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9-3 良将

突撃大隊の誰もが死を覚悟した。

その命をティエラに捧げると決めたのだ。

バルカの象徴が存在し続ければ、自分達の意志も存在し続けるだろう。

誰もが気持ちを奮い立たせた。


絶望的な戦場に凛とした声が響く。

「聞くが良い!!」

バルカ兵のみならずギルモア兵も動きを止めた。

「私はバルカの赤い旋風ティエラ・ロウレン・バルカだ。ギルモアよ、我がバルカの地を赤く染めるために来たか!大儀であった!!」


「クラト!お主、何を弱気な事を申しておるか!突撃の方向が逆だぞ!!」

言うなりティエラは敵陣へ向かった。

「あっ、ばかやろう!」「おい!ティエラを援護しろ!!」

この時、敵陣を通じて何かの衝撃を感じた。

ギルモア南方面軍にアヴァンの第3軍団がぶつかっていった。

ギルモア軍に動揺が走る。

「来たか!」

しかしギルモア西方面軍を撃破したにしては余りにも早い。


◇*◇*◇*◇*◇


アヴァンとフィアレスは最初から敵中突破を狙っていたのだ。


戦いの前にフィアレスはアヴァンにこう語った。


クラト達は敵に大きな被害を与えるだろう。

恐らく敵の被害は半数に及ぶはずだ。

そして突撃大隊も壊滅しているだろう。

我々は敵の西方面部隊を敵中突破してクラト達が叩いた敵を殲滅する。

そして返す刀で西方面軍を討つ。

それと、今回の突撃は私も同行する。私を護る兵が勿体無いからな。

アヴァンは口を開こうとして断念した。

フィアレスが余りにも穏やか目をしていたからだ。

誰が止められようか、このような目をした男を。


「突撃大隊はそれほどの損害を敵に与えているでしょうか。もし突撃大隊が早々に壊滅していたら、我らは敵二方面の間、死地に自ら飛び込む事になります」

「アヴァン殿、その通りだ」「しかし、私に“かもしれない”はないのだ。このフィアレスには」

「はッ、失礼しました」


アヴァンはこれほどフィアレスが大きく見えた事はなかった。

この戦いは勝つだろう。

しかし、戦いの後がどうなっているのかは想像もつかない。


フィアレスの読みは正しかった。唯一、突撃大隊が壊滅しなかった事を除いて。

そして、その事をフィアレスが知る事もまた無かったのだった。


ギルモア南方面軍は撃破したが、後方から攻撃を受けたバルカ第3軍は大きな被害を蒙る。

ギルモア西方面軍が勝利すれば北で戦うバルカ第1・第4軍団の背後を衝くだろう。

そうなればバルカは全面的な敗北を免れない。


しかし、これ以上はないというタイミングで、ジュノが率いる2,000が戦場に到着。

ギルモアの西方面軍の後方へ迂回し、包囲戦を展開する。

ジュノはフィアレスの指示を受け、市民兵500を連れて北の戦線へ向かい、精鋭2,000を率いて秘密裏に戻ったのだ。


北のギルモア軍は対峙しているバルカ主力を引きつけておけば、南・西方面軍の10,000がバルカ城を包囲するだろうし、バルカ主力が防衛の為に退けば、それこそ理想的な追撃戦が展開できると考えたのだ。


