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第1話 プロローグ

2人称視点(謎)

 足元が光る。

 俺はこの光景を一度見たことがあり「またか」と呟いた。

 俺の周りには4人いて、その4人は学生服を着ている。対して俺は二十歳で無職ニートだ。

 彼らは突然現れた光に目を閉じたが、俺は開いたまま立っている。

 流石に行って帰ってと2回も同じことを経験していれば、3度目には慣れてくる。

 そのせいか、俺はひどく落ち着いた状態で異世界召喚が終わるのを待っていた。


「成功、しました」


 目の前にいる初老の男が言った直後、地に伏した。心臓の鼓動は聞こえないことから、死んだのだとわかる。

 その他に、俺たちを囲む残りの3人も同じように心臓の活動を停止させ、パタリと倒れる。


「よく来てくれた。勇者よ」


 倒れた初老の男に一瞥もくれず、現れた俺たちに視線を向けたのは玉座に座る優しい目つきの男性。年齢は30代くらいだろうか。


「どこだよ、ここ」


 一緒に召喚された男子学生が呆然とつぶやくとその取り巻きの女子生徒3人が喚き散らし始めた。

 喧しい。

 そう思い、鼓膜の手前の空気の振動を魔法で止めようとした時、部屋の隅にいた男がその腰に携える剣を抜いた。


「死にたくないやつは黙れ」


「ね、ねぇ、ドッキリだよね?」


「ドッキリに決まってるでしょ。こんなの」


 抜刀された剣を見て、声を震わせながら言う。

 これはドッキリではない、と俺は確信している。

 何故なら、魔力が戻ったからだ。

 そう、魔力だ。

 地球に戻ると消えてしまった魔力が今、俺の内にある。

 かつて、勇者として召喚された俺の、俺だけの力。

 召喚され、戻りたいと思いながら魔王討伐に行った時のことを思い出す。

 あいつは少し、おもしろかったな……と。



「お前が魔王か」


 ようやくこいつを発見できた。いろんなところを歩き回るから探すのに苦労したものだ。


「巷ではそう呼ばれているらしいね」


 打てば響くような凜とした声で返され、イメージと違ったことに驚く。

 魔王といえば男だろう、と内心毒づきながらも彼女を見据える。


 遂に勇者に見つかった。

 勇者といえば黒髪黒目の日本人と相場が決まっているが、その通りの勇者が現れた。

 私の前世……というより、TS転移するより前は日本人だったから、勇者の容姿は懐かしい思い出を彷彿させる。


「お前はここで殺す」


 突然殺害予告。

 日本では警察に逮捕されかねないセリフだ。この勇者も、相当異世界であるこの世界に染まっているようだ。

 私も、人のことは言えないが。


「なぁ勇者。お前、日本人だろ」


 この話し方は久しぶりだ。そこら辺に転がっている魔卿大元帥の4人が私に付き始めてからは、女らしい言葉を使うようにしていたから。

 口調は戻せても、一人称は戻せないもどかしさが残る。


 何故、こいつは俺が日本人だとわかったのか。

 いや、日本人なら日本人だとわかる。

 しかし腑に落ちない。こいつはこの世界の奴だ。だから、いや、そうか。

 転生という言葉がある。

 こいつはこの世界に転生し、魔王になったのか。それなら納得がいった。


「お前も、日本人か」


「元、な」


 やはりそうか。

 元日本人だとしても、俺はお前を倒す。

 必ず倒さなければならない。俺が平穏な日常を手に入れるために。

 なんだって家でゴロゴロしてる時に呼び出されたんだ。

 しかも、当時の俺は17歳。今年で20歳だ。

 青春を全て異世界に使ってしまっている。その恨みの全てはこいつにあるのだ。

 こいつだけは許せない。


 勇者の目つきが変わった。

 だが私も負けられない。というより、負けはあり得ないのだが。

 例え、勇者がどれだけの力を持っていようとも、だ。


