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サンタ狩りスノーホワイト  作者: 志記折々
四章『繰り返される童話』
16/18

15:「犯人は」


「すみません、サラ先生はいらっしゃいますか」


 ヤスと共に登校し、安藤さんとベタな出会いを繰り返し、校内に入ったあと、俺は職員室を訪ねた。


 まずなによりも先に、先生の無事を確かめなければいけないと考えたからだ。

 3週目の世界、今回も俺は記憶を失っていない、宣言通りに先生が頑張ってくれたんだろう。


 と、いうことは宣言通りに夢魔の力も吸収され……さらに、体調もおもわしくない状態になっているかもしれない。

 早く、合流しなければ。


 それに、もう一つ重要な目的もあるしな。


「なんだか具合が悪いみたいでねぇ、授業の前に保健室に寄っていくそうよ。先ほど向かったわ」

「そう、ですか。分かりました、ありがとうございます」


 少し歳のいった女性職員が、サラ先生の居場所を教えてくれた。


 ……やっぱり、だいぶマズい状況みたいだな。

 急いで向かわないと。


「あ、れ……? あぁっ、さっきの変態!」

「…………あ、安藤さん」


 しまった!


 そういえばこのタイミングで職員室に来れば、安藤姫さんが居るんだった。

 うかつだ、そして、またもや同じ失敗をしてしまう。


 安藤さんの名前を知るというイベントを通過する前に、うっかり名前を呼んでしまうというタイムスリップ系最大のミスを。

 ……うぅ、なんて学習能力がないんだろう俺は。


 でも大丈夫、このイベントの切り抜けかたは――もう、知ってる。


「え? どうして私の名前を……ま、まさかっ」

「そのまさかじゃないよ。今日、引っ越してきたんだよね?」

「う、うん。そうだけど……」

「俺、君が入るクラスの委員長なんだ。だから名前を先生から聞いてた。安藤姫さん……だよね、気に障ったのならごめん」

「そ、そうだった、の……? なら、いいの。こっちこそ変に疑ってごめんなさい」

「いいんだ。先に誤解されるようなことをしたのは、こっちだから」


 先生、やっぱり記憶って大切だよ!

 守ってくれて、ありがとうございますっ。


「安藤さん、今朝のことはごめん。少し急いでて……あんたことをするつもりはなかった」

「あっ、いいのいいの。私もそうだったし……えへへ、謝ってくれたからもういいかな。私もさっきは失礼だったし、これでおあいこってことにしない?」

「ありがとう。そうしてくれるなら、俺も嬉しいよ」


 よぅしっ、順調だ!

 この調子で約束まで取り付けちゃうぜ?


 なんたって俺、学校の王子ですから。

 へへん、いくらここが夢の中だったって、タネが分かればこっちのもんだぜ。


 まぁ、分かるまでに2周も世界を体験しちゃったんだけどさ。


 ほんと、先生様々だなぁ。


「安藤さん、よかったら今日お昼一緒に食べない?」

「……え? いいの?」

「うん、転校初日だし、早いモノ勝ちかなって。君と、仲良くなりたいから」

「…………ひゃ、ひゃい。なら、お願いします……」

「よかった。それじゃあ、また教室で」


 できるだけキザに、格好つけながら職員室を出る。

 ちらりと横目で安藤さんの様子を見ると、ぼーっとした顔でこちらを眺めていた。


 ふっ、ふふふふ。


 イエス、好感触だっ。


 俺はもう、こんなことだって言える!

