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三人組[ターゲット]後編

 お待たせしました。

 互いの距離は前と同じ、六メートル程。二度の同じ状態からの対峙、しかし条件は互いにそれぞれ違って来ている。


――間合いはほぼ掴んだ。後はどうズラして懐に入るかだな。

 緊張感、あるいは殺気という濃いタールが漂う空気。それをバターを切り裂くナイフのようにゆっくりとした動作で、カグツチは身を屈めた。

 両手で床を力を込めて掴み、右足をたたむ。後ろに下げた左足を伸ばし、爪先を床に固定。上半身を低く構え、赤の双眼でトツカノツルギを見つめる。

 いわゆる陸上競技におけるクラウチングスタート、人類の行う最も早く走る為の最初の姿勢。


「ッ!――――」

 カグツチの取る体勢から思惑を察したトツカノツルギも相応しい対応カウンター を返す《決める》ため、構えを変えた。

 両刃を上段に向け、飛び込んだカグツチを完全に斬り捨てるために感覚を研ぎ澄ます。



「行くぞ、ロクショウッ!」


 気合いと共に右足に力を込め、前へ飛び出す。

 その一歩目が床に着いた刹那、先程のクラウチング時にこっそり『分解』の能力で削り取った床材の一部をトツカノツルギ目掛け右と左で二発、素早く投擲する。


「ッッ!!」


 トツカノツルギは反射的に右の手刀で二発を切り払い、左の手刀を温存した。

 カグツチは二歩目から三歩目への跳躍を少し抑える。その両足に能力を発動、床に足を着けた。

 原子分解により一瞬で粉状になる床材、着地の衝撃を吸収し、床材の粉末が盛大に宙を舞う。

「――っ何!?」

 眼前を覆う煙幕にとっさに左の刃を振るうロクショウ、万物を断つ刃が音よりも速く迫る。

 しかし床材をブレーキにする事で、ロクショウの間合いから僅かにズレた位置に停止したカグツチには届かない。

 床に埋まった足を引き抜き、白刃が通り過ぎた空間を進む。

 もう一度刃を振るおうと構えるトツカノツルギ、しかしその両手は動かない。

「ッ!?」

 常に冷静なトツカノツルギに明らかな動揺が見えた。粉煙が収まり見える光景、そこにはカグツチの両手が彼の両刃をしっかりと掴み捉えている。

 本来、装着者の意志の元、万物を斬り裂く刃がカグツチの手に掴まれたままその機能を発揮出来ずにいた。


「……俺にも隠し玉程度はあるんでな」


 カグツチの成長した能力の一つ、「メンジンの能力発動の破壊」

 メンジンに直接触れる触れることにより、能力発動を阻害する事が出来る。しかしすでに発動した能力そのものは破壊出来ない。それ故に直接対象に触れて能力を発動するトツカノツルギのような近接型には最も有効な能力である。

 しかしトツカノツルギも即座に状況を把握、白刃を分解、カグツチの手から外す。

構え直した両腕から、まるで空中から鍛造されるように再び白刃が生える。


 二人の距離は一足一刀ならぬ一拳一刀、致命打が届く互いに必殺の間合い。

 そして、その致命打は頭部か胴体を狙うしかない。



「……ッ!」


 無言のまま放たれる突き、袈裟斬り、胴斬りの連続斬撃。それを両手を前に構えたピーカブースタイル《いないいないばあ》からのジャブの連打で叩き落とす。

 ギャリィンッ ギャオッ ギャギッ


 反撃のワンツー、フックのコンビネーションを右の刃で逸らし、回避。

 ギャリッ ギャオッ ギャリィンッ


 互いの能力が干渉しあい、逸らされた力が不気味な唸りを上げ、空気を震わせた。狭い玄関のスペース内で、暴風雨のごとく力が蹂躙し、乱舞し、吹き荒れる。


――流石にやるな、ロクショウ。だがな……


 両者は完全に拮抗している。しかし、それではロクショウの不利だ。


――応援が来るまではあと八分程。それまで持てば!



