表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/267

6-4 奴隷

この世界には奴隷がいる。

奴隷は売買され、主人の所有物であり、主人はその生殺与奪権をも握っている。


奴隷は2種類に分けられる。

管理監視され搾取される者と、愛玩動物に似た存在と。

しかし、奴隷税の導入が状況を変えた。


奴隷税の導入と税率の引き上げ。

まず姿を消したのが、愛奴あいぬと呼ばれる奴隷だ。

愛奴は体力に劣り、労働者や兵士としては期待できない。

主な仕事は舞や唄、または性などの享楽的な奉仕である。

愛奴は生活力に乏しく、生きていく為には主人の保護が必要だ。よって脱走は少ない。

それならば奴隷から解放し、使用人にしてしまえば良い。

生殺与奪権を初めとする権限は低下するが、屋敷の中ならどちらによせ同じようなものだ。


搾取される奴隷とは厳しい監視の下、または家族などを囚われ、重労働や危険な任務に就く者達だ。かつてのホーカーがこれにあたる。


「お前がいた世界の事は知らないが、奴隷を持つという事は“奴隷には何も任せない”という事なのだ。生きるも死ぬも持ち主が決めねばならない」


ここでティエラが口を開く。

「あの者はもう奴隷を売るまい。完全に頭のネジが飛んでおる。損得抜きの感情に支配されて、買うと言っても依怙地になるだけだろう」

ラヴィスは、気持ちは分るというように下を向いて言った。

「諦めるんだ、それがこの世界だ」


「分かったよ」

クラトの納得した声を聞いて、これまで全く動じなかったティエラに動揺が走る。


「でもな、やっぱ無理だよ俺には。このまま見てるってのはよ」

ティエラの微かな笑みはスカーフに隠され見えなかった。


クラトが商人の前に出ると、商人は鋭い目を向け、すぐに警戒するような目つきになった。

ティエラの言うとおり、もう商人は奴隷を売るつもりが無いのだ。

商人は2人を始末して酒場で一杯やりたかった。

「お兄さん、悪いな。もう奴隷は売らないよ」

「奴隷はいらねぇよ。お前、こいつらを殺そうってんだろ?」

「俺が買いたいのは、その権利だ。こいつらを殺す権利」

「なんだって?」


クラトは剣を抜くと地面に突き立てた。

商人は15リグノ剣を見てクラトがエナルダだと思ったようだ。

クラトは続いて刀を抜いて言う。

「この剣と刀、どれくらい斬れると思う?」

商人は少し呆けた顔をした。

「人間を頭から斬り下げた事がねぇんだよ。真っ二つに斬れるかな?」


商人は ぬらり とした笑いを見せた。

「俺のナイフでやるより、少しは楽しいかもな」

「よし、売ってやってもいいが、1人1万だ」

「おいおい、こっちは500や1000だったらやってみるかって話なのに、1人1万だと?試し斬りの為に2万も出せるか」


クラトが引き返す素振りを見せた時、声を上げたのはティエラだった。

「お前!無能な者は去ってもらうぞ!」

凛として美しい声に周囲の目も集まる。


「用心棒のくせにつまらぬ事に興味を持ちおって、それに斬るなら出し物として斬れば客も少しは喜ぶだろう。2万パスクで客が喜べば安いものだ。それに気付かぬのか。だからお前はいつまでも剣や刀の上を歩いて生きねばならんのだ」

「主人、その者をあるじとして奴隷を引き渡せ」


そう言うとティエラはクラトに金の入った袋を投げつけ、ぷいっとその場を離れた。


クラトは内心では感謝しながら悪態をつく。

「くそ、あの女主人め、いつかヒィヒィ言わせてやる」

商人は若い女主人に罵倒されたクラトを見て機嫌が直ったようだ。

「15リグノ剣の斬撃を見れないのは残念だが、仕方ねぇな。しかしキツイ女主人だな。まだ若そうだが」

「あぁ、俺も奴隷みたいなもんだ」


「ま、死ぬ時は自分で決めるけどな」

奴隷の2人は初めて反応した。クラトを見つめている。


商人は金を受け取ると、もう興味を無くしたようで、空返事をした。

クラトに1000パスクを握らせて、片目をつぶる。

クラトは胸がムカムカしながらも無理に笑って答えた。

「悪ぃな。これで一杯やれるぜ」

「ま、お互い様ってな」

商人はもう一度片目をつぶると、大物の雰囲気で帰っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