表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/267

6-1 小鳥

ティエラはここ数日気分が晴れなかった。


先日の戦闘でノッカーと呼ばれたエナルダを2体倒した。

体つきから2人とも10台半ばだと思われる。

あれほど高い戦闘力だ。戦場では有効な戦力だろう。

しかし、あんな子供を戦場に投入するとは。

戦いでは心など何の斟酌しんしゃくもされない。


こんな戦いは今回だけなのだろうか。それとも今回が始まりなのだろうか。

恐らくは悪い方だろう。

バルカ内では、今回の戦いにクエーシトの影を感じ始めていた。


クラトはエナルダの少女を殺せなかった。

己の命が危うくても殺せなかったかもしれない。全く理解できない。私なら真っ先に殺すだろう。


大きな衝撃だった。クラトの甘く柔弱なところにではない。

クラトと自分の違いが余りに大きい事がショックだった。

クラトは異人なのだ。違っていて当たり前だと思う。

しかし、私の事をあれほど理解し、認め、受け入れている・・・

それが無ければ違う事を気に病んだりしない。

私を理解する者が、私と大きく違う者なのだ。


なぜこんなにも気に懸かるのだろう。

同じく在りたいと思う。共有したいと思う。


クラトは何も欲しがらない。

他の者は、地位・金・領地を欲しがり、与えられれば喜び感謝してくれる。

しかし、クラトはそのようなものを欲しがらないし喜びもしない。

部屋に呼んでもお茶を飲んで帰るだけだ。


この者は私の許に居てくれるのだろうか。

この者を繋ぎ止める手がかりが何も無い。

何を与えれば良いのだろう。


◇*◇*◇*◇*◇


ファトマが戻った。

「ティエラ様、これを」


ファトマはクラトが参加した会議の後、ティエラ姫ではなく、ティエラ様と呼ぶようになった。

理由を聞いたが、成人しているからだという。何を今更と思ったが、そのままにしておいた。


「これは?」

「クラト様が姫にと」

「クラトが?・・・なんだろう、これは」

「判りません。でも、ティエラ様が何かお悩みではないかと仰っておりました」

「・・・」

「ティエラ様はお疲れなのですよ。あの激戦の後ですもの」

「・・・」

「あの、姫?」

「あ、あぁ、クラトには礼を言っておいてくれ」「ファトマが言うように私は少し疲れているようだ。休むから外してくれ」

「はい」

ファトマがドアの向こうに消える。

ティエラは机に突っ伏してクラトから届いた紙細工を見ていた。


紙細工はティエラが知らない“鶴”の折り紙だ。


◇*◇*◇*◇*◇


何だろう、この気持ちは。

子供の頃、父からもらった小鳥に逃げられた事がある。

窓から逃げた小鳥はしばらく小枝に留まっていたが、やがて飛び去った。

紙細工はそんな事まで思い出させた。


クラトを見るのは、小枝に留まる小鳥を見るようだ。

どうしようもない気持ちはティエラを苛立たせ、戸惑わせるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