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9-6 失敗

クエーシトは想像だにしない行動に出た。


【クエーシトのバルカ侵攻】


バルカは完全に不意を突かれた。しかも迎撃するには余りにも戦力が低下している。

フィアレスがいたら何と言っただろう。

デュロン・シェラーダンはやはり只者ではなかった。

しかし、新興国トレヴェントからの援軍が到着する。

トレヴェントはバルカと友好関係を構築し、ギルモア包囲の一翼を期待している。

それに万が一、クエーシトがバルカを下せば、その勢いは止め難いものになると考えたのだ。


◇*◇*◇*◇*◇


「スツーカ接近中!高速です!」

「対空ロングボウ準備急げ!!」


クエーシトの飛行型エナルダは急降下して攻撃を行う事から、クラトが「スツーカ」と名付けた。

クラトの世界で空から攻撃を行う機械がスツーカと呼ばれていたらしいのだ。


今回は発見が早かったが、発見が遅れると将校が狙われる。

バルカの豪胆な将軍達も見栄を捨てて将校用の甲冑の装着をやめた。

確認されているクエーシトの飛行型エナルダは2体。

4枚翼と6枚翼だ。

エルファとは違うタイプで、特に6枚翼タイプは信じられない動きをする。

バルカとしては何としても堕としておきたいところだが、いかんせん捕捉自体が難しい。


以前、エルファが対ギルモア戦で堕とされたのは、罠にかかったという事もあるが、2枚翼タイプの空中機動が鈍いせいでもあった。

エルファが4枚翼や6枚翼に空中戦を挑んだら間違いなく堕とされるだろう。

それは誰の目にも明らかだった。

エルファはクエーシトのスツーカなど相手にしなくて良いのだ。

能力を最大限有効に使い、決して4枚翼や6枚翼と戦ってはならない。

ところで“スツーカ”は後に飛行型エナルダの総称として定着するが、この時点で存在する飛行型エナルダは3体のみで全て形状が違う為、個別に呼称されている。


エルファはティフガル(2枚翼の意味)呼称:ティフ

グラシスはボゥトガル(4枚翼の意味)呼称:ブート

イーネスはファリガル(多翼の意味)呼称:ファル


◇*◇*◇*◇*◇


クエーシトはバルカ侵攻にあたって、突撃大隊をターゲットにした。

これまでの戦いにおいて常に重要な役割を演じ、クエーシト、ギルモアに苦杯を舐めさせた部隊。

赤騎隊への攻撃でティエラを仕留められない理由もこの突撃大隊にある。

偵察や捕虜などからある程度の情報は得ている。

隊長はクラト・ナルミ、異人の剣士だ。

副隊長はルシルヴァ・バークレイという女エナルダ。

それぞれ中隊規模の兵を指揮しており、共に戦闘力が非常に高い。

他に4個中隊と2個中隊規模の長弓中隊を有しているが、それぞれの能力は高く、特に第1中隊と長弓中隊は特筆に価する。

また、対ギルモア戦で行方不明となっていた飛行型エナルダのエルファの存在も確認されている。

亡命の理由は不明だが、エルファの偵察によって本陣の位置特定が早く、師団規模でも短時間で崩されてしまう事がしばしばだ。

この突撃大隊を潰せば、赤騎隊が崩れるだろう。

赤騎隊はバルカの象徴でありバルカ兵の心の柱だ。


バルカ侵攻の総指揮を執るクエーシトの主席軍師デュロン・シェラーダンはギルモアのアティーレ討伐の際、アティーレ本城へ派遣された軍師だ。

ギルモア軍を撃退し帰国、その後体調を崩して暫く軍務を離れていたが、バルカとの戦いを前に復帰している。

もしデュロンがアティーレ本城で指揮をとっていたら、アティーレ城の陥落はなかったという声もある。それほどの能力を持った軍師であった。

その特徴はクエーシト人でありながら、エナルダのみに頼らない戦術を立てる事にある。

そして、大胆な作戦を立てる裏で非常に慎重に事を運ぶ。

この戦いでも勝ちを得るために手数を惜しまない。

まずは“突撃大隊の目”エルファを排除する。

エルファはクエーシト軍の隙を衝いて後方撹乱や狙撃を行い、厄介な存在になりつつあった。

“裏切りのティフガル”エルファには“ラスト・スツーカ”イーネスをぶつける。


しかし、エルファは空中戦闘を徹底的に避けていた。

そのように指示を受けているのだろうが、以前のエルファからは考えられない事だった。

バルカで何を見つけたというのだろう。


◇*◇*◇*◇*◇


「エルファ、追いつかれる!降りろ!」


クラトの声にエルファは旋回しつつ降下した。

追うイーネスは旋回などせずにエルファを正面に捉えたまま斜めに飛行する。

イーネスの空中機動の特徴は同じ体勢を保ったままあらゆる方向へ飛行できる事にある。

エルファは手を挙げているクラトに向かって全力飛行する。

「もうすぐ」

後ろを確認すると、イーネスがボウガンを構えようとしている。

エルファは落下するようにして着地するとクラトの許へ走った。

兵士が集まって、たちまち盾の壁を作り、ホーカーの長弓隊が射撃を開始する。


「ちッ!」

イーネスはエルファとクラトに視線を向けたまま、後方へジグザグに飛んで行った。

「危なかったな、エルファ。あまり無茶はするなよ」

「はい、隊長」


突撃大隊に本陣を叩かれたクエーシト軍の師団はじわじわと退却していった。

「よし、撃退成功だ」

もうすぐ赤騎隊へ異動となるルシルヴァが指示を出す。

「またいつ来るか分らないからね、今の内に負傷者の後送と武具のチェックをしておくんだ」


クラトは森と草原の境に陣をおいて、草原の彼方、クエーシト軍が去った方向を見据える。

背後からエルファの声。

「隊長、お水」

振り返ると、カップを両手に持ったエルファが微笑む。

「お、気が利くな、ありが・・・」

エルファの肩を抱くようにして森に背を向ける。

水を溢れさせながらカップが舞う。

エルファはクラトの身体を通じていくつかの振動を感じた。

森の中には撃ちつくしたボウガンを両手に構えたイーネスが、怒りに満ちた目をこちらに向けている。


「撃たれた!隊長が!」

エルファの叫びに、大隊に衝撃が走る。

「あそこだ!」

すぐに矢が射かけられるが、イーネスは木々の間を縫うように飛んで逃げた。


「隊長!」

「こんな矢、どうって事ねぇよ」


「・・・!!」

突然、俺は心臓を掴まれた。

立っていられない、声も出ない。息が苦しい。

死ぬと感じた。


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