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9-1 睥睨

ギルモアとの戦いにより、バルカは護紅隊長ラヴィスを失った。

しかし本当の激戦はこれからだった。


補充を受け、再編成されたギルモア第1・第3・第5軍団14,000が北から侵入。

バルカ軍は第1・第4軍団4,000でこれに応戦にあたる。


更にギルモアは西および南方面から各5,000がバルカ城を目指して進軍を開始。

急報を受け、ジュノが北方面から帰還、バルサムと共にバルカ城の防衛戦にあたる。

またフィアレスは第3軍団長アヴァンと共に2,000を率いて南西へ向かい、西から侵入した5,000の進路に兵を伏せるという。


フィアレスの出陣にバイカルノを始め大臣達も強く反対した。

バイカルノは自分が出撃すると進言したが認められない。

「良策はいくつもあるが、最善策は常に1つだ。そして、今回は良策ではなく最善策が必要なのだ」


そして説明するように付け加えて目を閉じた。

「敵はこの10,000だけではないし、バルカの戦いも今回だけではない」

その後ぼそりと呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。

「最後ぐらいは疾風の軍師でありたいものだ」

彼には余り時間が残されていないのだ。

分るという事は時として残酷だ。


フィアレスはバイカルノ傭兵団が入城してから自分が高揚しているのに気付いた。

バルカ滅亡の危機はこの数年で見え初めていた。

それでも動かなかった心が今になって熱くなるのだ。

原因は分っている。バイカルノとクラトだ。

バイカルノは確かに優秀だ。まず状況の把握と展開の読みが早い。

立案能力と実行力、それに人を動かす力もある。

バルカ軍団長達の評価も高い。軍師として十分にやっていけるだろう。


しかし・・・“疾風の軍師”には遠く及ばない。


作戦に100%はない。情報もそうだ。

断片的な情報の上に作戦が立案される。

少しでも可能性を高めようと斥候を放ち、数え切れない状況パターンをなぞる。

バイカルノは事実を積み重ねて、常に最善策を提示する。

状況から判断しうる最善策である事は間違いない。

フィアレスはバイカルノの能力に驚きながらも、小さな落胆も感じていた。

バイカルノの策は“人の策”であった。状況から作られている。

フィアレスは状況を作るのだ。


誤解を恐れず言うのであれば、フィアレスが感じる寂寥感は、言葉が通じない動物と暮らしている寂しさに似ているかもしれない。


◇*◇*◇*◇*◇


レガーノは被害を避けつつ持久戦に持ち込み、時として奇襲をかけて敵の戦力を削いでいく。

ここではエルファによる撹乱作戦も行われた。

夜陰に乗じて敵陣上空に侵入し、空対地連装ボウガンを幕舎に撃ち込む。

レガーノの作戦と相まってギルモア軍の侵攻スピードは極端に低下、ついには停止してしまう。


一方、バルカ城から3ファロ(約1.2km)に集結したギルモア南方軍5,000は第10・11軍団で組織され、堅実な将軍に指揮されていた。

かつてアティーレ本城を包囲した時のような油断は全く無い。


この時、バルカ城には突撃大隊の400と急遽組織された第5軍団1,000、後は赤騎隊80騎ほどがあるだけだった。


クラトに出撃待機の命令が下った。相手は5,000。

かつてこれ程の軍勢に突撃を行った事はない。

しかも戦場は開けた平原だ。どのように近づいても発見されてしまうだろう。


クラトに命令が下る前、城を出たフィアレスは既に手を打っていた。

2個中隊規模の強行偵察隊を組織し、バルサムを指揮官としてバルカ城の東に展開させる。

これはギルモアの北方面軍と南方面軍の連絡を絶つ事が目的だ。

ギルモア南方面軍5,000は主力と連絡が取れず不安を感じるだろう。

そして西から侵入した5,000と連携を取るに違いない。

西方にはサバール隊を派遣し、情報収集に努めている。


バルカ城の正面に構えたギルモア南方面軍は攻撃を開始せず、陣地を構築し始めた。

ギルモア郡の西に伏兵したフィアレスとアヴァン、城中のバイカルノ、ラシェットは時間が無い事と、戦いの主導権を得た事を即座に理解した。

直ちにクラトに出撃命令が下る。

ギルモア西方面軍がフィアレスの伏兵に近づいてからの方が良いのだが、南方面軍に強固な拠点を作られると全体の作戦が狂ってしまう。

クラトは突撃大隊を率いて城を出た。


ラヴィス戦死後、クラトの突撃はより鋭く苛烈になった。

ラヴィスを討ち取る為にギルモアはどれほどの兵士を消耗しただろう。

ラヴィスを討ち取った為にどれだけの損害が出るのだろう。


◇*◇*◇*◇*◇


クラトは迂回もしなければ身を隠す事もしなかった。

ただ一直線に敵陣へ向かう。

陣地を構築中だったギルモア兵は道具を投げ捨て、装備もそこそこに防衛陣を張る。

しかしギルモア軍は先手を打つつもりもないようだ。


「俺たちの10倍以上の兵で攻めて来ておいて防戦するらしいぜ!」

突撃大隊が笑いに包まれた。


ギルモア兵は息をのんだ。

近づいてくる。あの突撃大隊が。

噂に聞いた異人が率いる大隊だ。

アティーレもパレントも、クエーシトの特別遊撃隊をも敗北に追い込んだ大隊。


これから拳闘の試合でも見物に行くような雰囲気だ。

「ほ、本当に笑ってやがる・・・」

ギルモアの兵士達は一戦も、いや、一矢も交わす事なくパニックの寸前だった。


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