しかし、南と西から侵入したギルモア軍10,000はほぼ壊滅した。

ジュノは再編成した1,500を率いて北方戦線に戻って行った。

この頃、パレントを経由して南西方面軍の壊滅を知ったギルモア北方面軍は撤退を開始するが、レガーノとジュノの追撃を受け、多くの兵を失った。


◇*◇*◇*◇*◇


今回の戦いで勝利に大きく貢献したバルカ第3軍の敵中突破。

その陣中にギルモアから亡命した武人がいた。

ギルモアから逃れてきた武人。

その男はシュバルと名乗った。

その名は以前からバルカにも知られていた。

彼はギルモアのアティーレ侵攻作戦の際、略奪を行った軍団に大隊長として所属する将軍だった。

大隊長の彼が将軍を名乗れるのは大きな戦功があったからだが、彼の場合はオルグに遭遇した国王の娘を救った事による。

彼は国家に対する忠誠心に厚いだけでなく、高い戦闘能力を持っていた。

ただ、彼は上官に恵まれなかったのだ。


略奪の際も彼の大隊は強行偵察に出されていた。結果としてそれがシュバルを救う。

略奪への関与無しとして罪を問われる事はなかったのだ。

しかし、反乱軍所属の汚名は簡単に拭い去れるものではなく、かねてより不仲の将軍からあらぬ噂を流され、苦しい立場に陥った。

彼の大隊は解散させられ他の隊にバラバラに補充された。

彼に残されたのは将軍という称号のみだった。

そしてついには唯一の家族である母が自殺を図る。

ここに至って彼はギルモアへの復讐を近い、バルカへ亡命を果たした。

ギルモアにバルカ侵攻の計画あり。

彼はそう告げた。信じたのはフィアレスだけだった。


ギルモアがアティーレを滅ぼした直後、パレントは領主が追放され、事実上ギルモアの直轄地となる。

今までに無いギルモアの外交は次の動きがある事を予感させた。

たちまち現実味を帯びるギルモアのバルカ侵攻。

しかし、ここでバイカルノに疑問がよぎった。


“タイミングが良すぎる”


早速、サイモスに指令が飛ぶ。

サバール隊がギルモアに入り、シュバルについての情報を集める。

シュバルは代々国王の側近として使える家柄であり、忠臣と賞されてきた。

彼は母孝行で知られ、人柄も良く、武人としての能力も高い。

非常に評判の良い人物だった。

そしてその母も確かに自殺しているようだ。

報告を聞く限りシュバルの話に怪しい部分は無い。

しかし、バイカルノはシュバルを全く信じなかったし、フィアレスもラシェットも同じように何かを感じた。

理由は無い。

強いて言えば、作られたストーリーを感じるのだ。

彼を重用すべきではない。むしろバルカに留めるべきではない。

しかし、ここで第2軍団長のバルサムがシュバルを擁護する。

不器用な誠実さを持つシュバルに同じ性質のバルサムは何かを感じたのだろうか。

バルサムの配下として登用される事となる。

彼の任務に対する直向ひたむきさに人々は彼を信頼するようになっていった。


◇*◇*◇*◇*◇


そして、ギルモアのバルカ侵攻が開始される。

それは亡命のほぼ1ヶ月後の事だった。

これによってシュバルは信頼を得る。


バルサムはシュバルをフィアレスの護衛とした。

戦力不足の折、異を唱える者はいなかった。

誰もがシュバルを信用していたのだ。ただ2人を除いて。


その1人バイカルノはどちらに転んでも良いと考えた。

いずれフィアレスは除かねばならない。手を下さずともそれが成るならそれも良かろう。


もう1人はフィアレスだった。彼はいずれは同じ結果になる事が分っていた。

そして、もしその時が来ても、自分の為すべき事は完了しているはずだと考えた。


◇*◇*◇*◇*◇


アヴァンとフィアレスが率いる第3軍団がギルモア西方面軍の後方から突撃を開始した。

ギルモア西方面軍は既に南方面軍を目視する位置まで迫っていたが、進軍を停止させ素早く後方に備えた。そこへ突入するギルモア第3軍団。

やや後方からフィアレスが突撃を開始した直後、シュバルの剣が馬車に乗るフィアレスの身体を貫いた。

そしてシュバルは逃げもせず、バルカ兵に討たれている。

彼がどうしてフィアレスを殺害した後、脱出しようとしなかったのかは不明だ。

しかし、そのような人物だからこそ、この作戦は成功したのだと言える。


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