2:「秘密組織SANTA」
「それで、先生はなんでこの家に空き巣を?」
「だから違うんですー……。私は泥棒さんじゃないんです、信じてください」
今もまだサラ先生は鍵穴になにかを突っ込んで、ガチャガチャと扉を無理やり開こうと四苦八苦している。
……いやいや、この光景を見てあんたのなにを信じろというんだ。
「サンタって、言いましたよね」
「はい? なな、なんのことでしょう」
誤魔化しかたが下手すぎるだろ。
「とぼけても無駄です。俺はしっかりと覚えてます」
「むむ」
「それに、その学校にも着てきたことのない真っ赤なスーツ……それもしかして、サンタっぽくしようとしてるんですか」
「鋭いですね……将来は探偵になれるかもしれませんよ、赤花くん」
誰だって気付くわ、こんなもん。
クリスマスの日にそんな格好で街中を歩いていたら、十人中九人はそう答えるだろうよ。
「仕方がありません。本当は秘密にしなくちゃいけないんですよ? 内緒ですよ」
「内緒にするかどうかは詳しい話を聞いてからですね。まだ俺は先生がサンタだって信じていないので」
「この格好を見てもまだ信じてもらえていないのですかー……。なんだか疑り深いです。アピールが足りていなかったのでしょうか」
「というかその、とりあえずピッキングするの止めてください。本当に通報してしまいそうです」
よく今まで捕まらなかったもんだ。
やり始めたばっかりなのかは分からないけど、もしこの階の住人が一人でも家の出入りをしたら終わりだろう。
「通報は困りますー……だけど、止めるわけにはいかないのです」
「なんでですか?」
「仕事だからです。今日この日を逃すと、本当に大変なことになってしまうのです」
ほほう、仕事。
泥棒が……じゃなくて、話の流れからすると、サンタの仕事ってことなんだろうな。
「サンタの仕事は、人の家に忍び込むこと……ということですか」
「厳密にいえば違うです。でも始まりはそうです、私はこの家の中に入って、白雪さんを助けないといけないのです」
「……しらゆき?」
この家の人のことか。
ふと気になって表札を見ると、安原と書いてある。
『安原白雪』、それがこの先生サンタのターゲットということなんだろう。
「助けるって、なにかあったんですか?」
「ええと、白雪さんは現在、学校に来ていないのです」
「……学校って、うちの?」
「はい、一年生みたいですね」
サラ先生はピッキング行為を止め、横に置いていた鞄の中から紙の資料を取り出していた。
一年生……俺の後輩か。
名前に聞き覚えはない。運動部のマネージャーは一応知っているはずだから、運動部所属でもないだろう。
俺の知らない人。
俺と縁のない、学校の後輩だ。
「みたいって、先生は会ったことないんですか」
「私が赴任してきたころには、もう学校には来なくなっていたみたいです。というより、その調べがついたから、私は赴任してきたのですよー……」
「……はぁ、そう……ですか」
その、白雪さんが学校に来なくなったから先生はうちの学校に来た。
そしてクリスマスの夜、白雪さんを助けるために家に忍び込もうとしている。
てことは……、
「サンタの仕事は、人助けってことですか」
「はい! その通りなのです。正確に言うとですね、元気をなくしてしまった子供を助けるのが、私の所属している『SANTA』のお仕事なのですよー……」
元気をなくしてしまった子供を助ける、ねぇ。
世間的にサンタのお仕事といえば、良い子にしていたらプレゼントをあげるよ、という認識だけれどな。
「……サンタって、いったいなんなんですか?」
「『SANTA』は、簡単にいうと組織の名前です。秘密結社です」
「はぁ? 秘密結社ぁ!?」
そんな漫画みたいなもの、本当にあるのか……。
「ひゃわわっ、急に大きな声を出さないでくださいー……驚いてしまいました」
「あ、すいません……いや、というか驚くなというほうが無茶な気がしますが」
「そうかもしれません。このことを知っている人は、とても少ないのです。世界各国に支部はありますが、日本はまだ十分に活動が行き渡っているとは言えないですから」
「へぇ、そうなんですね……」
確かに、日本に洋風の文化が入ってきたのは最近のように思える。
世界から見れば、その点では遅れているのかもしれない。
日本のクリスマスって、ただ楽しく過ごす日ってだけだからなぁ。
家族よりも、恋人同士で過ごすのが多い気がするし。
一年で一番、○ムの消費量が多いと聞いたことがある。
おっとこれ以上はいけない。自重しよう。
「ええと、ですね? SANTAの正式名称は――」
Safety (セーフティ)
Active (アクティブ)
National (ナショナル)
Teacher (ティーチャー)
Association (アソシエーション)
「といいます。『活発さを守る国際的な教師の会』です。対象は主に子供です、元気をなくしてしまった子供を助けるのが、私たちのお仕事です」
「……なるほど。それで、頭文字をとって『SANTA』ですか」
「はい」
ふむ。
無理やり感はあるけれど、なんとなくだが納得した。
でもなんでか腑に落ちないことがある。
「その、秘密結社って……なんですか。なんで隠れる必要があるんですか? 悪いことしているわけでもないのに」
「……いえ、そうとも言えないのです。もちろんサンタは悪いことを止めるために動く組織ですが、ちゃんと隠さないといけないこともあるのですー……」
「それは?」
まごまごと、言いづらそうにサラ先生は告白する。
「実は私、人間じゃないんですー……。あ、半分……ですけどね? SANTAの構成員は、私みたいなのが多いんです」
――サンタは、人間じゃない。
いや、確かにたった一晩で全国を回るなんて化け物の仕業だとは思ったけれど。
実際にそう聞かされると、ハンマーで頭をぶん殴られたみたいに、驚いてしまうなぁ。
ははは、こんな展開――誰が予想できるんだっての。