「来い」


 刹那、勇者が消えたかと思えば目前で剣を振り下ろしている。

 私は躱すなんてことはしない。圧倒的な力の差というものを見せつけてやる。そこら辺に転がっている魔卿大元帥なんてただの雑魚だ。


 おかしい。

 剣を振り下ろそうとしたが、俺は慌てて構え直す。隙だらけだったはずなのに、どうして打ち込めない。

 こいつはなんだ。

 俺の攻撃に気付いていながら、何故回避しようとしなかったのか。

 今では隙の一つも見せていない。

 カウンターでも、するつもりだったんだ。

 そう思い込むことにした。

 タイミング的に、カウンターもあり得ないのだがそう思うことでしか俺の心の平静は保てない。

 そんな時、魔王がため息を吐いた。


「はぁ……。まぁいっか」


 やはり、何か仕掛けていたのか。その仕掛けが不発になってしまったためのため息。

 納得がいく。

 俺は油断なく構え直し、一瞬で肉薄する。


 勇者が迫る。私はそれをチラリと見ると、視線を外した。

 直後、爆音。

 私の魔法だ。

 しかし、そこに勇者はいない。案外素早いな。


「こっち、だよ!」


 背後から声が聞こえ、そちらを見もせずに魔法を発動する。


「なにっ!?」


 勇者の慌てた声が聞こえ、私はほくそ笑む。別に、見なくても方向さえ分かればいいのだ。

 声を出したのは失敗だったな、勇者。

 空気を圧縮して打ち出す魔法を回避したであろう勇者の逃げた先を予測し雷を落とす。


「クソ!」


 舌打ちが聞こえた。

 やはり、私の勝ちは揺るがない。


 こいつ、強過ぎる。

 強いなんてもんじゃない。勇者である俺が一方的にやられている。

 声を出したのは失敗だとわかるが、それなら逃げた先への雷に説明がつかない。

 予測であれだけ的確に落とされていたのであれば、戦慄している。

 しかしあれは紛れ当たりだ。

 そう何度もできることではない。そもそも、声を出さなければいいのだから。

 俺は声を出さず、出来る限り息を潜めて魔王の首を狙う。

 剣を薙いだ。

 瞬間、魔王の首が転がった。


「は……?」


 躱されると思っていた。

 だが、魔王は俺を視認していなかったし、戦いに集中もしていなかった。

 これは、勝ったのか?


「は、はは……やりましたな、勇者殿」


 一緒に来ていた宮廷筆頭魔法使いのクルスが歓喜を露わにする。

 だが、俺は倒せたと思えない。間違いなくこの手で首を刎ねたのに。


 あぁ、痛い。

 格の違いを見せるためとはいえ、やり過ぎたか。

 心臓を一突きの方がまだ楽だ。

 切断された首からぴゅーぴゆー血が吹き出ている。

 私の体。

 まさか、私の体を斬れるとは。

 慢心だったか。

 少なくとも、勇者は私についてこれるだけの力を持っている。

 ふんぬぅ、と力を込めると、止まっていた心臓が動き出す。

 吹き出した血が体内に戻り、やがて頭も体と接続された。

 これで先ほどと同じ状態……いや、ついでに腕を斬られていたな。

 腕を探すと、足元に転がっていた。そこにも力を入れて繋ぎ直す。

 よし。


 何故だ。

 何故、再生する。

 いくら再生能力があったとしてもこれはもう、再生なんてレベルではない。

 不死身。

 そういう類のモノだ。

 手を出す相手を間違えた。

 だが、こいつを倒さないと地球には帰れない。

 いや、不死身なら倒せない。


「封印……出来るか?」


 クルスに声をかける。


「……出来るか出来ないかであれば、出来るでしょうな。ただ、時間がかかります」


 そうか。出来るのか。

 なら、まだ勝ち目はある。

 封印では倒したことにならないが、不死身ならば仕方がない。


「俺が時間を稼ぐ。その間に準備しろ」


 俺がクルスに指示を出すのと、魔王が動いたのは同時だった。


 コソコソと話しているが、こちらは完全に無視か?

