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サンタ狩りスノーホワイト  作者: 志記折々
二章『夢の中の世界』
8/18

7:「七人のイケメン」


「なぁ、えっと……白雪さん。ちょっと話を聞いてもらっていいか?」

「……え? しらゆき、さん?」


 小首をかしげる白雪さんは、実に可愛らしい。

 いわゆる小悪魔的な仕草というやつだ。


 現在の状況を把握した俺は先生を連れて教室に入り直し、白雪さんに声をかけた。

 サラ先生は俺の後ろ、教卓の前でこちらを心配そうに見守ってくれている。


 ……いや、なんで一緒に来てくれないんですか。


 なんでも『先生はもうやってみた』らしく、ここは俺に任せたい、だそうだ。

 始業のチャイムがなる前であまり時間がなかったこともあり、詳しい事情も聞けず押し切られてしまった。


 だけど仕方ない。

 俺は協力すると約束したのだ、そしてサンタからプレゼントを貰うんだ!


「頼む、取り込んだ夢魔の力をサラ先生に返してやって欲しい。いつまでも夢の中に閉じこもっていると危険なんだ、少し言いにくいが死んじまうことになるんだよ」

「え、え……? なに言ってるの……?」


 早口で盛り立てる俺の言葉を、白雪さんは上手く飲み込めていないように思える。


 だよなぁ、いきなりなに言ってるんだって話だよ。

 そもそも白雪さんは、ここが夢の中だって分かってるのかな?


「おいおい、姫が困ってるじゃねぇか! いくら王子だからって俺たちの姫にちょっかい出すってんなら怒るぞこらぁっ」


 取り巻きの一人であるツンツン髪の男が勢いよく怒鳴ってきた。


 いやいや、もう完全に怒ってるよそれ。

 額に青筋たってるもん。恐いよ、顔が不自然に整っているから余計に迫力がある。


「まぁまぁ怒田どたくん。王子も悪気があるわけじゃなさそうだし、喧嘩はよそうよ! きっと彼もお姫様と仲良くなりたいんだよ」


 笑顔がデフォルトであるかのようなニコニコ男が庇ってくれる。


 フォローしてくれるのは嬉しいんだが、目的を誤解されているのは少し困るなぁ。

 まるで俺が白雪さんをナンパしようとしているみたいじゃないか!


 怒田くんとやらも、舌打ちして一層視線を鋭くしてしまっているぞ。

 おいおい、どうすればいいんだこの空気……。


笑川えみかわくんの言うとおりですね。君はいつも短気すぎる、その癖は意識して直さないといけませんよ。でないと姫に迷惑をかけることにも繋がりかねない」


 メガネをかけている知的な雰囲気の男が澄ました表情でツンツン髪を攻め立てた。


「しかしながら王子にも問題がないわけではありませんよ。貴方も訳の分からない言葉で我らが姫を惑わさないでいただきたい」


 続いて、俺も怒られてしまう。


 ……むむむ。

 言い訳をしたいが、頭が混乱してきてなんだか言葉が出てきてくれない。


 ていうかお前らなんなの!?

 男子生徒にまで俺のこと王子って認識されてるの、すごく違和感あるんですけど!


「……明智くん、決め付けは良くないよ~。王子だって、なにか理由があるかもしれないじゃん~。なんか、真剣そうだし~?」


 のんびりとした口調の男が、俺のほうを見てそう言った。


「真剣だからといって、なにをしてもいい訳ではないでしょう」

「……それもそうだね~。実際お姫様困ってたしね~」


 メガネをくいっと持ち上げながら明智とやらが溜め息をつく。


 正論だけど、正論なんだけどさ!

 のんびり男もあっさり意見曲げてるんじゃないよ!


