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6-6 訓辞

俺たちをルシルヴァとホーカーが出迎えた。


「ラヴィスがさっき来てさ、クラトが奴隷を連れて帰るから面倒を見るように言われたんだ。その2人かい?」

「あぁ、この2人は親子で父親がラシェット、息子がアズレンだ。ラシェットは矢傷が元で右足が利かないんだ。ホーカー、ちょっと見てやってくれないか」


ホーカーが近づくとラシェットは荷台から降りようとした。

「いいっスよ、そのままで。俺も奴隷だったんだ。まぁ脱走奴隷っスけど」

「今はクラト隊長にくっついて中隊長やってる。あちらは大隊のルシルヴァ副隊長だよ」

「ちょっと悪いね。触るよ」


ラシェットが小さく呻く。


「クラト隊長、これはやじりが入ってますよ。鏃は砕けてるんで余り目立たないっスけど、骨の周りに破片が沢山入ってるんで痛いんですよ。城の医者ならある程度は治せるんじゃないっスかね」

「マジ?治るのか!?じゃ、早速見てもらおうぜ!」


「ルシルヴァ、一緒に行ってくれないか」

「分かった。クラトは?」

「俺はこいつをきれいにしておくよ」

ホーカーはラシェット肩をかして連れて行った。


「良かったな。治るらしいぜ」

声はしなかったが、銀色の髪が盛んに揺れている。

俺はその銀色の頭に手を乗せてもう一度言った。

「良かったな」


さて、ひと風呂浴びよう。

走り回って汗をかいたところに砂埃がついて真っ黒だ。

アズレンもだいぶ汚れている。

「風呂はいつから入っていない?」

「憶えてない。夜、川に入って洗う」

「そうか。じゃ、久し振りの風呂だな」

俺は軍事府の支給係から下着と日常服、兵士服を貰いに行った。

受領所は訓示などに使われる広場の奥だ。

そして広場の外れには兵士用の浴場がある。


アズレンと兵士用の広い浴室へ。

さすがにこの時間では誰もいなかった。

さっさと脱いでパンツ一丁。

アズレンは服も脱がないで立ち尽くしている。

「また遠慮してんのか、遠慮するなって言っただろ。同じテーブルで飯を食って、同じ風呂に入って、同じ宿舎で寝る。そうすれば仲間だ。仲間は一緒に戦うんだ。何のために戦うのかはアズレンが決めればいい」

アズレンはのろのろと服を脱ぎ始めた。

俺はパンツも脱いでタオルを首に掛ける。

アズレンは何かを避けるように後ろを向いた。


背中には傷があった。

細長い傷は褐色の肌に白い線を書きなぐったように何本もあった。

これは鞭で打たれた痕だ。

ま、こんなもの見せたくはないわな。

肩も細くて余計に痛々しく感じる。

どんな生活をしていたんだろう。

ラシェットは3年前から足の自由が利かなくなったというから、それからの苦労は倍増しただろう。

どれだけ働いたのだろうか、この細い身体で。


俺は大きな浴槽に手を入れてみた。だいぶぬるいが、暑い季節に身体を洗うには丁度良いだろう。

アズレンが入ってきたのだろう。背中に気配を感じた。


◇*◇*◇*◇*◇


その頃、広場では丁度突撃大隊が集まっていた。

ティエラ姫の直属となったので、ティエラ姫から直々にお言葉を頂ける予定だ。

中隊長以下、兵士達は極度に緊張していた。姫と口を利く機会など無い。

戦闘時は兜で顔も見えないし、平時はいつも遠くに見るだけだ。

それが今日は自分達のためだけに訓辞を賜るという栄誉に浴するのだ。


美しく強い姫。真っ赤な甲冑の騎馬隊が敵陣を切り裂き、一直線に本陣に突入して敵将を討ち取る。

突撃後は悠々と引き上げ、振り返ると敵陣に向けて刀を突き出し、振り下ろす。

骨がある者はおらぬか!と言わんばかりに。

兵士は戦場で震えるような感動を味わう。

この猛姫将とも言うべきティエラ姫のもとで戦う事に栄光を感じるのだ。


◇*◇*◇*◇*◇


ティエラ姫の準備は出来ているのに、隊長のクラトがいないという。

同行した赤騎隊副長イオリアと護紅隊隊長ラヴィスがルシルヴァに聞くと、息子のアズレンを連れてどこかへ行ったという。

ティエラ姫はもうお出ましになっている。致し方ない。

イオリアから突撃大隊の配置とその栄誉が説明され、ティエラ姫の訓辞が始まる。


「突撃大隊を我が配下に置く意味は、赤騎隊戦術の強化という点にある。この大隊には優れた者達が集まっていると聞く。バルカに弱兵は要らぬ。バルカ兵であれば即ち強兵と心得よ」「日頃の鍛錬に努めよ、戦いに勝利せよ。必ずや賞するであろう」


ここでティエラは軽く俯いて一呼吸置いた。


次に上げた顔は慈愛に満ちていた。

「そなた達が居るから私も居る。そなた達が戦ってくれるから私も戦える。バルカを誇りとせよ、私はそなた達を誇りとしよう。敵に臆するな、我は共にある」

兵士は皆“この姫のためなら”と心に刻んだ。

ラヴィスは思う。この姫だから命を懸けるのだ。

ラヴィスも気持ちが昂ぶるのを感じていた。


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