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5-1 潜入

訓練に明け暮れて6月も終わろうとしている。

徹底的な体力向上を目指し20日余りが過ぎた。徐々に効果が現れる頃だ。


努力に対する効果というものは分りづらい。

努力によって力は付く。確実にだ。

それはグラフで表せば、なだらかな上昇を描く。

しかし、その力が目に見える形で現れるのはそれと一致しない。

力がある程度上昇した時に、また何かのきっかけで、それまで上昇していた分の力が発揮されるのだ。

つまり、階段のようなグラフになるだろう。

だから力が欲しければ続けなければならない。

肉体の苦痛と、迷いという苦悩を伴う努力を。

そして突撃大隊は階段を一歩登る状態にあった。


◇*◇*◇*◇*◇


事件は午後の休憩時間に起きた。

第3エリアにある調練場で騒ぎが起きているらしい。


バルカの本城は城と3つの城壁で成り立っている。

領主と貴族、要職者などは第1の城壁、重要な機関や設備、軍の上層部は第2の城壁、軍と特別市民は第3の城壁に守られている。全市民を守る第4の城壁もかつては存在していたが、完全に崩れてしまい、今では境界線の役目しか果たしていない。

そしてそれぞれを第1~4エリアと呼んでいる。


第3エリアの南城門に近い第2調練場で起きた騒動。

喧嘩だという声も聞こえる。

他部隊、特に違う軍団とのいさかいはよく起きる。

大抵は大隊長や師団長が出て収まるのだが、今回は収まらないどころか騒ぎは大きくなるばかりだった。

クラトと談笑していたラバックとスパイクは持ち前の野次馬根性を発揮してすっ飛んでいく。


その直後、誰とも知れない悲痛な声が響く。

「死人が出た!」

腰を上げかけたクラトたちが更に聞いた声は怯えを含んでいた。

「敵が侵入しているぞ!エナルダだっ!」


クラトは現場に急いだ。ルシルヴァが指示を出しつつ続く。

「ラナシド!ホーカーに準備させな!」

ラナシドは手近にいた部下を呼んで、ホーカーに事態の説明と部隊を集めるように伝令を出した。

続いて他の部下をヴィクトールに伝えるように送り出し、突撃大隊の小隊長へ部隊の集合を伝達させる。

更に軍事府への伝達に2名。自らは2個小隊を率いて第2エリアへの通路を固めるべく急いだ。

見れば第2軍団の中隊が早くも各所に向かっていた。

「よし、城は大丈夫だな。戻るぞ」

こういったところでラナシドの能力は発揮される。


ラナシドが戻ると、ホーカーが長弓隊の約半数を揃えたところだった。


◇*◇*◇*◇*◇


現場では5人の男がバルカ兵に遠巻きにされていた。

周囲にはざっと30ほどの死体がある。

その場所は調練場の端にある水汲み場だ。

桶が散乱し、水を溜めた樽がいくつも転がっている。


5人の男たちは確かにエナルダだった。

白昼堂々バルカの城壁内にまで侵入する度胸もさることながら、瞬時に30ものバルカ兵を屠る力量も驚愕に値する。

しかもこの男達はレノではなく、軍に所属する武人であるようだ。

高レベルのエナルダは中隊規模の戦力であり、5人ならばほぼ大隊規模の戦力と言える。

エナルダの集中投入によって、1個大隊規模の戦力が突然現れるという手品のような奇襲も可能という事だ。


男達の目的は不明。

偵察だけならレノで十分だし、逆にレノだったらこんな大立ち回りはせずに逃走を図るはずだ。

どこの国かは知らないが、エナルダを無用に消費する愚策と言える。


この5人は間違いなく討たれるだろう。問題はバルカにどれけだけの被害が出るかだ。

5人の生死という点では無意味な睨み合いが続く。

そこへクラトが到着する。

クラトはいきなり5人へ斬りかかった。

5人だけでなく周囲を固めるバルカ兵にも動揺が走る。

1人がクラトの剣をまともに受けて吹き飛ぶ。

クラトへ向かう4人にルシルヴァがぶつかり1人を屠る。残り3人。


侵入者を圧殺すべく周囲のバルカ兵が足を踏み出そうとした。

まさにその時だった。

周囲を固めるバルカ兵の一角が崩れた。

2人が剣を振るっている。これも敵だ。

残った3人がその場所から突破を試みる。

その3人に黒いものが近づき、1人を斬り倒した。

斬ったのは第1軍団長レガーノ元帥。

その先でもう1人の敵が討たれ、3人が逃走を図る。

南門を突破されたら逃げられてしまう。

南門は開いていた。そこには更に2人の敵。

合流した5人は準備してあった馬で逃走する。

駆けつけたホーカーが1人を撃ち落したものの、4人は逃走してしまった。

2段構えの逃走路確保、馬の準備など、愚策の割には用意周到だ。違和感がある。


突然、背後から馬蹄の響き。

赤騎隊だ。ラヴィスの親衛隊も混じっている。

「クラト!お主も来い!」

たった4人の敵を追うのに大袈裟な・・・

そう思いつつも俺とルシルヴァは馬上の人となって後を追った。

追いついてみると赤騎隊は副隊長のイオリアはいるものの、総勢50名程度しかいないし、護紅隊は10人程度だ。

ラヴィスに馬を寄せる。

「どうしたんだ、この少なさは?」

「どうもこうも全員が準備を整える前に姫が飛び出したんだ」

「まぁ、敵は4名だし、これでも多いくらいだけどな」

「クラト、お前も姫の直属になったのなら姫の身を第一に考えてくれ。この数、しかも軽装だ。敵の師団、いや大隊であっても包囲されたら危険だ。ましてやあの4人はエナルダなんだろう?もし高レベルだったら、あれだけで大隊規模の戦力だ」

「万が一、姫の身に傷でも負わせたら我らは死んでも償えん。お前が原因なら生かしてはおかない」

「お前、マジ顔で言うと怖ぇよ・・・」


瞬間、脳裏を小さな光が走る。

愚策と周到。嫌な予感が押し寄せる。


俺は馬の横腹を蹴ってティエラを追った。

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