愛と憎しみ
愛と憎しみは紙一重だなんて
よく言ったもんだと思う。
可愛さあまって憎さ百倍だっけ?
そんなことわざだかなんだかもあったしな。
なんでそんなこと思うかっていうと、
今、俺の目の前には死体が転がってるからだと思う。
目の前にある生気を失くした肉の塊は
かつて俺が愛したやつだった。
俺が全力の愛をそそいでこいつに
さんざん貢いでやったのに
この女は俺をなんとも思ってなかったという。
ただの友達だとさ。
ふざけんなっていう話だよな。
お前だって俺のこと
なんでも話せるとか好きとか言ってたのにな。
あれは嘘だったのか。
それがわかったとき
俺はこいつが無性に憎くなった。
殺したいと思った。
だから首をしめてやった。
いつのまにかこいつは抵抗することもなく、
口からよだれをたらし小便を漏らし
動かなくなっていた。
こいつはなんて言ってたっけな?
俺のこと気がくるってるとか
頭がおかしいとか言ってたっけ。
まあ、今となっちゃどうでもいいけどな。
警察のサイレンの音が近づいてくる。
そっか、俺がさっき電話したんだっけ。
これで俺の人生も終わりか。
まあ、ムショ暮らしもいいかもしんねえな。
俺みたいなクズはムショがお似合いだろう。
おっと警察が入ってきた。
じゃあな。
俺は連行されていった。
「聴取を始める。名前と性別は?」
「俺は本田恵子。生物学上は女。」
「なぜ殺した?」
「あいつを愛してたからだ。」
「愛してる?お前は女だろ?」
「性同一性障害って知らねえの?
俺はあいつを愛してたよ。憎くなるくらいな」
「愛してたのになぜ殺した?」
俺はにやりと笑って自信たっぷりに
こう答えてやった。
「愛と憎しみは紙一重なんだよ、オッサン。」