の半年はこの世界に順応するのに精いっぱいで、次の半年は世界ぶらり旅。その道中で出会った魔卿大元帥のせいで3年間も魔王をやらされ、ユキトに封印されたのだから。

 そのため、暦と年数くらいしか教わることが出来なかった。

 あの4人は「魔王様が知ることではありません」「わたくしどもにお任せください」とかなんとか言って私に知識をくれなかったからな。

 今思えば本当に、良く耐え抜いたと思う。


「グリニッジ地区には儂の方から連絡を入れておくから、特に問題はないだろう」


 そう言えば、試験とかなのかな。

 世界最高峰とかならありそうだけど、ないのであればラッキーだ。

 そう言う話をしてこないし、きっとないんじゃないかな。


「お爺様、僕とサニアちゃんの2人で行くということですか?」


「うむ。そうなる⋯⋯ああ。そうだった。サニアは空を飛べないから馬車で行く必要があるだろうな。飛空艇は値段が高いからな⋯⋯サニアなら万が一もないから心配はないし、ジュムルもこう見えてピエールの跡継ぎ。地上のルートで行っても問題ないか」


 このジュムルと二人旅か。

 馬車で行けるほど近い場所ということなら、この周辺にあるのだろうか?


「⋯⋯お爺様、馬車では間に合いません。せめて駅を使わなければ」


 あ、やっぱり間に合わないらしい。

 そりゃそうか。ここは魔大陸。魔大陸に住む奴らは基本的に自宅に家庭教師を招くか、招かないかの二択しかないからな。

 だから知識に偏りがあったりもして大変だった。あの頃は。


「駅か⋯⋯値段的にも問題なさそうだな」


 ⋯⋯カルロスは節約が趣味なのか?それとも魔卿大元帥の給料は少ないのか?

 どちらにせよ、カルロスがケチであることに変わりはないか。


「レクサス。駅の切符を二つ用意しておけ」


「はっ」


 さっきも思ったけど、レクサスは優秀だな。

 扉の向こう側から返事が聞こえたかと思えば気配が遠のいて行った。

 力は封印されても感覚的なことは以前と同じようで、人の気配が簡単に、手に取るようにわかる。


「駅を使っても1週間ほどかかるか。入学式が2週間後なわけだから、明後日には出発せねばならんな」


 割と早い出発だな。

 私としてはその方が好都合ではあるが。


 カルロス様がサニア様を養子にすると言って連れて帰ってきた時は驚いた。

 しかし、カルロス様の命だから全て即座に行動へ移さなければならない。

 養子にするための手続きをしたり、あの首輪を⋯⋯おそらく昔に存在していた奴隷の首輪を隠すためのスカーフを用意したり、それに合う衣装を準備したり。

 流石に後半は侍女にやってもらったが、それにしても随分な訳ありな少女だ。

 ヒスギ様の命と言っていたから、私にすらその秘密は打ち明けられることはないだろう⋯⋯だがその分、関わるとどれだけ危険なことになるのかが分かる。


「ようやく全て揃ったか」


 出発日までに全て揃ったことに安堵する。

 明日にはサニア様だけでなくジュムル様もグリニッジ地区へ行くのだ。

 お二人とも、この数日でとても仲良くなられた。特にジュムル様は、サニア様と話すときに緊張しなくなっている。

 自然体で接することが出来るようになったのは大きな成果だろう。

 私にはジュムル様の想いがサニア様に届くことを祈るしかないが。


 ようやく出発日を迎えた。

 ここまで長かった。

 いや、たった数日だったんだが、それでも長いと思うのは久し振りに活動したからだろうか?

 食事もおいしく食べたし、侍女たちと一緒に採寸しながら服を選んだりと、本当にいろいろなことをして疲れた。

 だが、それも昨日まで。

 今日はようやく旅立てる日だ。


「それでは、行って参ります。お爺様」


「お爺ちゃん、行ってくる」


「二人とも気を付けてな」


 カルロスはそう言うと、私に近づいて来て耳打ちをする。


「孫のことをどうかお守りしていただけると嬉しいです。サフィニア様」


「今の私に力はないが⋯⋯出来るだけ善処しよう」


「はい。その返事を聞けただけでも、聞いた甲斐がありました」


 コクリと頷くと、カルロスは私とジュムルをレクサスと共に送り出した。

 今は既に電車の中。

 そう、電車があったのだ。

 私がいた時代にはなかったのに!

 因みに、大量の荷物は郵送してくれているらしい。旅路に必要な最低限の荷物⋯⋯と言っても、それだけでも相当な量だが。それしか手荷物はない。


「さっき、お爺様と何の話をしてたの?」


 この数日間でジュムルの敬語を取っ払うことに成功した。いや、本当に苦労した。頑なだったからなぁ⋯⋯。


「ちょっとね。ジュムルのことをよろしくってさ」


「ふぇっ!?」


 ⋯⋯何かおかしなことを言ったか?私はそのまま伝えただけだよな。

 まぁ、ジュムルが顔を真っ赤にするのなんて毎日のことだし、あまり気にしないほうがいいか。

 そんな時、甲高い汽笛が轟いた。


「やっと出発か」


 このカルロスの領地ともさよならだな。せっかく地理をある程度覚えたのに。

 そう思うと少し寂しい。

 だが、まだ私は目覚めて間もないことだし、これからの事の方がいろいろあるだろうな。

 カルロスの領地は比較的魔大陸の外縁部にあるらしく、それでギリギリ1週間ほどで到着することが出来るのだとか。

 グリニッジ地区のことも教えてもらうことが出来たのだが、グリニッジ地区はグリニッジ高等教育地区というものの略称らしい。

 そこには人と魔が雑多に入り混じって共に勉学に励んでいるとのことだ。

 昔では考えられないことである。

 なんでも、私の後に即位した魔王が良い政策を敷きまくったおかげだと言っていたな。

 ある意味私の手柄でもあるよな?誇ってもいいよな?

 そんなこんなで、私とジュムルは二人でグリニッジ地区へと行くこととなった。


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