6-1 小鳥
ティエラはここ数日気分が晴れなかった。
先日の戦闘でノッカーと呼ばれたエナルダを2体倒した。
体つきから2人とも10台半ばだと思われる。
あれほど高い戦闘力だ。戦場では有効な戦力だろう。
しかし、あんな子供を戦場に投入するとは。
戦いでは心など何の斟酌もされない。
こんな戦いは今回だけなのだろうか。それとも今回が始まりなのだろうか。
恐らくは悪い方だろう。
バルカ内では、今回の戦いにクエーシトの影を感じ始めていた。
クラトはエナルダの少女を殺せなかった。
己の命が危うくても殺せなかったかもしれない。全く理解できない。私なら真っ先に殺すだろう。
大きな衝撃だった。クラトの甘く柔弱なところにではない。
クラトと自分の違いが余りに大きい事がショックだった。
クラトは異人なのだ。違っていて当たり前だと思う。
しかし、私の事をあれほど理解し、認め、受け入れている・・・
それが無ければ違う事を気に病んだりしない。
私を理解する者が、私と大きく違う者なのだ。
なぜこんなにも気に懸かるのだろう。
同じく在りたいと思う。共有したいと思う。
クラトは何も欲しがらない。
他の者は、地位・金・領地を欲しがり、与えられれば喜び感謝してくれる。
しかし、クラトはそのようなものを欲しがらないし喜びもしない。
部屋に呼んでもお茶を飲んで帰るだけだ。
この者は私の許に居てくれるのだろうか。
この者を繋ぎ止める手がかりが何も無い。
何を与えれば良いのだろう。
◇*◇*◇*◇*◇
ファトマが戻った。
「ティエラ様、これを」
ファトマはクラトが参加した会議の後、ティエラ姫ではなく、ティエラ様と呼ぶようになった。
理由を聞いたが、成人しているからだという。何を今更と思ったが、そのままにしておいた。
「これは?」
「クラト様が姫にと」
「クラトが?・・・なんだろう、これは」
「判りません。でも、ティエラ様が何かお悩みではないかと仰っておりました」
「・・・」
「ティエラ様はお疲れなのですよ。あの激戦の後ですもの」
「・・・」
「あの、姫?」
「あ、あぁ、クラトには礼を言っておいてくれ」「ファトマが言うように私は少し疲れているようだ。休むから外してくれ」
「はい」
ファトマがドアの向こうに消える。
ティエラは机に突っ伏してクラトから届いた紙細工を見ていた。
紙細工はティエラが知らない“鶴”の折り紙だ。
◇*◇*◇*◇*◇
何だろう、この気持ちは。
子供の頃、父からもらった小鳥に逃げられた事がある。
窓から逃げた小鳥はしばらく小枝に留まっていたが、やがて飛び去った。
紙細工はそんな事まで思い出させた。
クラトを見るのは、小枝に留まる小鳥を見るようだ。
どうしようもない気持ちはティエラを苛立たせ、戸惑わせるのだった。