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子作りしましょう?  作者: ユウ
Prologue of story.
8/15

      (2)

 私は馬鹿だ。

 それを思い知った。大事なことだからもう一度言おう。私は馬鹿だ。とにかく馬鹿だった。


 本当なら、リーンの話を聞いた時点で思い当たるべきだったのだ。

 一人の“キサキ”が、五人の重役の子供を一人ずつ産む。そしてその子供が、次代の重役として就任する。

 ということは、今の五人だってそんな風にして産まれたということだ。今までも“キサキ”が居たのかどうか、その辺りの事実がどのへんにあるかは置いといて。

 一人の母親から五人の子供。ずっとそうやって産まれてきたのが、彼ら(ということになってる)。


 そりゃあ兄弟だよ! 同じ母親から産まれたって言い張ってるんだから、兄弟だよ! 例えどれだけ似ていなくとも! なんで今までそこに思い至らなかった、私!


「……大丈夫か?」


 と心配そうに訊ねたのは、青い髪の彼。上から数えて四番目。このでかい図体では信じられないが、リーンの兄でありながら三人の兄を持つ身の上らしい。

 …………まあ、言われてみれば弟って雰囲気も分からないでもないけどな。なにせ、忠犬だし。無口忠犬タイプだし。


 此処は、王都でも人気のレストラン。とは言っても高級な雰囲気のものでは無く、庶民向けと言った誰でも気兼ねなく来れるような場所だ。今もランチ時でわいわいと賑わっていて、そこの端の席に私と青髪は居る。

 明らかに疲れている私を気遣い、少し早目にお昼を摂ることにしたのだ。


「うん…………いや…………。…………ねえ、ほんとに兄弟なの? 血が繋がってないとか?」

「いやそれはない。間違いなく、俺たちは同じ母親から産まれた種違いの兄弟だ」


 ここまでばっさり言い切られてしまっては、これ以上追及できない。「嘘吐け!」なんて口が裂けても言えない。正常な判断が下せてない人にそんな無茶を言うような、そんな無謀な人間じゃありませんから、私。これでもね。


「それで、ええと、リーンが末っ子で…………その上が?」


 あんただよね?


「俺だ。次の兄がアシュトン兄さんで、その上がメイナード兄さん。長男がカールハインツ兄さんだ」


 うん、まとめます。

 上から、“国王”“魔師”“宰相”“騎士”“書庫”。

 色で言うなら、金、緑、赤、青、黒の順番。

 ついでに名前で並べると、カールハインツ、メイナード、アシュトン、クレーメンス、リーンハルト。


 ま、覚えられるわけないよね。こんな長くてカタカナの名前なんて。

 …………そうだ。リーンみたいに、五人とも呼ぶときは縮めて呼ぼうかな? その方が覚えやすい気がする。


「えっと、貴方の名前ってなんだっけ?」

「……クレーメンスだ」


 クレーメンス…………クレー、メンス、レーメン。……や、最後のは無いな。某中華麺を思い出す。

 うん、クレー。ここは分かり易く、名前の最初を取って『クレー』でいこう。


「それじゃあ、私これから貴方のことクレーって呼ぶから」

「は? 何故?」

「長いし、呼ぶの面倒だから。愛称だと思って、快く受け入れてよ」

「…………愛称、とは?」


 へ?


「愛称? あだ名のことだよ。知らないの?」

「知らない。俺の知る限りでは、他人の名前を縮めて呼ぶ習慣はこの国には存在しない」


 ってことは、無いんだ。どんなに長ったらしい名前でも、親しい間柄でも、きちんとした名前で呼び合うの?

 なんで? 面倒じゃないの? ひょっとして、神様の教えとかで名前は神聖なものだから崩しちゃ駄目、とかあるのかな。そういう感じの理由はありそう。なんせ神様の国だしね、此処。


「ふーん。私の国ではあるよ。結構気軽に、相手に呼びかけるとき、親しみを込めてあだ名で呼び合うの。もしかして、嫌だった?」

「いや、別に。深い意味がないなら、どう呼んでも構わない」

「そう? それじゃ、そう呼ばせてもらうね」


 ――――閑話休題。兄弟の話に戻らせてもらおう。


「………………本当に、兄弟なのね?」

「ああ、本当だ。…………どうして、そんなに落ち込んでいる? 兄弟だと、何か不味いのか?」

「不味いに決まってる! 兄弟だよ? 兄弟全員とヤって子供産むなんて、そんなの有り得ない! 倫理に背く行為!」

「……そうか?」

「そうだよ!」


 なんてこと! この程度の倫理観さえ存在してないなんて!

