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エルファが調書を取られたりしている間、ティエラの執務室で待っていた。

ラヴィスとファトマ、ルシルヴァも一緒だ。


カポルを探しに森に入った話をすると、みんなが ずいっ と顔を寄せる。

「あったのか?カポルが?」

「あったよ。スパイクと5つ見つけて、その場で1つ食った。ありゃ美味いな」

「残りはどうしたのだ?」

「俺はごたごたで持って帰れなかったが、スパイクが2つ持って帰ったはずだ」

「部隊のヤツ等にも持って帰ろうと思って探してる時に、追われているエルファに出くわしたんだ」


「残念だね、もう何年も食べてないよ」

「ふむ。私も何度か食べた事があるが、確かに美味じゃ」

「私も食べてみたいですわ、素敵な男性ひとと一緒に」


『・・・』


「まぁ、確かにファトマは早く見つけないとな。カポルを一緒に食べる相手を」

「それはティエラ様も皆様も同じですよ」


『・・・』


「今ひとつ話が見えないんだけど」


ここまで黙っていたラヴィスが少し姿勢を伸ばした。

「クラトは異人だからな。私が説明してやろう」

「カポルはなかなか手に入らない甘くて美味な果実だ。それを男女の幸せな生活に例えて、将来を約束した男女を“カポルで誓った仲”などというのだ」

「男性が意中の女性にプロポーズをする時に贈り、女性が受け入れた場合は2人だけで1つのカポルを食べるんだ。その時に使ったナイフは女性が持ち、貞操や家庭を護る御守とする」

「えっ?おい、ちょっと・・・」


ラヴィスは俺を無視して説明を続けた。

「古くからの風習のようなものだから、プロポーズの時には必ず必要ってものでもないが、しきたりに重んじる家系では、婚約の儀式に欠かせない果物として、手を尽くして探し出すそうだ」

ラヴィスは俺の顔から視線を外して付け加えた。

「まぁ・・・カポルでのプロポーズは女性の憧れのようなものだな」


「あの、何と言うか、俺、エルファとカポルを食っちまったんだが・・・」

『なにーー!!』

『なんですってーー!!』

「そんな驚く事か?だって単なる風習なんだろ?知らなかったんだし」

「この男はアイシャといい、毎度毎度、成人もしていない女子おなごばかりを・・・」

「だから知らなかったんだって!」

「クラト、これは査問が必要だの」

「エルファだって断りゃ良かったんだよ」

「敵兵に追い回されて怪我までしていては、冷静な判断が出来なかったのではないでしょうか」


「それに、カポルを切るのにエルファの短剣を使ったんで・・・」

「渡したんだな?エルファに」

「なんだよラヴィス、顔が怖ぇよ」

「それはもう勘違いというレベルではないぞ。きちんとプロポーズの手順になっておる」

ティエラは腕を組んで椅子の背もたれに身体を預けた。


「エルファが婚約を主張したら成立しますね」

ファトマの言葉を聴いて、俺は驚いた。

「おいおいマジかよ、ちょっと困るぜ。ティエラが言うように、錯乱状態での話だから、エルファの意志が違うんじゃないのか?」


ティエラの口調は苛ついていた。

「何が困るだ、この問題発生源が。カポルを食べただけならいざ知らず、ナイフを受け取ったうえに陣中までついて来たのだぞ」


「陣中でもクラトの後ばっかり付いて回ってたしなぁ」

ルシルヴァは感情の無い声でつぶやいた。


「俺から話をするよ」

面倒な話になったと思いながら、俺は執務室を出た。


◇*◇*◇*◇*◇


「ファトマ、クラトはダメじゃ。あの男は押されたら押し切られる」「あやつは、自分の発言や約束に縛られ過ぎるのだ」

「クラトはこの世界の習慣を知らないのだし、ここはファトマからエルファに説明した方がよかろう。エルファはまだ未成年だし、バルカの者ではないのだし・・・」


「成人しているバルカの女性なら良いのでしょうか?」

「なに?」

「いえ、何でもございません」

「ファトマ、気になる言い方ではないか」

「失礼しました。ただ、色恋事に介入するのは本意ではありません」

「これは色恋事か?」

「はい。少なくともエルファとしてはそうでしょう」

「しかし、クラトは望んではおらんぞ」

「それでもクラト様が受け入れるのなら、それは一つの形なのでしょう」

「では、どうするのじゃ」

「クラト様にお任せするしかありません」

「しかし」

「私にはティエラ様のお心が分りかねます。今件について、いつになくお言葉が多いように存じます」

「ファトマの話こそ意味が分からぬ」

「私がクラト様と一緒になりたいと言ったら、ご承認いただけますか?という事です」


『えぇ~~!!』


「私ではなく、ラヴィス隊長やルシルヴァ副隊長でもでも良いのです。ご承認いただけますか?」

「な、何を申しておる、そのような事は・・・」

ティエラの口許に視線が集まる。


「そ、それはクラトが決める事であろう。私が承認するものではない」

「私もそのように考えております」

ファトマに1本取られた形になったが、問いかけの真意にティエラだけが気付いていないようだった。


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