 ここは夢の中だから、この世界だと俺は王子だからっ。

 わざわざ壁ドンしなくても、頑張れば上手くいくのだ。


 それに、どうせ最後なんだ、これくらいの役得は許されるだろう。


 ――三人でこの世界から抜け出すまでの、最後のひとときなんだから。


 保健室に行くと、サラ先生は備え付けのベッドで休んでいた。

 入ってきた俺に気づくと、先生はふわりと弱々しい笑顔を向けてくれる。


「赤花くん、来て、くれましたねー……」

「はい、先生」

「状況は、分かっているでしょうか」

「全て、覚えています」

「よかったです。ギリギリ、力が保てているみたいですねー……」


 ほっと、一息ついたというように、サラ先生は柔らかく微笑む。


「赤花くん、先生の力が及んでいる今だからこそ、大切なお話があります」


 一転、先生は真剣な表情に憂いの瞳を携えて、俺を顔をじっと見つめていた。


 先生がなにを言いたいのか、なんとなく想像がつく。

 言わせたくないけれど、それも失礼に当たるかもしれない。


 先生はずっと、俺に気を使ってくれてたからな。


「実は俺からも、先生に確認したいことができたんですよ」

「なるほど、赤花くんも同じ気持ちみたいですねー……?」


 いえ、多分俺とは全然違う話だと思います。


「先生は残った最後の力を使って、赤花くんだけでも、この夢の中から助け出したいと考えていますー……」


 ほらね、やっぱり俺とは違う。


 そんなこと気にしなくてもいいって、言ったのになぁ。


「わざわざ確認を取るところが、先生っぽいですね」

「そ、そうですかー……? ええと、了承、してくれますね?」

「いえ、まったくもってダメダメですが」

「えぇっ!?」


 これは俺の目的を叶えるために行動してるんだから、俺にリスクが降りかかるのは当然だ。

 そこは甘えたくない。


 ましてやこの状況で先生に責任を取らせるのは、なんだか、とても嫌だ。


「ど、どうしてですー? 今ならまだ、間に合うんですよー……?」

「なにを言われようとも、俺一人だけで帰るなんて案は却下です。俺の意見を無視して現実に帰すなんてのも、なしですからね。そんなことしたら一生恨みますよ」


 サラ先生は、図星をつかれたという顔で、目をぱちくりさせている。


 おいおい……いざとなったら、本当にそうするつもりだったのか。

 よかった、先に言っておいて。


「うぅ、ですが、先生は大人として、仕事に無理やり付き合わせてしまっている学生さんを、危険な目に遭わすわけにはー……」

「だから無理やりじゃないですって。それに今度は大丈夫です。もう、見つけましたから」


 その言葉で、先生はすっと目を細めた。


「………………赤花くんも、気づいたんですね?」

「はい、気づきました」


 ということは、先生もか。


 凄いな、俺よりヒントが少ないはずなのに。


「ですが、今度こそ失敗できないんですよ? 白雪さんへの説得が上手くいかなければ、夢の中から抜け出せなくなっちゃいます。三人とも……死んじゃうん、ですよ?」


 ……そうはっきり言われると、俺も少し及び腰になってしまう。


 この状況で発生するリスクとは、命だ。

 それも俺のだけじゃない、サラ先生と白雪さんも合わさった――三人分の命。


 部活を励んでいたときとは違う。

 失敗すれば、膝の怪我どころじゃない……精神が夢魔に食べられてしまうのだ。


 サンタの仕事は命懸けってことか。

 さすがは秘密組織だな。


 とんだブラック企業だ。


「先生だけ帰ることも、可能なんですよね?」

「できません」


 嘘つき。


「……さっき、俺だけ帰すことはできるって言ってたじゃないですか」

「できるですけど、できないです。先生はどの道この夢の中に残ることになるでしょう。赤花くんを残していってしまうくらいなら、このまま最後まで白雪さんを助けるために動きます」

「そんな、体でですか……?」


 保健室のベットから、起きあがれないほどなのに。

 俺一人でやるよりも、成功率が低そうだ。


「人助けって言っても所詮は仕事なんですから、無理だと判断したなら自分の命を優先してもいいと思いますけれど」

「そうですねー……でも、先生も一人では帰りませんよ。赤花くんと、一緒です」


 俺と、同じ……?


「それは、なんででしょうか」

「大人だからです」

「……そう、ですか」


 あれ?


