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7-4 検体

戦場で失われるエナルダの数は以前に比べて倍増していた。

エナルダの“出し惜しみ”をしなくなったからだが、対エナルダ戦術や対エナルダ武具の研究も急速に進んでいた。

エナルダといえども数で包まれると苦しく、むしろ中級までのエナルダは狙われる傾向にあった。


それを補う為にクエーシトではエナル融合施術が頻繁に行われ、それに伴って施術による被害も増大していった。


施術中に検体が死亡したり、施術するマスターエナルダが精神負担によって死亡したり再起不能となるケースも出ている。

また“オルグ化”した検体によって施術者が死傷する事故も発生した。

そして、ついにクエーシトの国王ベイソル・ハイラはジョシュの実験及び施術を抑制する。

確かにジョシュの研究はマスエナルやリアエナルダを作り出したが、既存のエナルダを消耗したのだ。


◇*◇*◇*◇*◇


ほどなくクエーシト王はジョシュを“所詮は異人”という目で見るようになる。

同胞が死亡したり怪物になる可能性がある実験や施術を繰り返し、揚げ句に人間に動物を翼を移植するとは・・・。

神をも恐れぬ所業とはこの事だ。

ジョシュがクエーシトに入った時、エナル研究をクエーシトの為にと言った。

あのカピアーノ博士と共同研究をしていた人物の来訪にベイソルは喜んだものだ。

そして、ジョシュは間違いなく天才だった。

しかし、ジョシュは目的の為には全てを考慮しなかった。

決して豊かとはいえないクエーシトにおいてジョシュの研究チームは金も物資も湯水のように使う。

それだけならいざしらず、クエーシトの宝ともいうべきエナルダをも消耗している。

そして、ある事件をきっかけとして、ジョシュの研究を極端に縮小する命令が下った。


◇*◇*◇*◇*◇


エナルダ研究が縮小命令を受けるきっかけとなった事件は次のようなものだった。


≪融合施術室にて≫

「ギルモア軍はアティーレの殆どを制圧して、クエーシトまで侵攻すると公言しているそうではないですか」

「あぁ、アティーレもパレントもバルカ戦で既に力を失っているからな。しかし所詮は愚か者ゆえの稚拙な戦略だ。まずバルカを攻めないのが愚かさの最たるものだ。自らの中立を反故にして火事場泥棒的な侵攻を開始しているくせに、また面子にこだわっているのだろう」

「しかしバルカはギルモアの軍神と称していますし、アティーレとパレントが滅ぼされればバルカは四方を囲まれてギルモアに降るしかないでしょう」

「いや、バルカは降らん。バルカの強さはその精神にある」

「確かに北の戦乱でアティーレとパレントの連合軍は3倍以上の兵力やエナルダを有しながらバルカに及びませんでした。私はいまだに信じられません」


「そうか、リードはバルカの“洪水作戦”や“津波作戦”を知らないんだったな。フィアレスは天才だ。それにバルカ兵の強さは他の国に比肩できん。組織戦力としても各個戦力としても非常に優れている」


リードは戦場に出た事がなかった。

「我がクエーシトも前線から兵力を召還している。グリファとは停戦に合意した。ベルサはグリファに滅ぼされるだろうが、先のルーフェン殲滅戦と今回の戦いでグリファ北部の兵力はほぼ壊滅しているから、グリファに軍事行動を起こす余力はあるまい。となれば敵はギルモアのみ。遠征に遠征を重ねたギルモア軍など簡単に打ち破れる」

「バルカがギルモアに降ったらどうなりますか?」

「そんな事は無いと思うが、バルカを先陣に侵攻されると面倒な事になるだろう。とにかく今は少しでも戦力を確保しなければならん」


リードは上級エナルダだった。これまで動物実験やエナルダ融合施術に立ち合ってきた。

その実績が認められ、本来はエクサー2名を配置するハイエナルダ融合(エナルダにエナル融合を行う施術)にエクサーのシューベックと共に立合う事になったのだ。


「私も戦場で戦いたいのです。施術中に苦しんで死んでいく者や、オルグ化した人間や動物を斬るのはもう疲れました」

「まぁ、そいういうな。お前はエクサーではないが、その戦闘力の高さを見込まれたのだからな。それにこの仕事は機密事項も含んでいる。誰でも良いという訳にはいかんのだ」

「それはわかっていますが・・・」

「我々が施術に立合ったリアエナルダ達が前線で活躍しているのだ。我等の働きの成果ではないか」

「えぇ・・・」


ここで施術を担当するマスターエナルダが周囲を見ながら口を開く。

「では、融合施術を開始する」


今回の検体は40歳台の男性。中級エナルダだ。

施術は思いのほか順調にすすみ、検体は吊るされていた鎖から下ろされ台に乗せられた。

台は大理石の上に革と毛皮を載せ、更にきめ細かい布で覆ったベッドだ。

手足の鎖はつけたままにオルグ化を確認する。

検体は目を覚ました。

その目は天井を見ていたが、リードは自分が見つめられているような錯覚を覚えた。

そして検体が、シューベックやマスターエナルダを順に確認しているように感じた。

瞳は動いていないから、そのような事はないだろうが・・・


マスターエナルダが声を掛ける。

「おい、気分はどうだ?」

「・・・」

答えられないようだった。

マスターエナルダも少々違和感を覚えた。

術後の検体は強い眠気を感じるものなのに、この検体は目をはっきりと開いたままだ。

そして機械的な声を漏らす。

「キブン・・・」

「お前はエナルダ融合施術を受けたのだ。大きな力を得る為に」

「チカラ・・・」

「私が言っている事が分るか?眠いなら寝ても良い」

「ネムイ・・・」

検体は目を閉じた。


「検体に混乱や凶暴性は認められない。成功だ、鎖を外して安静にさせろ」

「これからは暫く眠り続ける。施術メンバーは4時(昼を6等分したもの。午後3時ぐらい)にまた集まってくれ」


施術室に満ちた緊張がたちまち弛んでいく。

その中でリードだけは検体から目が離せなかった。

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