No.05 「相手、してほしいのか?」 (1)
※今回の話は、かなり下ネタが酷いです。
苦手な方は気を付けてください。
時計の音がやけに大きく響いているような気がする。浮かび上がってはまた沈む、それを繰り返すような静寂と音。
ここは綺麗な部屋だった。広く豪華な、この城の一室だった。
目の前には赤い髪に赤い目の男。忘れたくても忘れられない。ココに来た初めの日、混乱していた私に無理やり、キ………………ごにょごにょ、なるものをしてきたやつである。
そしてその彼は今、無表情無言で、手元にあった本を読んでいる。向かいのソファに座っている私など、最初から眼中にない。当然、私は手持無沙汰である。
アレー? 可笑しいな、なんでこんな状況に? 今日の話し相手として、リーンから紹介されたんじゃ無かったカナー?
朝、目覚めたところまではいつも通りだった。その後、ミュゼさんに頼み込んで朝食の準備を手伝わせてもらったところも、普通だった。で、リーンが来たと言われ、毎日の事だから私も何の疑問も持たず会いに行き、そこで、この赤い男を紹介された。
『この人は、僕の三番目の兄さんだよ。赤い髪赤い目は“宰相”の印。名前はアシュトン』
はあ、私は百崎桃です。そんな言葉を発する間も無く、リーンの言葉が終わるやいなや立ち上がってどっか行こうとしたアシュトン。
行くぞ、と一言言って、私を見ることも無く立ち去ろうとしてしまった。
え? は? 何それ、どうしたらいいの、ついてったらいいの?
助けを求めてリーンを見れば、苦笑して「頑張って」とのたまいやがった。はあ? 「頑張れ」? こいつについて行くと頑張らなくてはいけない事態になるのか、いったい何を頑張ればいいのか、そこら辺を詳しく説明しやがれオマエ。
そう小一時間ぐらい問い詰めたかったけれど、リーンの早く行けというジェスチャーや、早く来んかい何やってんだこのアマ、と雄弁に語る赤い男の目に負け、仕方なくついて行くことにした。
さて。そして一つに部屋に案内され、冒頭に戻る、というわけだ。
会話をするでもなく、私に何か指示を出すでもなく、ただひたすら私の存在を消し去って分厚い本を読むだけ。対し私は完全に暇を持て余してるわけだ。本は他にもいくつかあるけれど私はここの文字を読むことはできないし。マジですることない。どうしろって?
チッチッチッチ。
時計は部屋に一個、壁に掛けられた大きな振り子時計だけだった。私の顔三つ分以上はあるに違いない。デカいだけあって、音も大きい。秒針が刻む規則的な音は、この広い部屋全体に響いていた。
チッチッチッチ。
空気が重い。一秒が酷く長く感じる。
一番苦痛なのは、この男の意図が分からない、ということだ。行くぞと言ったのは彼なのに、私のことなんて知らんぷりでいる。
すごくストレスだった。そして多分長くは無い時間が経った頃、ついに私は我慢が出来なくなる。
「ちょっと、何やってるのよ」
「見てわかんねぇのか? 本読んでんだよ」
あ、返事してくれた。無視されると思ってたんだけど。
「そうじゃなくて、何で本を読んでるの? 私の相手するために此処にいるんじゃなかったの?」
「何だよ? 相手、してほしいのか?」
「いや、別に」
「じゃあ問題ねぇだろ」
「それは別にいいけど、ひたすら暇なの。暇をつぶせる何かが欲しい」
「知るかよ。その辺の本でも読んでたらいいだろ」
「そうできたら既に読んでる。私はこの文字読めないって、知ってるんじゃないの?」
「ああ、そういやそうだったな。だったら他に何か暇をつぶせるもの勝手に探せよ」
「この部屋でどうやって。出てって良いの?」
「それは駄目だ。今日一日一緒にいろって命令されてるからな」
「一日篭ってる気?」
「問題あるか?」
「あるから文句言ってる。暇なの。読めない本しかない部屋は、地獄のように暇なの」
「しゃあねえなぁ。じゃあ、音読してやるか?」
にや、と笑ったアシュトン。嫌な予感がする。まだ数分の付き合いだが、性格はすでに大体読めている。この男がそんな親切な真似をするわけがない。更にはその笑顔。絶対何かある。うーわ、嫌だ。いいよ音読しなくて。
「『少女は泣き叫び許しを求めたが、言葉を解さない怪物は決して止まることは無かった。幾つもの触手が彼女の服を裂き――――――』」
わーわーわー! やーめーろー!!
