1-4 生還
井戸の底が崩れて地下に落ちた俺は、洞窟を彷徨った末に地上へと生還した。
「は、ははぁ、はあぁ!」
変な笑い声が出た。
「助かった。とにかく助かった」
俺は這い出すと草の上に寝転んだ。
何という爽快感だろう。こんな気分は初めてだ。
空気が美味い。決して大袈裟ではなく本当に美味い。
しばらく草の上で太陽の暖かさを感じながら深呼吸をしていた。
俺は陽の暖かさと草の匂いに包まれ、助かったという感動を味わう。
陽が高い。昼頃だろう。
改めて見渡してみると、出てきた場所は林のなかにぽっかりと空いた草地だった。
秘密基地の辺りは植林された杉が多かったが、この森は広葉樹なので、ずいぶんと離れたところから出てきたのかもしれない。
立ち上がって振り返ると、ここは丘になっていて結構上の辺りから這い出した事が判った。
草地の端には丘を下る小道がある。
まず、リュックの中を確認した。一番の心配は財布だ。
心配したとおり財布はなかった。
「免許やらカードやら面倒な事になったな・・・」
舌打ちしつつ、確認を続ける。
バイクのカギはあった。
スポーツドリンクのボトルが2本、その場で1本の半分を一息に飲む。ウマイ。
他には赤のバンダナとタオルだけだった。
タバコも無い。井戸の底でリュックを引っ掻き回した時に失くしたらしい。
カーゴパンツのポケットに手を入れるがライターも無くなっている。
お気に入りのジッポだったがしょうがないだろう。
ふとベルト通しにぶら下げた携帯灰皿が目についた。
タバコが無い事を間抜けに感じた。
携帯電話は井戸のところにあるだろうから、痛いのは財布だけか。
下りたら電話で母さんに連絡するしかないだろうな・・・面倒なコトになったと思いながらも、早く声を聞きたかった。
休みは明日までだ。会社には間に合うな。
その時、頭は休みの間にやっておこうと思っていた仕事を思い出した。
明日は仕事で潰すしかないか。
休みが完全に無駄になってしまった。
・・・いや無駄でもないか。
そうだ無駄ではない。母さんに連絡しよう。