 俺、先生に『良い子』だって判断してもらおうとしてるんじゃなかったっけ。

 このまま頑張ってたら、俺は大人になってしまうんだろうか。


 ……なんだか本末転倒な気がする。


 まぁ、いいか。


「それじゃやっぱり、三人で帰る方法を探さないとですね」

「……はい! そうですねっ」


 先生の笑顔がまぶしい。

 感情表現が素直な女の人って、可愛いよね。


 サラ先生、年上なんだけどなぁ。


「俺が気づいたこと、それと先生が気づいたこと、確認し合ってもいいでしょうか」

「いいですよ、先生も間違ってるかもしれないので、ありがたいですー……」


 よし、それじゃあ思い出そう。

 俺がこの世界に来てから気づいたこと、違和感を持ったことを。


 ――さぁ、答え合わせだ。


「あいつは、初めて会ったときからずっと、正しく名乗ってはくれなかった。あまりにも自然だったから、設定だと思いこんでいたから、気づけなかった」


 終始あだ名で呼ばれていた。

 だから俺も、それに引っ張られたんだ。


 嘘を言わずに真実を隠すだなんて、大した奴だぜ。


「あの子は、先生たちの話をあまりにも早く受け入れ過ぎていました。それも不自然なほどに。普通の人はもっと、不思議がると思ったんです」


 会話から状況を学んでいたんでしょうねー……と、先生は笑みを浮かべる。


「この世界に入っても俺と先生の容姿は変わってない。だとしたら、白雪さんも変わっていないと考えた。じゃあ、なんで俺は気づけなかったんだろう」


 それは、あいつがそれを誤魔化せる格好をしていたから。

 そういう設定に俺を、引き込んだんだ。


 ていうか普通は気づかねぇよ、こんなの。


「身長と声が気にかかりました。そしてあの髪型も、相当の長さが必要なはずです。今どきの男の子にしては、珍しいくらいに」


 セットするの、どれだけ時間かかるんでしょう? と先生は首をかしげる。


「あいつは、この世界の設定を知りすぎていた。いや、あれは知っていたんじゃない……作っていたんだ。だってあいつは、この夢を見ている本人なんだから」


 でも、先生のことは知らなかった。

 先生がうちの学校に来たのは、あいつが学校に来なくなってから、だからだ。


 俺のことを知ってたのは……いや、これは自惚れかな、やめておこう。


「あの子は、リセットしているはずの世界で、前回の記憶を持ち越していました。この世界でそんなことができるのは、先生の他には一人しかいません」


 まったくもう、先生は電池じゃないんですー……と、先生は頬を膨らます。


「足が遅いってのは、こじつけかな。でも俺とトイレを一緒に行くのを嫌がったし、住所だって知られるのを慌てた様子で回避してた。夢の中でも、現実のイメージが反映されてたんだ」


 家の位置が知られたら、正体が判明してしまう。

 だからあいつは、本当は追いついていたのに、隠れて俺たちの話を聞いてたんだろう。


 走って来たはずなのに汗をかいてないから、すぐに分かったぜ。


「この物語は白雪姫です。でもベースはアニメではありません、書籍のほうなんです。だから前回、赤花くんの行動は失敗として判断されてしまいました。それはきっと、あの子が文芸部だから」


 立派なクリエイターですねー……と、先生は感心しているようだ。


「あいつは、俺の思考が脱線しようとすると、その言葉でストーリーに戻そうとしてくれた。なんのために? きっと、あいつも死ぬのは怖かったんだ。でも正体は明かしたくなかった」


 なんで言ってくれなかった?

 俺たちに話したら、たぶん望みが叶わなくなるからだ。


 まったく、水くさい奴だよなぁ、ホント。


「あの子は、常に先生たちの側にいました。演じている役のせいもあるでしょう。でも、もう一つの目的もあったんじゃないでしょうか。それはきっと、先生たちを監視するため」


