7-10 承認
エルファが調書を取られたりしている間、ティエラの執務室で待っていた。
ラヴィスとファトマ、ルシルヴァも一緒だ。
カポルを探しに森に入った話をすると、みんなが ずいっ と顔を寄せる。
「あったのか?カポルが?」
「あったよ。スパイクと5つ見つけて、その場で1つ食った。ありゃ美味いな」
「残りはどうしたのだ?」
「俺はごたごたで持って帰れなかったが、スパイクが2つ持って帰ったはずだ」
「部隊のヤツ等にも持って帰ろうと思って探してる時に、追われているエルファに出くわしたんだ」
「残念だね、もう何年も食べてないよ」
「ふむ。私も何度か食べた事があるが、確かに美味じゃ」
「私も食べてみたいですわ、素敵な男性と一緒に」
『・・・』
「まぁ、確かにファトマは早く見つけないとな。カポルを一緒に食べる相手を」
「それはティエラ様も皆様も同じですよ」
『・・・』
「今ひとつ話が見えないんだけど」
ここまで黙っていたラヴィスが少し姿勢を伸ばした。
「クラトは異人だからな。私が説明してやろう」
「カポルはなかなか手に入らない甘くて美味な果実だ。それを男女の幸せな生活に例えて、将来を約束した男女を“カポルで誓った仲”などというのだ」
「男性が意中の女性にプロポーズをする時に贈り、女性が受け入れた場合は2人だけで1つのカポルを食べるんだ。その時に使ったナイフは女性が持ち、貞操や家庭を護る御守とする」
「えっ?おい、ちょっと・・・」
ラヴィスは俺を無視して説明を続けた。
「古くからの風習のようなものだから、プロポーズの時には必ず必要ってものでもないが、しきたりに重んじる家系では、婚約の儀式に欠かせない果物として、手を尽くして探し出すそうだ」
ラヴィスは俺の顔から視線を外して付け加えた。
「まぁ・・・カポルでのプロポーズは女性の憧れのようなものだな」
「あの、何と言うか、俺、エルファとカポルを食っちまったんだが・・・」
『なにーー!!』
『なんですってーー!!』
「そんな驚く事か?だって単なる風習なんだろ?知らなかったんだし」
「この男はアイシャといい、毎度毎度、成人もしていない女子ばかりを・・・」
「だから知らなかったんだって!」
「クラト、これは査問が必要だの」
「エルファだって断りゃ良かったんだよ」
「敵兵に追い回されて怪我までしていては、冷静な判断が出来なかったのではないでしょうか」
「それに、カポルを切るのにエルファの短剣を使ったんで・・・」
「渡したんだな?エルファに」
「なんだよラヴィス、顔が怖ぇよ」
「それはもう勘違いというレベルではないぞ。きちんとプロポーズの手順になっておる」
ティエラは腕を組んで椅子の背もたれに身体を預けた。
「エルファが婚約を主張したら成立しますね」
ファトマの言葉を聴いて、俺は驚いた。
「おいおいマジかよ、ちょっと困るぜ。ティエラが言うように、錯乱状態での話だから、エルファの意志が違うんじゃないのか?」
ティエラの口調は苛ついていた。
「何が困るだ、この問題発生源が。カポルを食べただけならいざ知らず、ナイフを受け取ったうえに陣中までついて来たのだぞ」
「陣中でもクラトの後ばっかり付いて回ってたしなぁ」
ルシルヴァは感情の無い声でつぶやいた。
「俺から話をするよ」
面倒な話になったと思いながら、俺は執務室を出た。
◇*◇*◇*◇*◇
「ファトマ、クラトはダメじゃ。あの男は押されたら押し切られる」「あやつは、自分の発言や約束に縛られ過ぎるのだ」
「クラトはこの世界の習慣を知らないのだし、ここはファトマからエルファに説明した方がよかろう。エルファはまだ未成年だし、バルカの者ではないのだし・・・」
「成人しているバルカの女性なら良いのでしょうか?」
「なに?」
「いえ、何でもございません」
「ファトマ、気になる言い方ではないか」
「失礼しました。ただ、色恋事に介入するのは本意ではありません」
「これは色恋事か?」
「はい。少なくともエルファとしてはそうでしょう」
「しかし、クラトは望んではおらんぞ」
「それでもクラト様が受け入れるのなら、それは一つの形なのでしょう」
「では、どうするのじゃ」
「クラト様にお任せするしかありません」
「しかし」
「私にはティエラ様のお心が分りかねます。今件について、いつになくお言葉が多いように存じます」
「ファトマの話こそ意味が分からぬ」
「私がクラト様と一緒になりたいと言ったら、ご承認いただけますか?という事です」
『えぇ~~!!』
「私ではなく、ラヴィス隊長やルシルヴァ副隊長でもでも良いのです。ご承認いただけますか?」
「な、何を申しておる、そのような事は・・・」
ティエラの口許に視線が集まる。
「そ、それはクラトが決める事であろう。私が承認するものではない」
「私もそのように考えております」
ファトマに1本取られた形になったが、問いかけの真意にティエラだけが気付いていないようだった。