8-4 自嘲
ギルモアの参戦から3ヶ月が経つ。
ギルモアは10月33日に参戦を宣言、アティーレ討伐隊の13,000は緒戦の快進撃から30日余りでアティーレ本城を包囲するものの、クエーシトの飛行大隊やエナルダ部隊の奇襲によって敗走。更に略奪の発覚によりギルモア後続部隊からの攻撃を受けて壊滅してしまった。
その後続部隊もクエーシト・アティーレ・パレントの反撃により敗退。
この戦いでギルモアの損害は7名の軍団長を含む将校24名、兵員18,000にも及び、11月36日にはアティーレから完全に撤退した。
しかしギルモアは本来の力を発揮する。12月15日には反撃を開始、15日後の1月10日にはクエーシト飛行型エナルダ2体の撃破に成功する。
2月6日にはアティーレが滅亡、16日にはパレントがギルモアの直轄地となる。
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これで戦乱は終わるだろう。
誰もがそう考えた。事実、この3ヶ月、バルカ領内ではほとんど戦闘が行われなかった。
この間、フィアレスとバイカルノは戦力の補強を急ぐ。徴兵と訓練の実施だ。
大臣達は国力が疲弊しているとして異を唱えたが、2人の軍師は全く顧みなかった。
8日にカピアーノ博士とベルファーを伴って帰還したジュノは、早速第4軍の編成を実施した。
ジュノは防御的遊軍として稼動する予定だ。
防衛戦といえばバルサムの第2軍団だが、場外での防衛戦や追撃戦ではジュノが上だ。
先の戦いでもその能力を遺憾なく発揮しており、大きな期待が寄せられている。
そして突撃大隊だが、単独行動や赤騎隊以外の軍団と連携する作戦も増えてきた。
これは赤騎隊が出陣しない時も突撃大隊は稼動しているという事だ。
突撃大隊はなかなかの評価を受けているらしい。
特に戦死率の低さは際立っており、フィアレス軍師から高い評価を得ている。
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そんなある日。
クラトはティエラの執務室にいた。ティエラは大臣達と会議だし、ファトマは侍女達を連れてティエラの軍装を引き取りに出ている。
執務室にはクラトとラヴィスだけが残された。
「なぁ、ギルモアはどうすると思う」
「ん、私はバルカに攻め込むような事はしないと思う」
「俺もそう思うよ。でも、バイカルノの話だと、ギルモアの新しい軍師ってのは相当出来るらしいぜ。出来る奴だからバルカを攻めるんだとさ。パレントで兵力を使わなかったのもバルカ攻めの為だって事だ」
「姫もフィアレス軍師から同じように聞いているみたい。そもそもフィアレス軍師はギルモアが参戦した時から指摘していたし・・・それでも私は“まさか”と思う」
「ま、俺たちは命令を受けて戦うだけだ」
「そう・・・ね。今のバルカにおいて突撃大隊は大きな戦力なの。正直なところ、私は見直してる。クラトには師団か軍団を任せるべきだと思うし、装備にもっと注文をつけても良いと思うけど」
「ま、与えられたものでやるのが仕事だよ」
「すごいね、クラトは」
いつからだろう。
2人で話をする時の口調が変わってきた。
パーキングの娘との関連付けは俺の頭の中では随分前に無くなっている。
ラヴィスはラヴィスだ。
少しの沈黙があった。
「そいういえば、エルファはどう?」
「あぁ、相変わらず無邪気に元気だな。ファトマが上手く言ってくれたようで、大分大人しくなったよ、空中機動の訓練を懸命にやってるし」
「まぁ、ウチの隊員たちに可愛がられているよ」
「そう・・・カポルの件は?」
「え?」
「い、いや、どうでもいいんだけど、姫も随分と心配していたから」
「何でもないみたいだ。元々そんな事は気にしてないってさ」
「何だか微妙な感じね」
「そうだけど、今のところは何ともしようが無いしな」
2人の会話は決してスムーズではなかったし、少し居心地も悪かった。
でも、俺はこの時間が続けば良いと思った。
俺は中坊か。でも、こんなのも悪くない。
そのうちラヴィスは居たたまれないように席を立つと、「様子を見てくる」と言ってドアを開けた。
その背中を俺の声が追いかける。
「今度、カポルでも探しにいこうか」
「え?」
ラヴィスは“なぜ?”というような、怯えたような、そんな表情を見せた。
「ん~、みんな食べたそうにしてたからな。喜ぶだろうと思ってさ」
「なんだ、懲りてないな。それにカポルは時期が過ぎてる」
両手の甲を腰に当てて呆れたように言うと、ドアの外へ消えた。
次の瞬間、俯くように視線を外した顔だけをみせて、「来年の春になればカポルも実るだろう。その時に行こう」と言って、すぐに消えた。
暫く後にティエラと一緒に戻ってきたラヴィスは、いつもの口調に戻っていた。
ティエラの話では、大臣連中はバイカルノを高く評価しているらしい。
それを聞いたバイカルノは「俺が天才ではないという証拠だ」と自嘲して語ったという。