 怪しかったんでしょうかー……と、先生は少し落ち込んでしまう。


「なにより、あいつは可愛い女の子のパンツに興味を持たなかった!」


 そう、これは絶対におかしい。

 思春期の、年頃の男がそんなこと、絶対にあり得ない。


「……そ、それ……必要な情報ですかー……?」

「はい、これで確信したと言っても過言じゃないですね。先生は、なにがきっかけで気づいたんですか?」

「…………あの子が、女の子の目をしていたから、でしょうかー……」


 ふんわりと微笑みながら、先生は両の手のひらを合わせている。


「女の子の目、ですか」

「はい。『王子様』が好きじゃない女の子なんて……現実でも夢の中でも、いませんから」


 ……そっか。

 あいつも、女の子なんだなぁ。


「やっぱり、答えは一緒みたいですね」

「はいー……、そうみたいですね。赤花くん、物語の最後に、キスの代わりになにをすればいいのか、分かりますか?」


 あぁ、アニメじゃなく、書籍版での解決方法ってやつか。


「多分ですが、あいつもヒントをくれましたしね」

「……そうですね。それに、この世界での白雪姫が食べたのは『毒りんご』じゃないみたいですから」


 そうか、そうだったな。

 喉つまりに効くのは、キスじゃないよな。


「先生は、昼休みまでに起きあがれそうですか?」

「……難しい、かもしれません。とっても心苦しいのですが、赤花くん……」


 だよね。

 見るからに、先生の状態は悪そうだし。


 だとしたら……やっぱり、俺が頑張るしかなさそうだな。


 不思議と、嫌な気持ちはまったくないんだ。

 むしろ嬉しいかもしれない。


 あいつの役に立てることが、俺は素直に嬉しい。


 それに、あいつには恩がある。

 この世界で俺が心細くなかったのは、あいつがいたからだ。


 今度は俺が、力になるよ。


「任せておいてください。俺がきっと、あいつを説得してみせます」

「ふふ、すっかり王子様が、板についてますねー……格好良いですよ、赤花くん」


 うっ、は、恥ずかしい……!


「で、では、俺はもう行きます」

「はい、頑張ってください。お任せしましたよ、赤花のトナカイさん」

「……サンタの助手ってことからですか」


 上手くないですよ、サラ・クロース先生。


 ふぅ、さてと……まずはりんごを買ってこなくちゃな。


 保健室を出て、手を伸ばして体をほぐす。

 俺は授業をサボって、一旦学校の外へ出た。




「――んぅぅっ、う、くぅ、ぅ……」


 昼休み、安藤さんは俺が渡したりんごを食べて、喉をつまらせてしまう。


 一日目でも、ちゃんとイベントは発生するんだなぁ。


 うん、ここまでは順調だ。

 だけどこれ……俺が魔女になっちゃうんじゃないか?


 ま、些細なことか。


「兄貴ぃっ、なにが起こったっすかぁ!?」


 ヤスが、扉を開けて駆け寄ってくる。

 サラ先生は、やっぱり体調が思わしくないみたいだ。


「姫ぇ! てめぇ姫になにしやがった王子こらぁ!」「あははっ、み、みんな心配しすぎだよ~、お姫様っ、しっかり!」「どうなされたのですか姫!」「お姫様~、なんで倒れたの~?」「お、おおお姫さまぁ、死んじゃやだよぉっ」「っくしゅん、だいじょうぶっ!?」「ヒ、メ……っ」


