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8-6 世界

ギルモアの侵攻に対してバルカはどのように対処すべきか。

重要かつ緊急の会議にも関わらず、会議場にティエラの姿がなかった。

クラトがティエラの執務室へ走った。


ティエラの執務室には侍女が1人控えているだけだった。

「ティエラはどこだ?緊急の軍事会議なんだ」

「ティエラ様は只今、奥室にいらっしゃいます」

奥室とはティエラが通常生活している部屋だ。寝室や衣裳部屋、食堂、浴室など、生活に必要な設備は全て備えている。

「案内してくれ、急いでるんだ」

「なりません、私がご用件をお伝えいたします」

「そんな悠長な事いってる場合じゃねぇんだ、ギルモアの軍勢がバルカに攻め入った」

「ギルモアが・・・」

侍女ですら言葉を失う未曾有の危機。

「早くするんだ!」

侍女は混乱と俺の勢いに押されてティエラの奥室へ急いだ。


◇*◇*◇*◇*◇


バイカルノが伝令から得た北部戦線の情報は次の通りだった。


ギルモア軍は北部の町カペリアを攻略し、そこへ軍を入れている。

ジュノは使者を立て、バルカ郷として正式に抗議した。

勿論、時間を稼ぐ為だ。

宣戦無き侵攻への抗議に対し、ギルモアの回答は「軍事行動において未遂は実行と同等の脅威と判断する」であった。

要するにバルカの“ギルモア侵攻作戦”が事実であったと判断し、その脅威を排除する為の侵攻であるから宣戦を行う必要が無いというのだ。

つまり6年前から戦争は始まっているとの認識だ。酷いこじつけだが、そんな事はどうでも良いのだろう。

ジュノは少し軍を下げ、要所に地形を利用した防御陣を張る。

ギルモア軍はいつになく慎重だった。

ギルモア軍は進軍を停止、今や前線基地となったカペリアには続々とギルモア兵が到着している。

ギルモアは無理に力押しをしない。バルカの降伏を待っている観があった。

ジュノは再度使者を立て、受けていない・・・・・・降伏勧告について本城に報告して回答・・すると伝える。

ギルモア軍からは一言「明日正午」と伝えられた。


初戦はジュノの完全勝利といえる。ジュノの機転により、とりあえずの時間は確保できた。

バイカルノの懸念は挙国一致の体勢が取れるかどうかだ。

混乱はパニックとなり、不安に耐えられない者は安易な解決策に頼ろうとする。

とにかく落ち着かせなければ。

明日の正午までの時間を確保した事で落ち着きを取り戻せるだろうか。

逆に降伏論などが出ては本末転倒だ。


◇*◇*◇*◇*◇


クラトがティエラの奥室に入ると、そこは小さな居間のようになっていて奥にはいくつかのドアが見えた。それぞれが寝室や衣裳部屋の入口らしい。

「ここで少々お待ち下さいませ」

侍女は一つのドアをノックして声をかける。

「ティエラ様、緊急の会議との事でお迎えがいらしております」

「わかっておる。暫し待て」


「ティエラはこの部屋にいるのか」

「おいティエラ!大変だ!ギルモアが攻めて来たぜ!」

「クラトか?すぐに行く、そこで待っておれ」

「そんな悠長な事いってられねぇよ、みんな待ってるんだって!」

ドアを叩くと重い音が響く。

「急いでくれよティエラ!入るぜ!」

「なりませぬ!」侍女がドアの前に身体をねじ込もうとする。

イオリアの声が響く。「クラト殿、姫は只今・・・」

クラトが力を入れるとドアノブが(ガコン)と鈍い音を立て、ドアは意外なほど簡単に開いた。

赤い甲冑が目に入った。

「おい、急げって・・・」

見れば、甲冑は立て台に掛けられていた。

ふと左に視線を送るとティエラがいた。

口を引き締め頬を染めた顔、驚きと緊張の顔、そして恥じらいと怒りがい交ぜになった表情だった。

イオリアはドアが開いた勢いで尻もちをついているし、ファトマは鎧下を両手に捧げ持ったまま固まっている。

クラトは気付いていないように、いや、本当に気付いていないのだろう、ティエラの腕を取ってドアへ向かおうとする。

ティエラが腕を振りほどく。

「どうしたってんだよ、ティエラがいないと会議が始まらないぜ」

「どうしたって・・・こんな格好で行けるかぁ!!」


「えっ?あ!?」

間の抜けた声を残してクラトの身体は浮いた。

イオリアが割って入る間も、ファトマがティエラの身体を隠す間も無かった。

腕を捻ってバランスを崩させ、低い姿勢から膝の裏を持ち上げて投げ捨てたのだ。

その間に鳩尾みぞおちへ一撃加えている。

ラシェットから学んでいるという体術の一つだろう。

「痛ぇ・・・」

顔をしかめてうずくまるクラトを尻目に素早く鎧下を着けたティエラが更に蹴る。

「お主という男は!無礼な!何も見えんか!何も気付かんか!このバカモノめが!」

完全に固まったイオリアとファトマ、侍女達を残して逃げるクラトと追うティエラは奥室を出て行った。響くのはクラトの悲鳴ばかりだ。


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