とある少女と人喰いのはなし。
お気に入りユーザー222人を記念しまして、ダークな童話を一つ。
おれは、ひとくいだ。
うまれたときからそうだったらしい。
きづいたときにはまわりにだれもいなかった。
ニンゲンがたくさんいるところにいって、
ぱくり、
くちをひらいて、
もぐもぐ、
とかんでのみこむ。
そうするとニンゲンが、おれをひとくいだっていう。
だからおれはひとくいだ。
おれはいつも、ニンゲンのまねして、いただきまぁす、っていって、ぱくり。
あるひ、かわでみずをのんでいると、ちっちゃいニンゲンがやってきた。なんかいれものをもってる。みずをくみにきたのだろう。
あれ、ニンゲン? あしにへんなジャラジャラがついてる。
うん、でも、たぶんニンゲン。
おれがゆっくりちかづくと、ニンゲンはふりかえる。
おれが、
「おれはひとくいだ、だから、おまえをたべる」
っていうと、ニンゲンはおどろいて、
「あなた、ことばがはなせるのね」
っていった。
「だからなんだ」
おれはいらいらした。
「まって」
ってニンゲンはいう。
そのこえが、ぜんぜんこわがってないから、おれはなんだかもやもやして、
「なんで?」
ってきいた。
「わたしは、ひとじゃないよ」
「ひと?」
おもわずくびをかしげる。
「ニンゲンのこと。わたしは、ニンゲンじゃないよ」
おれは、うそだっていった。
うそじゃないよって、ニンゲンもどきはいった。
「わたしはドレイっていうんだよ。ドレイはニンゲンじゃないんだよ」
うそだ、っておれはまたいった。
「このくさりをみてよ。ジャラジャラってなるこれ。ニンゲンみたいだけど、これがついてるのはドレイなの。
ニンゲンはいったよ、『おまえはニンゲンじゃない、ケモノいかのドレイなんだ』って」
って、ドレイはいう。
ふうん。
ケモノいかっていうなら、たしかにたべるかちはない。
「あなたはひとくいなんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあ、ドレイをたべたら、おなかをこわしちゃうかもしれないよ」
ドレイは、ふつうのこえでいった。
ニンゲンがいつもたべるまえに、
「たすけてくれ!」
っていう、みみざわりなこえとはおおちがい。
たしかにおなかをこわすのはこまる。まえにへんなきのみをたべて、おなかがいたくなった。
たいへんだった。
じゃあ、ドレイをたべるのはやめにしよう。
ドレイのいるところに、ニンゲンがいるようだし、ニンゲンがいちばんうまいから、ニンゲンをたべよう。
「ニンゲンはどこにいるの?」
「こっちだよ」
ドレイはあるいてく。おれはついていく。
いた。ニンゲンがいた。
おれは、いただきまぁす、ちゃんとそういって、かたっぱしから、ぱくりぱくりぱくり。
ドレイはこまったかおで、それをみていた。
「ねえ、これからどうするの」
ドレイがきいてきた。
「どこかにいって、にんげんをたべるよ」
おれはいった。
「つれてって」
ドレイはいう。
「ドレイはあんまりニンゲンと、おはなししちゃあダメだけど、ひとくいとならおはなしできる。わたし、あなたとおはなしするの、とてもすきみたいよ」
おれもきらいじゃないみたい。
でも、
「おなかがすいたら、おれはおまえをたべるよ。ニンゲンいなくて、おなかがすいたら、いたくなってもいいから、ドレイたべるよ」
ニンゲンは、たべられることいやがるし、ドレイだってそうだろう。
そうおもっていってやった。
だけどドレイはわらった。
「いいよ、たべても」
おれは、なんでってきいた。
ドレイはニコニコしたまま、いう。
「ニンゲン、たくさんケモノをたべるよ。だから、ひとくいにたべられるよ。
ドレイも、ときどきケモノをたべるよ。だから、ドレイだってきっと、ドレイくいにたべられる。
……それがひとくいでも、おんなじことだよ」
おれは、なんだかなっとくした。
だから、ジャラジャラ、うるさいものをゆびさして、
「これがとれても、ドレイはドレイ?」
しつもんのいみがわからなかったのか、ドレイはくびをかしげる。
「これがあるからドレイなら、これがなくなったらニンゲンになるの?」
そしたらおれは、ドレイも食べるべきなの?
……そのことばは、なんだかいえなかったけど。
「ううん、きっとドレイだよ」
じゃあじゃまだ、っておれはかみついて、くだきはずした。
くだけたそれをみて、ドレイはびっくりしたようだったけど、
「いこうよ」
っていったら、
「いこうか」
っていって、てをだしてきた。
とまどうおれのてに、ドレイはそのてをかさねた。
あったかくて、やさしくて。
なんだか、むねのあたりがあたたかかった。
——これは、一つの出会いのお話。
少女は人喰いと出会って自由を得て、
人喰いは少女と出会って温もりを知った。
これは、全ての始まりのお話。
感想など、頂けると嬉しいです。