 続いて、七人のイケメンたちも入ってきた。


「しっかり! 大丈夫っすかぁっ!?」


 ヤスが安藤さんに寄り添って、安否を確かめ始める。

 七人のイケメンたちは、倒れてしまった安藤さんの周りでうろたえていた。


 ――よし、条件は全て揃った。


 ここから、だな。


「兄貴、なにぼーっとしているっすか!」

「……悪い。ちょっと考えごとしてた」

「考えごと!? こんな状況でっすか? 見損なったっすよ!」


 そう怒鳴ってくれるな。

 悲しい気持ちになってしまう。


「もういいっす、オイラが転校生さんを運ぶっす!」


 そう言って、ヤスは安藤さんを負ぶさり、よろよろと立ち上がる。


「どこに、運ぶんだ?」

「保健室に決まってるっすよ! なに言ってるんすかっ」


 この台詞を聞くのも、3回目だな。


 ……ここだ。

 ここで失敗したら、先生が記憶を残してくれた意味がない。


 よし、行こうか。

 王子としての役割、そしてお前に『従者』としての役割を果たさせてやる。


 ヤスが扉に足を踏み入れる前、その前に、俺は駆け出す――


 やっぱりいいな、この世界は。


 走ることができる。

 ここは夢の中だから、運動しても俺の膝は悲鳴を上げない。


 だから、こんなこともできるんだ。


 ――あぁ、嬉しいなぁ。


「カニ挟み!」

「ぅわわわぁっ!?」


 ヤスは転んだ。

 背中に負ぶさった安藤姫さんと、一緒に。


 すると、


「な、なにするっすかぁっ」

「――ぅげほっ、かっ、はぁ、ぁ……あ、れ、わたし、どうして……?」


 お姫様が、喉につまったりんごを吐き出した。


「姫、心配させんじゃねぇよっ」「お姫様っ、よかった、あははっ」「姫、よくぞご無事で」「お姫様~大丈夫~?」「お、おお、お姫さまっ、よかったよぉっ」「ぅっくしゅっ、ま、大丈夫だって信じてたけどさ」「ヒメ……よかった」


 七人のイケメンたちは、大はしゃぎでその無事を喜んでいる。


 ヤスは、口をぽかんと開けてその様子を確かめたあと、俺にキッと視線を向けた。


「あ、兄貴……助かったから良かったものの、あれは危険ですよ」

「バレバレの演技はやめろよヤス。もう全部分かってるから、誤魔化さなくてもいいぜ」

「……な、なんのことっすか?」


 はは、うろたえてる、うろたえてる。

 まったく、可愛い奴だぜ、お前はよぉ。


 こう思うのも、お前が女の子だったからなんだな。


 ……よかった、俺に男色の気がなくて。

 少し心配だったんだ、心底ほっとするよ。


「お前を迎えに来たんだ、現実に帰ろうぜ――『安原やすはら白雪しらゆき』」


「…………え、なんで……名前……」


 これが、先生が持っている夢魔の力を奪い、この世界を形成している犯人の名前だ。

 白雪姫の物語をベースにした乙女ゲームの世界を創り、その夢の中に閉じこもった。


 物語の主人公じゃない、『作者』だったんだ。


「俺はお前の兄貴分だぜ? 知ってて当然だろ」

「だ、だって……、一度も話してない、っす」


 おい、お前いま一瞬、口グセ忘れてたろ。

 動揺しすぎだろ。なんだか、むずむずしてくるじゃないか。


 まぁ、もっと追いつめるんだけどな?


「ぁ、や……やだ……」


 俺が近寄ると、ヤスは少しずつ後ずさっていく。

 ぷるぷると震えて、なんだか小動物みたいだ。


 おいおい。

 その先は、行き止まりだぞ……?


 ガシャンと音を立てて、フェンスに勢いよく手をつけた。

 ――手の横には、もちろん『ヤス』の顔がある。


「あ、うぅ……兄貴、か、お、ちかいっすぅ」


 ……そ、そういう技だからな。

 お前こそ、顔赤いよ。そんな表情するな、俺も恥ずかしくなってくる。


 いや、照れてる暇なんかない。

 ちゃんとやらなければ、俺は絶対にお前を現実へ連れて帰るんだ。


「近くしてるんだ。耳元で、ささやくんだろ」

「…………あっ、うぅ、ぅ……」


 まったく、従者なんて役を演じてるから、気づくのが遅れたじゃんかよ。


 だけど、安心してくれ。

 今からお前を――『お姫様』に、してやる。


 俺はいま、『学校の王子』だからな。

 お前が教えてくれた必殺技、使わせてもらうぜ。


 女の子のお前も、憧れているものなんだろう?


「話してくれ。なんでこの夢の中に閉じこもってるのか……俺はお前のことが、知りたい」

「……ひゃ、ひゃい」


 俺は意気揚々と、ノリノリで――リーゼントの小柄なヤンキーに『壁ドン』する。


 ……なんだか、しまらない絵図だなぁ。



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