9-9 空中戦
エルファを狙い続けたイーネスの前に、これまで戦いを避けていたエルファが自ら姿を見せる。
2人は約15リティ(約12m)の距離で対峙していた。
この距離、武器だけで考えればエルファに分がある。
3倍の射撃能力があるのだから。
しかし、イーネスは全く動じない。6枚の翼を同じ方向へ集中させた時の移動スピードはイーネス自身が苦痛を感じるほどであり、狙って射ち堕とせるものではないのだ。
「あなたがクラトを撃った」
「クラト?あの隊長か?」
「私は許さない」
「口を開くな、この裏切り者め」
次の瞬間、イーネスは高速移動に入った。
右・上・左下・左上、そこでボウガンを撃てば決まる。
しかし、射撃位置についた時、エルファは一気に後方へ避けていた。
「ちッ、臆病者が」
しかし、一旦後方へ退いたエルファが一気に距離を詰めて来る。
「愚か者め!今さら斬り合いでもあるまい!」
両手のボウガンを発射した。もちろん必中のタイミングだった。
しかしエルファは急激に横方向へ移動して避けた。
「ティフが?ばかな!?」
イーネスは辛うじて左右1発ずつの矢を発射せずに留めた。
「なぜあんな動きが・・・」
エルファは不自然な体勢で3×3連装ボウガンを構えた。
3×3連装ボウガンを首の後ろで横に背負うようにしてイーネスへ向ける。
こうすれば右手だけで射撃ができる。
そして左手で3連装ボウガンを構えた。
これは単に矢の数を増やしたのではない。
2方向への射撃、しかも“弾幕”と“狙撃”の組み合わせだ。
そして、エルファは被弾を恐れていない。“相撃ち上等”なのだ。
飛行で逃げるには距離が近すぎる。
イーネスの首筋に冷たいものが伝う。
イーネスはこんなところで果てるつもりは無い。
ティフを葬る為に命を懸けるなど馬鹿げている。
もっと崇高な使命があるのだ。エナルダ国家の建設のために。
しかしエルファは命を失おうともイーネスを倒すつもりだった。
イーネスは能力で勝りながらも、戦いは互角、勝負では負けを認めざるを得なかった。
イーネスはエルファに悟られないように2枚の翼を上向きに噴射した。
その分残る4枚の噴射を強める。
後はもう一つ、何でもいい、僅かでも乱せれば。
「あのクラトという隊長はお前を庇って撃たれたのだ」
エルファに動揺が走る。
イーネスはボウガンを手放した。
「えっ?」
エルファの視線がブレる。
その瞬間、イーネスは上向きにしていた翼を横へ向け、6枚とも全力で噴射した。
激痛に顔をしかめながら斜め上方へ飛んだ。
3×3連装の矢はイーネスがいた空間へ、動きに追従した3連ボウガンもイーネスの僅か下を通過していった。
形勢は逆転。
全弾撃ち尽くしたエルファとボウガンを捨てたイーネス。
空中格闘戦ならイーネスに勝る者など存在したい。
しかし、イーネスはこれ以上の戦闘は無理だった。
急激な移動に身体がついていけないのだ。
鼻からは血が流れ、脳震盪のような症状もある。
朦朧とする意識に耐えながら離脱を図る。
一方のエルファも限界だった。
空中戦闘の負担は非常に大きく、疲労はピークに達している。
帰ろう。
クラトは生きている。
そう、きっと生きている。
私は帰ろう。彼の許へ。