「何で止めるんだよ。まだ全然進んでねぇだろ」
「話の先が見えたからよ!」
それはいわゆる、男性向け官能小説という奴ではないか。しかも触手モノ? マニアックにもほどがある。
一応この間十八歳を迎え、こういうものはすでに法律上解禁されている私だが、それでも好き好んで読む趣味は無い! ましてや音読! こいつ、さては変態か!
「馬鹿じゃないの! なんでそんなもの読んでんのよ、音読してんのよ!」
「なんでって。しろって言ったのお前だろ」
「言ってない、断じて言ってない! そもそもそんなの、女の子の前で読むもんじゃないでしょう!」
「あ? そんなの俺の勝手だろうが」
マナー、というものを知らんのかこの男は!
「っていうか、そんなの読んでて楽しいの? 女の子の前で音読して楽しいの?」
「楽しい」
「この変態!」
「失礼だな。お前と楽しくお話、なんてことしてるより、いやらしい本読んでる方が数倍楽しいってことだよ」
「まずその意見は私に失礼だし、そもそもいやらしい本である必要性はどこにある。小難しい本だろうが爆笑する本だろうが、何だって良いはずだろうが」
「そんな本つまんねぇ」
ああそうですか。ようはあれですね、あんたがオープンスケベだったというだけの話でしたか。なんだこいつ。やっぱり私嫌いだ。
「ふーん、あんたがエロ本をねぇ……?」
「あ? 男がエロ本読んで何が悪いんだよ」
「別に悪かないけど。…………いややっぱ悪い。主にそれを女の子の前で堂々と読んでる辺りが悪い」
「しつけーな。もっとさらっと流せねーのかよ」
「一言謝れば私だってねちねち言わない!」
すると、彼は明らかに不機嫌になって、舌打ちをした。こいつ、ほんとに感じ悪いな。ついでに性格も悪い。しかも口も悪い。悪いの三拍子! 顔が悪くないのが唯一の救いだな、うん。
“宰相”って言うから、もっとこう、真面目な人間を想像してたんだけど。そうそう、それこそメイさんのような。それとも私の偏見なのかな? 小説で得たイメージだし、間違ってる可能性は限りなく高い…………けど、まさかこのアッシュがこの国を動かしてるなんて信じられない。
あ、ちなみにアッシュってのはこいつのあだ名ね。アシュトンだからアッシュ。本人に許可取ってないけど、別に良いよね。
「なんで男って、そういうの好きかな…………」
ちなみに、私の弟もこういう系の本、持ってた。勿論こんな官能小説じゃなくて、写真がメインのよくあるエロ本。それを思いがけず発見してしまい、私は知らないふりをしてあげたけど、個人的にものすごく気まずかった。私がこの話に過敏なのは、処女の所為でもあるだろうけどそれの所為でもある。
「ああ? 良いだろ別に。いい加減しろよ、うぜーぞ」
「だってさ、みんな読むんだよ。なんで? 女だって性欲あるけど、読まない人の方が多いし。何の違い?」
「女は知らなくたってぶっつけ本番でなんとかなるけど、男はそうはいかねぇだろうが。予習しとかねぇといけねぇんだよ」
うわ…………。なんか生々しい。
「まあそうじゃない場合も多いけどな。俺の場合は、いわゆる『オカズ』ってやつだよ。お前もいるか?」
お前ほんと黙れ!
えー、私はいわゆる耳年増というやつで、諸事情により下関係の言葉の語彙量は多い。何の自慢にもならないと言うか、大きな声で言えないけどな!
『オカズ』という言葉も、勿論知ってる。ここではあえて説明しない……………………うん、説明しない。気になる人はこっそりググってみよう! 間違っても親に訊いちゃいけないよ!
で、その言葉からはじき出されることは、ひとつ。このアッシュは、不特定多数の女性に興奮することができるってことだ。もっと別の言い方をするなら、キサキ以外の女性とも子供ができるような行為をすることができるということ。
んんー? たしか、この五人って“キサキ”としか子供をつくれない…………はず、だよね? ってことはアレだよねぇ、キサキ以外には性的興奮を覚えないとか、そういう話なんじゃないの?
でも、普通にエロい本読んで『オカズ』にしてる…………。あれぇー? てことはやっぱり、あの設定は嘘ってこと? キサキなんて必要ないってこと? じゃあ私がこうして誘拐された意味は! どうなのよ!
「ねえ、アッシュ………………あんたたちって、もしかして勃つの?」
…………。『勃つ』とか…………。女子高生が使う単語じゃないのに言ってしまった辺り、こいつに毒されてる気がしなくもない。




