目覚まし[ショック]
神木はゆっくりと椅子から体を起こす。立ち上がり、秘書兼事務係の席でのんきに眠りこける冴岸 夏美へ近付いていった。
その年の割に幼さと無邪気さを感じる寝顔をみて、神木は優しげな微笑みを浮かべると愛おしそうに。
その座席を全力で蹴り上げた。
ガタンッという音と共に椅子が揺れ、夏美が飛び起きた。
「イタッ! なっ何するんですか、このオッサン!?」
「オッサンじゃねぇよ! 今週の電話番お前だろうが! 仕事の電話を俺が取ったんだぞコラ!」
夏美は寝ぼけた頭をかきながらあくびをした。
「はぁ、仕事の依頼なんてうちは人探し専門なんだからほとんど来ないじゃないですか。どうせ断ったりするんなら誰が取っても同じですよ」
「興信所じゃねぇよ、メンジンがらみだ。柿本のオッサンからきたんだよ」
「え、あのクモオヤジからですか? ていうことはまたメンジン探しですか?」
「ああ、そうだよ、つうかクモオヤジって…… お前結構ヒドいあだ名つけるんだな」
「資料はまた茜木さんに?」
「ああ、あと一時間位で来るらしいが」
夏美の机に置かれた彼女のケータイから、神木にはいまいちわからない最近の流行りらしい歌が流れる。
「あっ! ネギさん? あっはいはい、今録郎さんから聞きましたよ、あっはい」「ネギさんあと五十分くらいで来るそうです」
神木は怪訝な顔で尋ねた。
「あのよ、ネギさんって……?」
「茜木さんのあだ名ですよ」
「あいつアカネギていうと怒るだろうが『アカネキです』って」
「それは禄郎さんをシメるための言い訳にしているだけで、本当はわりとどうでもいいそうです」
こともなげに言い放つ夏美。
「……ああ、そうかい」
「それより禄郎さん早めにやっとかないといけない仕事があるんですよ!」
「なんだよ?」
「お茶菓子用のケーキ買ってきて、ダッシュで」
「お前がいってこいや!!」