 説教をしようと息を吸い込んだところ、ウエイトレスさんが一人近づいてくるのが視界の端に映った。気にせず怒鳴りつけても良いが、こんなところで喧嘩なんて醜聞以外の何物でもないし、何より恥ずかしい。説教は後からにしよう。


「“香草と赤い実のパスタ”のセットと、“牛肉のステーキ定食”です。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「ああ」

「ごゆっくりどうぞ」


 香草と赤い実のパスタ。それが私の前に置かれて、それと一緒にデザートらしきヨーグルトの器とサラダの器が置かれる。

 その向かい側には、牛肉のステーキ定食。定食と銘打ってあるものだから、どんぶりご飯と味噌汁、とかそういうのを想像していたのに、実際は全く違った。まず米でなくパンだった。定食なのに。白い皿に牛肉のステーキがでかでかと乗り、彩を気にしてか肉の脇に申し訳程度の野菜。半透明の野菜スープ。


 これを決めたのはすべてクレーである。メニューを見て、勿論私も選ぼうとしたのだけど、文字が読めなかった。だから、仕方がないので適当に選んでもらったのだ。

 …………彼は、何やらリーンのメモを見ながら選んでいたようだが。別になんでもいいのに。


 さて、問題のパスタのお味だが。

 赤い実というのは最初トマトに見えたのだけど、食べてみると少し味が違った。甘酸っぱいの酸っぱい部分が薄く、苦味が混ざったような…………。何とも評しがたい味である。

 でも意外にもよく香草と合っていて、一緒に食べればなかなか美味しかった。パスタのソースも、食べたことない味ながら結構イケた。これぞ絶妙、と言うのだろうか。


 店に入ったときの不機嫌はどこへやら、美味しいパスタに満足し、意気揚々と店を後にした。お金はクレー持ち。まるでそれが当たり前とでも言った感じだったので、お礼だけ言って余計な遠慮は止めた。実際、お金ないからそれしか無いし。

 そして向かったのは、リーンおすすめだと言う王都の公園。既に聞いていた通り確かに観光業で賑わっているらしくて、土産や手軽に食べられるファストフード的なものなど、屋台が立ち並びいろいろなものが売っていた。

 そして目玉はやっぱり、中央でひときわ目立っている噴水。

 日本には欧米諸国に比べ噴水が少ないと聞いたことがあったけれど、確かにそうだったのだと思う。私だって日常の中で噴水と触れ合う機会はそうなかったし、あったとしてもこれほど派手なものじゃなかった。


 とにかく規模が違った。なるほど確かに、これは一目見る価値はある。これ目当てに観光客が集まるわけだ。

 クレーの説明を聞くには、時間によって噴水の水でパフォーマンスをすることがあるらしく、そのときにはこの広場が人で溢れかえる、と。


「そんなに観光客が来るの?」

「その時は観光客だけでなく、町の人間も集まるんだ。担当する魔師によって毎回パフォーマンスも変わるから。もちろん、観光客もぐっと増えるんだが」


 担当する魔師、とな?


「ああ、魔法によって水を動かすからな。どんなふうに観客に演出するか、すべて魔師の腕一つなんだ」


 ふーん……? 演出担当の芸術職ってことか?


 だが今日は、パフォーマンスの予定は無いそうだ。残念。

 クレーはそんなしょんぼりした私に気を使ってくれたみたいで、屋台に売っていた『たこ焼き』のようなものを買ってくれた。ようなものと言っているのは、『たこ焼き』の中に、一番大切な『たこ』が入っていないからだ。たこの代わりにチョコのような甘いものが入っていて、ソースも青のりも存在しない。丸さと生地だけがそっくりの、あくまで『ようなもの』だった。


 でも、まあ、これはこれで…………。

 それなりに満足しながら頬張っていると、なんだか視線を感じた。ふと隣を見れば、やっぱりクレーが私を見ている。しかも無表情で。こええっての。


「何?」

「いや。こちらの世界の食べ物が口に合ったようで良かった」

「これのこと?」

「そうだ。それはこの国の名物なんだ。それ目当ての観光客も大勢いる」


 そんな有名なものだったのか、あのタコヤキモドキ…………。


「歴代のキサキの中には、こちらの味付けを好まず、食が細くなった女性も居たと言う。だが、どうやらその心配はなさそうだ」


 そりゃ、私の食い意地が張ってるって意味か? 余計なお世話なんだよ!


 しかし、一人でタコヤキモドキを全部食べた。美味しかったですよ。すっごく美味しかったですとも! 今度はタコヤキモドキじゃなく、あそこで香ばしい匂いをさせているお肉が食べたいです! 悪いかっ!


「それで、次はどこに行く?」

「え? 決めてないの?」

「ああ。リーンハルトのメモにも、此処で散歩をする、としか書いてなかった」

「そっか。ねえ、ほんとに私の好きなところに行ってもいいの?」


 土地勘ないし、適当なところに行って、楽しくも無い散策に付きあわせてしまうかもしれないぞ。それでもいいの? どこか行くところがあるなら、私の方が付き合うけども。


「当然だ。どこへでも、好きなところへ行ったらいい」



 結局、クレーからストップのお声がかかるまで、彼のその言葉に甘えさせてもらったのだ。






 陽が傾き、クレーが馬の上で何気なく、独り言のようにぼそりと呟いた一言。

 今日の市街探索、それなりに楽しんでいたのだ。帰り道にその余韻に浸るくらいには。


 けれどその楽しい気分を、彼の一言が、一気に消滅させた。



「少なくとも五年はこの世界で生活することになる。食べ物が口に合うのに越したことはないな」




 彼に罪は無い。悪気も無い。分かってる、分かってるけど、でもさ――――――


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