 私は足を一歩前に出す。

 すると、すかさず勇者が反応した。どうやら無視されているわけではない。

 ということは、私の不老不死対策か。

 それならば理解できる。ただ、私も混ぜてくれないかな。

 無理だろうなぁ……。


「お前は倒せないようだな」


 一度しか復活できないのでは、と考えたりしないのか。優秀だ。

 私を一度殺したヤツは皆そう考えていたが、やはり日本人は侮れない。

 こうした場面での対処能力は随一だろうから。


「ところで、少し話をしないか?」


 おもしろそうだ。

 どんな話なのか気になる。

 手招きする勇者のところに行く。警戒はもとよりしていない。殺されないのだからする必要がない。


 作戦通りだ。

 クルスは何故!という顔をしているが、これが俺の考えた作戦だ。

 勇者である俺は見るからに日本人。

 魔王である奴は会話から日本人だとわかる。

 それならば、日本人同士の会話に花を咲かせようではないか。


「勇者よ、何の話をする?」


 途轍もなく楽しそうだ。久しぶりに日本人との会話なのかもしれない。

 俺だって3年ぶりの日本人だ。

 この後封印する相手ではあるが、今は、そう、友達と考えよう。

 友達と話をするくらい訳ない。


「魔王。まずはお前の名を聞こうか」


「おぉ、そうだな。私の名は……今のやつか?」


 そうか。

 こいつは二つの名前を持っている。

 前世の方は、俺は興味がない。


「今世のモノだ」


 魔王は今世?と首傾げ、何かに納得したのかポンと手を打った。


「私は死んでないぞ。人外転移だ。地球では死んでいない」


 これは驚いた。

 俺はまさしく転生だと思っていたのに。

 ……というより。


「人外?」


「あぁそうだ。今の私は竜種(ドラゴニア)だからな」


 ドラゴンか。姿を変えられるということだろう。

 他には、強さが変わったりするのだろうが、こいつはこのままでも圧倒的だ。

 おそらく姿を変えるまでもないのだろう。それなら、親しみのある人型の方が落ち着くのも頷ける。


「なるほどな。で、名前は?」


「そうだった。名前だったな。私の名はサフィニアだ。神にもらったんだよ」


 そうして、無い胸を張る。


 私が踏ん反り返って言うと、ため息を吐かれた。

 なんだよなんだよ。

 私だって巨乳にしたかったさ!

 だけど、神に要求し忘れたんだよなぁ……。


「勇者は?」


 私だけ教えるなんて不公平だ。


「俺は日笠幸人だ」


 幸人か。

 覚えたぞ。お前の名前。私に唯一殺されなかった奴。

 いや、私も遊びすぎたか。同じ故郷を持つというだけで。

 だが、結果的にこうして話をしている。


「ああ、そういえばポテチがあるんだが」


 ポテチだと!?