 ギャリィン ギャリッ ギャオッ ギャリッ

 決着を急ぐトツカノツルギ、放たれる連続斬撃を拳で打ち払い、スウェーで避ける。


 ギャリッ ギャリッ ギャオッ ギャリィン

 多彩なコンビネーションの打撃、豪雨の如きラッシュの拳撃を刃で逸らし、研ぎ澄まされた動作で交わす。


「ッ!」

 無言の気合いを込め、トツカノツルギの横なぎ、左の斬撃が走る。カグツチはガードしようと右を構えた。が、刃は急激に向きを変え、腕を避ける。

――ッ! フェイントかッ!

 上方向に伸びた刃はそのまま肩へ振り下ろされた。

 それを阻止すべく、右ジャブを上に刃目掛け放つ。しかし、拳は宙を凪いだ。

――これもフェイントッ!?

 上向きを打つ事によりカグツチの右腹部ががら空きになる。トツカノツルギはそこへ、戻した左刃の突き、右刃の袈裟切りを同時に仕掛けた。

 ゾワリッとした悪寒がカグツチの背中を疾走。袈裟切りは左拳で弾いたが、突きは防げない。

――だったらッ!


 ギャリッという音と共に跳ね上がったカグツチの膝が刃を跳ね上げた。


「脚にも中和能力が!?」


 両刃を外へ弾かれ、空いたトツカノツルギの胴体へ渾身の右フックが迫る。


――これでッ!!


「……おぉぉまぁえらぁぁあッ!!」


 後ろから声が響く。とっさに拳を止め注意を払いつつ、トツカノツルギから離れ振り返るカグツチ。

――なんだ!?



 先程降りてきた階段の上部、まだダメージが残っているのか、フラフラとた佇まいで立っている金髪の男。カグツチが二階で気絶させた男だ。


――……縛っとくべきだったッ!


 後悔は先に立たない。男は激昂しながら、懐から仮面を取り出す。

――……身体検査ぐらいしときゃ良かったッ!


 何度も言うが後悔は先に立たない、いやもう本当に。


「どいつもッ! こいつもッ! 燃えろ! 燃えちまえ!」


 男が掲げたその仮面。見開いた目、歪んだ煙突状の口、左右非対称のデザイン。

――あれは……


『ヒオトコッ!』


 仮面が金髪の頭部を包み込み、都市伝説の主が現れる。

 強盗に不利な能力、ヒオトコ、「燃えちまえ」、そしてここは住宅街。

 今までのデータから推測される相手の能力と最悪の結果がカグツチの脳裏をよぎる。


「させるかよッ!」


 弾丸の様に飛び出すカグツチ。 だがそれよりも速く、ヒオトコは煙突状の口で周りの空気を吸い尽くすように吸気。細い口元に着火用だろうか、小さな炎が揺らめく。


「くら…… あがっ!


 かん高い破砕音が響く。ヒオトコが必殺の息吹きを繰り出そうとしたその瞬間、カグツチの後ろから飛んで来た玄関先の花瓶がヒオトコの頭にぶち当たったのだ。


――ロクショウが投げたのか!?


 走りながら一瞬後ろを確認するカグツチ。トツカノツルギは花瓶をヒオトコに投げつけると同時に、玄関から飛び出していた。


――ヤツに構っているヒマは無い。


 ヒオトコは花瓶の水で口元の火が消えたためか、着火が出来ない。

 勢いよく階段下部に到達したカグツチは両手突きで階段を殴り、『破壊』の能力を最大出力で発動する。


「オオオオオッ!!」


 瞬く間に下部を発端にして階段がヒオトコを乗せ崩れ落ちる。


「ぬおおおっ!?」


 何が起こったかわからず叫ぶヒオトコ。床に激突する寸前で、眼前に飛び込んだカグツチにより、

 初撃のワンツーで意識の四分の一、

 次撃のフックで更に四分の一、

 そして最後のアッパーで残りの意識全てを吹き飛ばされた。


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