「あ、あの……でも惚木ほうきくんの言ってたことも、一理、あ、あああるのでは……」

「はっきり話せ照元てるもとこら! 男がもじもじしてんじゃねぇっ」

「ひいぃっ、ごご、ごめんなさい僕なんかがしゃべって!」


 照元という気弱そうな男がツンツン髪に怒鳴られて萎縮している。


「まぁまぁ怒田くん。照元くんのお話、聞いてあげよ?」

「ちっ、姫がそう言うなら……」

「お、お姫さまぁ……えへへ、お優しい気遣いありがとうございますぅ」


 かと思えばすぐにデレデレ顔になった。

 頬とか赤く染まってるぞおい。


 ツンツン髪も白雪さんの言うことには素直に従うようだ。


「え、えと……惚木くんの言うとおり、王子の真剣さが気になって……それに、お姫さまが死んじゃうって……もし本当だったら……」

「あははっ、心配しすぎ! 僕たちがついてるんだから、お姫様に危険なんかあるわけないよ」


 笑川という男は笑顔で俺の忠告を否定する。


「それは確かにそうですが、王子の言っていた意味も気になりますね。いったい、どういった意図であのような発言を?」


 明智というメガネ男が俺に問いかけをしてきたので、これ幸いを俺は事情を話そうと口を開いた、んだけど……、


「っくしゅん! うぅ、五月だってのにまださみぃなぁ……窓しめていい?」


 まるでわざと話を遮るように、小刻みに体を震わしていた男が大きなくしゃみをする。


「ていうかさぁ、そんなのどうでも良くない? 王子の根拠のない言葉を信じて、アホくさ……」


 そして、くしゃみ男は俺に疑いの視線を向けた。


草見くさみの……言うとおり。ただでさえ起きてるの辛いのに……これ以上、目が覚めるようなこと話さないで……ヒメ、恐がらせるのダメ……」


 小柄な男が、目をこすりながらくしゃみ男の意見に賛成する。


「そうそう、眠村みむらもこう言ってるし、王子も空気よんで下がっててくれないかな? うっくしゅっ、王子がそばに居ると、くしゃみも止まらねぇよ」


 くそ、この二人のせいで他のイケメン五人も俺を懐疑的な目で見ているじゃないか。


 だけど俺は毅然とした態度でお前の意見を否定するぞ。

 絶対お前のくしゃみは俺のせいじゃない! 無理やりなキャラ付けを他人のせいにするとはいただけないなぁっ。


「ま、そうだな。もう引っ込んでおけよ王子、これ以上、姫にちょっかいかけるってんなら俺が相手になるぜ……!」

「あはは、王子に恨みはないけど、僕らはお姫様のことを第一優先させてもらおうかな」

「そうですね、もはや問答は不要でしょう。適当な発言で姫を惑わせるのならば、我々も相応の対応をしなければならない」


 イケメンの取り巻きたちが不穏な空気を出していることで、中心にいる白雪さんはキョロキョロと左右に顔を揺らして、本当に困っていた。


 ……むむ。

 これは俺もせいかもしれないぞ。

 しかし白雪さんから夢魔の力を返してもらわないと、本当にマズいことになってしまうのでここは引くわけにはいかないんだ。


 七人の取り巻きをかいくぐって、なんとか事情を伝えなければいけない。

 でも、どうすれば……!


「あ、あのー……白雪さん、少しでもいいから話を聞いてくれないでしょうかー……?」

「……せ、先生……また、ですか?」


 俺が二の足を踏んでいると、サラ先生が前へ一歩踏み出してくれた。


 おぉ、流石だぜ!

 びしっと言ってやってください先生!


「白雪さん、早くこの夢の中から出ましょうー? ここに居たら危険なんです、夢魔という目に見えない怪物が貴方を食べてしまうんですー……。現実に帰る方法は先生が知っています、力さえ返してもらえたら、全て任せていただいても構わないんですー……」

「なに、言ってるんですか? 訳が分かりませんっ」

「し、白雪さん……?」

「それにさっきも言いましたけど、わたし白雪なんて名前じゃありません! わたしの名前は『安藤姫』です、誰か他の人と勘違いしてるんじゃないですか?」


 その言葉で、ぐっとそれ以上の言葉を先生は紡げなくなってしまう。

 俺だってそうだ。これじゃ事情を話しても、なんの意味も成さないじゃないか。


 もしかして、だから先生はまず俺に行かせたのかもしれない。

 自分と同じ結果になるかどうか、試したかったから。


 ていうかさ……安藤さんは、白雪さんじゃ、ない……?

 どういうことだよ。だってあんたはこの物語の主人公なんだろう?