 幸人め、それをここで出すとはな。

 この異世界にポテチなんて無い。ジャガイモすら滅多に見ない。まだ毒だと思われているのだ。

 私はポテチを受け取るべく、腰を下ろして手を差し出した。


 バカか、こいつは。

 ポテチなんてある訳が無い。

 しかし、こうも簡単に引っかかってくれるとはな。

 俺は空間収納に手を突っ込む。

 その間も、俺の手の行く先をずっと目で追っている。

 手を引き抜いた瞬間、サフィニアの首に犯罪奴隷用の首輪を巻きつけた。

 通常の奴隷は契約書やらなんやらが必要になり首輪も違うが、犯罪奴隷用は別だ。

 契約書も、相手の同意も必要無い。

 首輪を巻いた奴の能力を全て一般人レベルにこそぎ落として戦闘力を奪うためのものだ。

 サフィニアは驚いた顔で俺を見て、騙されたのに気付いたのかわなわなと震え始めた。

 まずい。いくら犯罪奴隷用とは言え、こいつは魔王。

 効果が十全に発揮されるとは限らない。


「クルスッ!!」


「わかっております!」


 クルスが封印魔法を展開する。

 それはサフィニアを覆い隠し、箱のような形状になったそれの周りを無数の鎖が巻き付いた。

 これで封印は完了だ。

 だが、クルスは続けて魔法を使った。今度のは聞かされていない。

 俺に向けられたのかと思ったが、この地帯一体に掛けたようだ。

 既に更地となっているこの地帯にポツンと鎖に巻きつかれた箱が漂う。

 その周囲の地面がボコッと掘り下がった。

 それは数十メートルにも及び、やがて一つのダンジョンを作成する。


「なるほど……これなら封印を解く奴は中々来ないだろうな」


「ええ。城に持ち帰り更に強固な封印を施すのも良いですが、城は人の出入りが多い。魔に刺された者が封印を解かないとは言えませんから」


 その言い分に、俺はこくりと頷く。

 それにしても大した者だ。

 流石世界最強の魔法使いなだけはある。

 魔王は不死身の力を過信しているからか、魔法はそれほどではなかった気がするし。


「なんにしても、これでようやく終わりか」


「そうですね。ヤられた者たちも、これで報われるでしょう」


 そうだと良いがな。

 俺はクルスと共に、国に帰還するための最後の旅を始めた。



 あぁ、懐かしいな。

 私と幸人の出会いと別れ。

 ポテチと言っておきながら犯罪奴隷用の首輪を付けさせられるとは思わなかった。

 しかもこれ、おそらく神の作ったものだろう。

 自分で外すことは不可能な仕様になっている。

 私の力は、今は完全なる凡人。あるのは不老不死だけか。

 だが、今まで意識がなかったのに、突然復活した理由はなんだ?


「これがお宝……?」


 女の人の声が聞こえた。

 そう言えば、人が来るのは初めてだな。

 あの時の会話は聞こえていたから、自分の現状を把握するくらいは出来ている。


「間違いなくお宝だろ!こんなにイイ女見たことねぇよ!」


 今度は男だ。

 ぴとっと誰かが首に触れる。


「こんな可愛い子に首輪……かわいそう」


 今度は最初に聞いた声だ。

 2人組なのだろうか。

 ここはそれなりのダンジョンになっているはずだが。


「それ、もしかして今はもう無い奴隷制度の時の奴じゃね?文献で読んだことあるぜ」


「えぇ、こんな子が奴隷?……外してあげなくちゃ」


 首元でカチャカチャと音がなる。

 その音が目覚ましのように聞こえて急速に意識が浮上してきた。


「う〜ん……取れない。どうすれば取れるんだろう?」


「確か、それを嵌めた奴しか取れなかったはずだ」


 私は目を開けて、それに同意する。

 奴隷の首輪は嵌めた人にしか取り外せない。

 まぁ、神の作ったもの以外であれば抜け道はたくさんあるが。


「わわっ!いつの間に起きたの?」


 女性の顔が映る。

 流れるような髪が私の目元まで届いてきそうなくらい長い。

 その髪色は緑。ということはエルフか。チラリと男の方を見る。そちらはエルフではなく魔翔種(まとしゅ)だった。


「……さっき」


「そっか。とりあえず、私たちの家に連れて帰らない?」


「そうだな」


 この二人は夫婦だったのか。

 あまりにも種族が違いすぎるから、臨時パーティのようなものだと思っていた。

 エルフと言えば、森を住処にして弓と魔法を得意とする後衛特化の種族。

 魔翔種と言えば、飛行能力がどの種族よりも高く前衛特化の種族。

 なるほど、相性は良いようだ。


「歩ける?」


「……なんとか」


 首輪のせいで体が重いが、これはこれで良いな。

 たまにはこうした縛りプレイも。

 幸人には、感謝しよう。


「……幸人、帰ったのかな」


「ん?何か言った?」


「んーん、なんでもない」


「そう?じゃあ、ヒスギお願い」


 ヒスギと呼ばれた魔翔種の男は背に大きな翼を出現させた。

 片翼でヒスギの身長の3倍はある。

 ヒスギにお姫様抱っこされたエルフの女性に抱っこされる私。

 なんとも歯痒い気分だ。自分で飛べることも可能だったのに。

 竜種の弱点は、翼を出しても魔法を併用しないと飛べない点だな。と初めて気付くことができた。

 やっぱり、幸人には感謝だ。

 封印されたのは嫌だったけど、こうして外に出られたのだし。

 幸人は無事、帰ることが出来たのだろうか。

 私のせいで召喚され、本当に申し訳ない気持ちで埋め尽くされる。

 眼下に広がる景色を見た。

 ダンジョンは、最奥の宝である私がいなくなったことで崩壊していた。

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