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9-4 進化

バルカはギルモアの侵攻を凌いだ。

大きな被害を出しつつもバルカ軍は城に帰還する。


◇*◇*◇*◇*◇


調練場に1人の男が剣を携え、身を正して座っている。

赤騎隊が帰還するのを待っていたようだ。

ティエラ達が男の存在に気付き、身を正した武人の声が響く。

バルサムだった。


「フィアレス軍師の戦死、その責は我にあり!この命をもって償わん!」

「バルサム!よさぬか!」

「姫、申し訳ございませぬ!」

彼は剣を鞘から30ミティ(約50cm)ほど抜き、剣の柄と鞘を持って首の後ろに添えた。

「誰か止めよ!!」

「ホーカー!!」

クラトの声と同時にホーカーは素早く矢をつがえ、バルサムの左手を射った。

鞘は剣から外れて後方へ飛び、バルサムは信じられないという顔で左手に突き立った矢を見た。

バルサムは立ち上がると剣の柄を地面に添え、切っ先を喉にあて一気に体重をかける。

剣は喉を貫き、大量の血が溢れる。

バルサムは立ったまま息絶えた。

そして、バルサムの屋敷では妻と子が眠るように死んでいた。


こうして、バルカも多くの損失を蒙ったのだった。

主席軍師フィアレス、第2軍団長バルサムを始め、多くの将兵を失った。

バルカ全体が心を折られたように意気消沈したが、歯を食いしばって次の戦いに備えた。


しかし、次の攻撃は防げまい。

満身創痍のバルカ軍に戦う力はほとんど残っていなかったのだ。


◇*◇*◇*◇*◇


しかし、ここで思わぬ事態が発生する。

ギルモアの分裂だ。


マーカス・ルエンシャ・ルミノールの3郷が協力してギルモアから独立、共和制の国家を築いたのだ。

勿論、それらの領内にあったギルモアの直轄地は新しい国、トレヴェントのものとなった。

ギルモアは3つの郷を喪失し、バルカとは交戦状態、アティーレ・パレントは勿論、対トレヴェント国境にも兵力を回さなければならない。

クエーシトとグリファの兵力消耗によって何とか保っている状態だ。

ここでパレントはバルカを頼った。

ギルモアから派遣された領主を処刑し、バルカとの統合を望んだのだ。

バルカはこれを受け入れ、バルカ国が成立。

タルキア、エルトア、グリファに使者を送り、国家としての承認を得る。


これにより、大陸東部の雄と自他共に認めてきたギルモアの覇権は瓦解した。

兵力でいえば、ギルモア、グリファ、トレヴェントが拮抗し、バルカとクエーシトはその3割程度だ。

兵力に劣るとはいえ、バルカはその戦闘能力を改めて示し、クエーシトはエナルダ国家として“侮りがたい”不気味な存在となっていった。


◇*◇*◇*◇*◇


「エナルダの子はエナルダか?答えは“いな”だ」

属性などは遺伝すると考えられるし、発現率も影響されるようだが確証は無い。

エナルダの発生率は高い家系でも1割にも満たない。

つまり家族が10人いれば1人のエナルダがいるという計算だ。だいたい3世代で1人の計算だ。

ではエナルダの発現率が高い家系同士の血が交わるとどうなるのだろう。

クエーシトは元々エナルダによって建てられた国家だ。

地理的にエナル濃度が高く、エナルダ発現率も高いといわれてきた。

加えてエナルダの移民を積極的に受け入れてきたのだ。

エナルダに血統というものがあるのなら、当然、その血は濃くなっていく。


この世界において、いにしえの伝説や神話に登場する英雄や異能者は全てエナルダだった。

非常に稀な存在だったのだろうと推測できる。

その点を考えると、エナルダの数は増えてきているといえるだろう。

エナルダとは、進化したヒトなのだろうか。

それとも、別な“種”なのだろうか。

どちらにせよ過程である事に変わりは無い。


進化とは優秀ではなく優性への変化である。

環境に適応する事が優性であり力を得る事になるのだ。

故に優秀だとするならばそれはそれで正しいのだろうが、人は単に“生き残り、子孫を残す”だけの生物ではない。

動物の人間の違いは精神だという。それを崇高な事実のように唱える。

動物を超えた精神は人間に何を与えたか。

理性か?知性か?

とんでもない。

どんなに言い繕おうと、人間は恥知らずな強欲さと目的を超えた野蛮さを持った生物なのだ。

そして、エナルは人間に新たな力を与えようとしている。

バランスなど無関係に力のみを与えようとしている。


クエーシト王ベイソルはエナル研究を抑制したが、クエーシトは決して豊かな国ではない。

それがグリファ、ギルモアを相手に戦争まで始めた。

バルカ国も敵と見ねばなるまい。

戦力の拡充は最重要項目だ。

ここで国論はエナルダ研究について二分される。

国王が反対の意思を示しているにもかかわらず、エナルダ研究継続の意見が根強いのは、クエーシトの立国から今日まで一貫してエナルに頼る国策を採り続けてきたからだ。

そしてその成果を得るだけの力は確かにあった・・・バルカさえ存在しなければ。

バルカが無かったら、北の戦乱はクエーシトの一人勝ちになっていたはずなのだ。

アティーレ(バルカ含む)、パレント(ルーフェン含む)との連合王国を形勢し、その議長国として大きな力を得たはずだろう。

しかし、それを阻止されたクエーシトはバルカ憎しより、バルカへの恐怖の方が強かった。


ギルモアから侵攻を受け、バルカに軍神の矜持を保つものは無くなった。

ギルモアから独立したバルカがギルモアやグリファと渡り合っていくには国力が必要だ。

いずれ拡大の動きをとるだろう。その時ではもう遅いのだ。

クエーシトはバルカを仮想敵国とした。

そして、そのバルカは軍師フィアレスを始め、歴戦の将軍を失い、兵力的にも疲弊している。

ギルモアやグリファも干渉する余力はないだろう。

ならば・・・


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