4-7 結成
歓迎式典の翌日、クラトとディクトールは揃って退院した。
「じゃぁな、ディクトール」
ディクトールは礼をしただけだった。
◇*◇*◇*◇*◇
迎えに来たルシルヴァによると、突撃大隊は既に兵士の補充も済んでいるらしい。
「補充されたのは荒くれ者ばかりらしいよ。各軍団とも、これ幸いとばかりに厄介者を選抜したようだね」
「それに突撃隊は4個中隊で、残りの2個中隊はホーカーの長弓隊なんだ。どういうつもりかね」
「ま、おいおい増員するとして、援護の長弓隊とは連携も必要だからな。今のうちから一緒に動いておいた方がイイって事だろ」
「しかし昨日は凄かったね。いい立会いだったよ」
「そぉか?負けちまったし、まだ首が痛ぇよ」
「あれは負けたとは言わないよ。それに、あの立会いに勝ち負けは意味無いと思うけど」
「そんなモンか?」
「それはそうと、もう全員揃ってるよ」
「え、誰が?」
「何言ってるの、もう。突撃大隊の隊員だよ」
「あ、そうか」
「じゃ、挨拶頼むね。ク・ラ・ト・たーいちょ」
「えぇ~?聞いてねぇよ。そんなの慣れてないしなぁ」
「いいんだよ、適当で。俺について来い!みたいな感じで話をすれば」
「そぉ?じゃテキトーにね」
◇*◇*◇*◇*◇
「あ、クラトさん、いやクラト隊長。待ってましたよ」
「ホーカー、また一緒だな。よろしく頼むな」
「はい、頑張りますよ!俺も中隊長になったし。奴隷だった俺が・・・」
「おいおい泣くなよ、相変わらずだな」
「すんません」
「あ、長弓隊は2個中隊の規模ですけど、一つの隊として運用します。突撃大隊長弓中隊って感じっスね。第3軍の弓隊から若い兵士が選抜されたんで鍛えるのに時間が掛かりそうです」
「戦場で長弓を撃てるようになるまでどれくらい掛かる」
「ん~、1ヶ月は掛かるでしょう。救われるのは歩兵としての基本訓練はしっかりと行われているって事ですかね」
「今月中に何とかならんもんかな?」
「今日が10日だから、あと26日っスね・・・やってみます。確約は出来ませんけど」
「よし、頼む。6月30日に経過を教えてくれ」
「わかりました」
俺たちのやりとりをルシルヴァが微笑みながら見ている。
大隊長が俺、副長がルシルヴァ。長弓隊はホーカーが隊長だから、あと4人の中隊長が必要だ。
◇*◇*◇*◇*◇
クラトが大隊の集合場所に姿を現すとどよめきが起きた。
「クラト・ナルミだ」
歓声が上がる。
「突撃する時には必ず俺が先頭に立つ。俺が倒れたら副長のルシルヴァの指示を仰げ」
「ルシルヴァが倒れたら、中隊長に指揮を執ってもらう」
「で、中隊長に立候補する奴はいるか?」
「おう!」「あいっ!」
勢い良く二人が手を挙げた。
一人は色黒でガタイのいい奴だ。口の周りに髭をたくわえ、頭は剃りあげている。
もう一人は長身で細身、手足が長い。目を開けているのか分らないほど細い目に口元には笑み。
「名前は?」
「俺は第3軍で中隊長をしていたラバック、俺の部下はそのまま俺にまかせてもらいたい」
「私は第2軍で中隊長をしていたスパイクです。同じく元々のメンバーで中隊を組ませて下さい」
「構わんよ。ただ、問題があれば代えるぜ」「後2人だ。誰かいないのか?他薦も認めるぞ」
「一点お伺いしてもよろしいか」
30歳台も半ばだろうと思われる男が声をあげた。
許可すると、立ち上がって話し始めた。
「私は第2軍から転属となったラナシドです。隊長の意向には従いますが、中隊長を立候補などという方法で決めて良いものでしょうか。大隊長が審査なり面接なりをして決めて頂くのがよろしいのではないでしょうか」
ラバックが怒鳴る。
「てめぇ、俺じゃ役不足だってのか!」
俺はラバックを遮るように言う。
「じゃ、お前にやってもらおう」
『は?』ラバックとラナシドの声は同時だった。
「だから、ラナシドに中隊長をやってもらう」
「いや、しかし」
「俺はお前の意見を聞いて決めたんだ。やってもらうぜ」
ラバックとスパイクは大笑いしている。
「さーて、あと一人だ。中隊長がシャンとしないと全滅だからな。良く考えろ!」
・・・
「俺にやらせてくれ」
全員の視線が集中した先にいたのはディクトールだった。
「駄目だ。お前はウチの所属じゃないだろ、何言ってんだよ」
「許可は得て来ました。頼みます」
「ルシルヴァ、どう思う?」
「いいんじゃない?ディクトールは強いし」「むしろどう戦わせるかはクラト次第でしょ」
「そうか、よし、ディクトールを中隊長にする」
ザワつきは徐々に大きくなり、歓声に変わる。
「よーし、じゃ中隊長は順番に俺と立合ってもらうぜ」
・・・
一気に静まり返った。
「あ、ディクトールは一昨日やったからいいよ。なかなか終わらないから面倒だし」
それから3人、全力で打たせた。
打撃が鋭い。なかなかの剣圧だ。
見ている者が引き込まれる。
最後に俺から一撃、3人とも弾かれる。
「よし、いいだろう。中隊長の力は十分にある。精一杯やってくれ」
歓声が上がる。
この大隊はスゲェ!
そんな声も聞こえる。
歓声が一段落すると、ラバックがいきなり声をあげた。
「クラト隊長の下で戦うのはいいが、副隊長さんは女だよな。大丈夫なのかね?」
「おいおい、お前死ぬぞ?」
俺は笑って相手にしなかったが、ルシルヴァは真に受けた。
「ほぉ、やってみるかい?」
奥歯を噛みながら笑っている。
ヤバイ。ルシルヴァが切れた。
コイツは俺の事をあーだこーだ言うくせに結構切れやすい。
ラバックも結構強いが、ルシルヴァ相手ではとても敵わないだろう。
切れたルシルヴァが手加減するとは思えない。
最初から大怪我されてはたまらん。
「よし、じゃ、俺がルシルヴァと立合ってみようか」
「なに言ってるんだよ。さっき退院したばかりだろ?」「じゃ、今日のところはクラトに預けるよ」
という言葉を期待していたが見事に裏切られる。
「そうかい、丁度良かった。クラトには一回負けてるからね。あの時の借りを返させてもらおうか」
なぬー!やるってか!?
やべぇ、昨日の今日だし、ラバック達の打ち込みで結構ダメージ食らってるんですけど!
ど、ど、どうする?
しかたねぇ、やるしかねぇか。
しかし、ルシルヴァは面白い女だ。
「お前、やっぱりイイ女だな」
「な? な、なにを・・・」
(どごぉッ!!)
ルシルヴァの拳は俺の脇腹、やや後ろにめり込んだ。
「うおぁ・・・や、やばいタイミングで入った・・・」
「きゃー!クラトごめーん!!」
俺はめでたく再入院となった。