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7-1 昇進

ランケトス(獣毛の鳥という意味)と呼ばれる動物がいる。

この動物は猿に似た生物から進化したが、知能面ではなく空を飛ぶ事に進化した種だ。


直立すると30ミティ(約50cm)の体長に同じ長さの尾、背中には長さ50ミティ(約80cm)の翼を2枚持つ。

ただ、この翼は腕が変化したものではなかった。骨が入っておらず、羽根は生えていない。

筋肉が膜状になった翼は前縁部分が角質化して翼全体を支えている。


そして、もっとも特徴的なのは腕が自由に使えるという点だ。

羽ばたくのはぎこちないが、滑空に入ると音も無く近づき、親指が変形した鉤爪で小動物を襲う。

翼の表側は白く美しい毛で覆われ、膜状になっているので利用価値は高い。


あるとき、猟師が不思議な生物を発見した。ランケトスだと思って射った動物は、もっと大型の猿だった。

翼はあるものの飛べないようだし、翼の付け根は癒着したような痕があった。

しかし、貧しい猟師が欲しいのは今日の糧となる獲物だった。

その不思議な生物は翼も痛んでおり利用価値が無いので投げ捨てられ、誰の目にも触れなかった。


◇*◇*◇*◇*◇


「グラシス、どうだ調子は」

「はい、どんどん推力が増しています。まるで水中にいるようです」

「そうか、続けてくれ。これが成功すれば、君はマスターどころかエクサーをも超える存在になれるだろう」


◇*◇*◇*◇*◇


グラシス

彼は中級の上に分類されるエナルダだ。

彼は西の国エルトアから家族と共に渡ってきた。

移民の入国に厳しいクエーシトにおいてグラシスが受け入れられた理由は彼がエナルダだったからに他ならない。

エルトア国は技術力に長け、エナルダをあまり高く評価しない国だった。

時計を発明したのもこの国だ。武具、特に鎧については全身を装甲しながら非常に軽く、また動きやすく作られた逸品として人気が高い。


グラシスは優れた武人だったが、グラシスの能力はエナルダ覚醒によるものだと不当な評価を受けただけでなく、妬んだ上官からあらぬ罪を被せられ、家族と共に脱出を図らねばならなくなった。

バルカに入っていれば違う運命を辿っただろうが、グラシスはエナルダである事を強く意識したがゆえにクエーシトに入国する。

しかし、グラシスは入国して大きなショックを受ける。

自分の力がそれ程大きくはなかったと気付いたのだ。

さすがにクエーシトは優れたエナルダが多い。


しかも研究によって人造エナルダも誕生しているという。

彼は訓練によって、基礎体力とエナル係数の向上に努めた。

しかし、持って生まれた能力の差は如何ともし難かったのである。


ある日、いつものように一人で鍛錬を行っていた。

もっと早く動き、もっと強く打ち込み、もっと高く跳ばねばならない。

理想の自分は常に2歩前に居た。

3リティ程の距離がどうしても縮まらない。

疲れ果て、膝をついて砂を掴む。無力感が全身を覆う。

砂を掴んだ手の平だけが熱かった。

その不思議な感覚。拳に目を向けると指の間から砂が溢れてくる。


なんだ、これは?


グラシスは手の平を見た。

砂が踊っている。

手の平の上で砂が跳ねているのだ。

意識を集中すると砂は弾き飛ばされた。

手の平から目には見えないものが噴出されているようだ。

これがグラシスの能力だった。


彼は密かにその能力を高めていった。

ついには人間を押し倒すほどの噴射力を得た。

そして、彼は体術の訓練でその能力を使ってみた。

相手はグラシスが突いたのだと思った。

しかし繰り返すうちに見ている者達が騒ぎ出した。

「グラシスは触れずに相手を弾き飛ばす」

しかし、この時点ではあまり有益な能力とは思われなかった。

非常に近い位置から意識を集中して、やっと相手がよろめく程度の力。

不思議な力だ、不思議で役に立たない力。


これをジョシュが聞きつけた。

ジョシュは笑わなかった。彼は異人だ。どんな世界から来たのだろう。

しかし、彼が異人だからこそ、発想に制限は無かった。

翌日、グラシスはジョシュ直属の特殊部隊に配属となる。

ジョシュは中隊長だったグラシスに師団長の待遇を与えた。

グラシスが感激したのは言うまでもない。

エナル、いやエナルダの研究ではこの世界で最も優れている人間から評価されたのだから。


エナルダであるが故に祖国を離れざるを得なかった。

父と母にも自分のせいで随分と苦労をさせてしまった。

グラシスの昇進を父と母は涙を流して喜んでくれた。


しかし、彼の昇進を喜んだ父と母は数日後に原因不明の発作により死亡してしまった。

グラシスは、昇進を報告できた事をせめてもの慰めと考えるようにした。


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