 あんたがこの夢を形作って、俺たちが夢の中に入ったときサンタの力を取り込んで……あぁもう、こっちこそ訳が分からないっての。


 白雪さんじゃないとしたら、あんたはいったい誰なんだよ。


「おいおい、いくら先生だからって訳の分からねぇ理由で姫に迫られちゃ困るぜ!」

「ですね。生徒の名前を間違えるなんて教師のやることとは思えません」


 ツンツン髪とメガネが、安藤さんをかばうように前へ出る。


「っくしゅ、どうせ王子と結託してお姫様の人気を落とそうって腹だろ?」

「……な、なな、なんのために……?」

「今までは、先生が学校で一番の美人……だったよね……でも、今は……」


 そして、くしゃみともじもじ、眠そうな男が言葉で二人に加勢した。


「あははっ、先生がお姫様に嫉妬してるって?」

「んー……でも、ありえなくもないかもね~。お姫様、綺麗だし~」


 にこにこ顔とのんびりが、さらにサラ先生を追い立てる。


 目立つ集団だからか、今までのやり取りを見ていたクラスメートがひそひそとこちらを見ながら噂話を口にし出した。


「う、うぅ……先生、そんなこと考えてないですー……」


 周囲のピリッとした空気を感じて、サラ先生はうつむいて泣きそうになってしまった。


 それを見た瞬間、俺は頭が沸騰したように沸きあがってしまう。


「てめぇら……! なに寄ってたかって先生にいちゃもん付けてんだ、勝手に勘違いして話進めてるんじゃねぇよ!」

「おぉ王子、やるってのかよ。いいぜ、かかってこいや!」


 ツンツン頭との睨み合いになる。

 額がくっつきそうなくらい近づいてきて、青筋を立てながら笑みを浮かべ始めた。


 ぅおおぉぉ、案外背も高いしすっげぇ恐い!

 180cmくらいあるんじゃないのか、どこか七人の小人の一人なんだこいつ……っ。


 だがその張り詰めた空気を切り裂くように、始業のチャイムが鳴り響く。


「みんなっ、ほ、ほらチャイム鳴ったよ! わたし、もう気にしてないからさっ、みんな仲良くしよ、ねっ……?」


 安藤さんは泣きそうな声を出して、いさかいを収めようとする。

 自分のことがきっかけで始まった喧嘩だ、気が気じゃないんだろう。


 ツンツン頭は一度舌打ちをして、自分の席に戻っていく。

 だけどなにか思い浮かんだというように戻ってきて、


「……おい王子、今度訳の分かんねぇ理由で姫に近づいたらぶっ殺すからな」


 俺に小声でそんな捨て台詞を吐いてから、スタスタと歩いていった。


「あ、赤花くん。かばってくれて、ありがとうございますー……」

「…………いえ。庇いきれたとは……」

「それでも、ありがとう、ですよー……」


 サラ先生はぺこっとお辞儀をして、力なく笑う。


「赤花くん、昼休み屋上に来てください。これからの作戦会議をしないといけません」

「はい、分かりました」


 そう言って、一時間目の授業を行うために入ってきた教師と入れ替わるようにサラ先生は教室を出て行く。

 俺も自分の席へと戻り、席に座った。


 とりあえず、昼休みまでこの落ち着かない教室で、誰も知らないクラスメートと共に授業を受けるしかなさそうだ。


 それにしても……、


 あああああああぁぁぁぁ、恐かったよおおおおっ。

 本当にツンツン頭と喧嘩にならなくて、良かった!


 それにぶっ殺すって言われちゃったよ、どうするんだよこれから。

 同じ教室であいつと過ごさないといけないのか、すげぇ気が重いぜ……。


 サラ先生が攻められているのはマジでムカついたけど……冷静に思い返してみると、もしかするとあの流れは必然だったのかもしれない。


 安藤さんが主人公で、先生は立ち位置的におそらく女王だ。


 主人公の美しさに嫉妬した女王、過不足なく白雪姫の物語に則っている。

 いや、あの流れすらも夢魔の力とやらで組み込まれたのかもしれない。


 この流れにのるべきなのか、それとも逆らうべきなのか。

 それも含めて、ちゃんとサラ先生と話し合わないとな。


 一番の問題は――どうやって、白雪さんを現実へとこの夢の中から連れ戻すのか。


 昼休みの時間まで、俺は思考をぐるぐると巡らせながら授業を受けた。



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