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8-1 帰還

ギルモアはついにアティーレを滅ぼした。

アティーレの領主はギルモア王族の出身だったが、クエーシトと組んで国内の郷を攻めてはさすがに許されまい。

アティーレ郷を廃止してギルモア領とし、外郭地には蛮族を懐柔して新たな郷を作るとの噂だ。

バルカにとって良い話ではなかった。

この後、パレント討伐は行うとしても、クエーシトに侵攻する余力はあるのだろうか。

ギルモアがパレントを討伐して、この戦乱は終わる。

そんな楽観論も出始めていた。


そんな時だった。ジュノが帰還したのは。


◇*◇*◇*◇*◇


ジュノのグリファ行は身の安全が懸念されたが、サバール隊の情報では、グリファは今回の戦乱はベルサ郷にあるとして、先のルーフェン殲滅戦での方針を転換。捕らえていたルーフェン郷の軍人を解放しているという。

ジュノも名乗り出れば罪を許され、戦力不足の折でもあるのでルーフェン郷かグリファ国の軍団長として招聘されるのは間違いないだろう。

しかし、ジュノはグリファとの同盟交渉自体を行わなかった。

既にギルモアがグリファに使者を送り、不可侵条約を締結していたからだ。

グリファは侵攻したクエーシトに対してもベルサをグリファ領とする事で停戦条約に調印したようだ。

北の戦乱は一気に終結に向けて動き始めたように見えた。

その中でバルカの状況だけが何も変わらなかった。


ジュノは故タレス将軍の身内をつてにカピアーノ博士を探した。

そしてカピアーノ博士はジュノの招きに応じてグリファ郷入りを承諾する。

クエーシトの狂気、同じ研究を強要するグリファ、博士も嫌気が差していたらしい。

もちろんベルファーも同行している。


◇*◇*◇*◇*◇


「うわっ、ベルファーじゃないか!」

ベルファーは挨拶も無しに走り寄ると、跳躍してホーカーに向かった。

避けようとして倒れたホーカーの胸を前脚で押さえ、首に牙を押し当てる。

ジュノの鋭い声が飛ぶ。

「ベルファー!やめるんだ!」

ベルファーはなぜか俺に向かって唸った。

「今度会ッタラ必ズ仕留メルト言ッタハズダ」

「おいベルファー、そいつは人違いだ。名前はホーカーだけど、敵でもなければ奴隷でもない。仲間の為に傷を負い、矢を射る武人なんだよ」

ベルファーは上を向いて「ふぁふ、ふぁふ」と、おかしな声で吠えた。

「ソウカ、違ウナラコノ牙ハ必要無イ。ソレニ、アノ男ノ名前ナド憶エテハイナイ」

ベルファーはまるで“犬のように”スタスタと歩いてジュノとカピアーノ博士の間に戻った。


リアエナルの生物 = オルグというのは一般的な感覚だ。

ベルファーは“特別なパターン”だが、誤解を懸念してあくまで“ただの犬”として振舞うはずだった。

しかし、いずれは知られるに違いない。

それならば“見せてしまえばいい”リアエナルという事実と自らが持つ知性と理性を。

これはベルファーの作戦だった。

バルカの人々はベルファーを受け入れた。

知性と理性だけでなく、ベルファーの言動に武人を見たからだ。


カピアーノ博士が歓迎されたのは言うまでもない。

早速、内務府にエナル研究室が設立された。

ベルファーは博士の護衛だが、表向きは“番犬”という事で落ち着いた。


ジュノはベルファーを戦力としてみている。

カピアーノ博士にもエナル研究を期待している。

ジュノならアイシャもエルファも戦力として考えるだろう。

そういう点でジュノはシビアだ。それ故に優秀なのだ。


クエーシトは他国の想像を遥かに超えたレベルまでエナル研究を進めている。

人工マスエナルと人造エナルダ、飛行型エナルダ。

そして当たり前だが、カピアーノ博士はその内情について非常に詳しかった。


クエーシトは、いや、ジョシュは狂っている。

しかし、いくら天才であろうと、1人が狂っただけでは世界は狂わない。

ここまで研究が進んだ理由は狂った人間が多いという事だ。

「求めたのだよ。人間が、時代が、この狂気を」

クエーシトでは人造エナルダを生み出す為に、マスターエナルダを始め、多くの犠牲を生んだ。

犠牲は実験だけではなく、確立された施術でも多く発生しているのだ。


それともう一つ。

これらの施術で使用するために集成されたハイエナルは濃度が低かった。

自然発生したものに及ばないのだ。

故に未覚醒の人間に対する融合では特別な例を除いて中級エナルダのレベルだった。

マスエナルもハイクラスのものは作れないのだ。


ハイレベルのリアエナルダを生み出す為に、エナルダを被験者としたエナル融合を行う方法に至った。

ハイレベルのエナルダを被験者としてエナル融合を行えばエクサーを超える戦闘型エナルダが期待できる。

しかし融合施術に失敗するとエナルダを失う事になるし、オルグ化した場合の危険も大きくなる。

その失敗の原因をジョシュは解明していていないようだが、私は属性の不一致にあると考えている。


これは入手した実験データからの推測の域は出ないが、被験者が元々持っている属性と集成したハイエナル属性の一致が必要という事だ。

ハイエナルは様々な属性のエナルの集合体だが、融合では一番優勢な属性がハイエナルの属性となる。

不一致だと被験者は死亡する可能性が極めて高く、特に優勢な属性がない場合にオルグ化すると考えられる。

飛行型エナルダについては言葉も無い。

先日、エルファを検査したが、エナルの融合と噴射はエナルの新しい利用ではあると思う。

しかし、それはエナルダによるエナルの利用だ。

エナルダがどんどん人間から離れていってしまう。

このままではいずれ悲惨な結果を生むに違いない。

私は争いを求める者ではないが、クエーシトのジョシュだけは止めなければならない。


私は人間と時代がこの狂気を求めたと言ったが、それはエナルダだ。

人間から離れるために、人間とは別の存在になるために。

意識せずとも求めているのだ。

それを進化と呼んでも良いのだろうか・・・私は答えを持たない。

しかし、私は人間でありたい。エナルダも人間であってほしい。


だから私も協力しよう。


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