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3-12 処刑

貴様ら盗賊は、殺し、奪い、去っていく。

死刑なのは間違いないが、長官が不在だ。牢に入っていろ。

長官がお戻りになり次第、貴様らには死んでもらう。


「さっさと殺しゃいいじゃないか、長官とやらがいなけりゃ何もできないのかい?」

「バカ者が。貴様らの死刑は決まっていると言っただろうが。長官がお決めになるのは、お前達をどうやって殺すかだ」


討伐隊は内務府隷下の治安庁に属している。長官とは治安庁のトップだ。

その長官の到着は2日後になるという。

「まさか簡単に死ねるとでも思っていたのか?このところ盗賊が増えた。郷への反逆行為がどのような結果になるか思い知らせてやる」

討伐隊の隊長は楽しそうに続ける。

「まぁ、百分刑かリグノ刑・・・長官の機嫌が良ければ百本刑かもな」

隊長が笑いながら手を挙げると、兵士が10人も集まってきた。

クラトとルシルヴァは引き立てられ、牢へ放り込まれる。

水さえ与えられなかった。後2日生きてさえいれば良いのだから。


「おい、さっきのハゲが言ってた刑の意味が分らないんだが」

「ハゲね、ハハッ。そうか、アンタは異人だったね」

「百分刑ってのは身体に百本の線を描いて、心臓から遠い順から切断していく処刑方法だ。ま、途中で出血多量で死ぬけどね」

「リグノってのは重さの単位だよ。何て説明すればいいかな。ん~、あたしの体重が110リグノだ。アンタは120はありそうだね。そうだ、アンタの剣が15リグノだよ。あれは通常剣の中で一番大型のもので、エナルダじゃない限り扱えない代物さ。それを片手で振り回すんだからアンタ異常だよ」

「1人だったら捕まる事もなかったろうに、初めてだよこんな男は、本当に・・・」

ルシルヴァは俺の顔を少し見入った。

視線が近づくのを感じる。

「俺が変わってるのは異人だからかな?」

ルシルヴァは慌てたように説明を続ける。

「あ、リグノ刑だったね。脇の下にロープを結んで吊り下げて、縛った足に1リグノずつ錘を足していくんだ。一度見た事があるけど、関節が外れて足が異常に長くなってた。しかもなかなか死ねないから苦しいよ」

「百本刑は身体に百本の釘を打ち込む刑。もっとも5本目が心臓、6本目が額だから、余り苦しまないで死ねるかな。昔は心臓と額は最後だったらしいけど」


説明を聞いていて胸が悪くなってきた。

それにしても屈託無く説明するよな。この女は。


改めて横顔を見ると、非常に美しい顔をしている事に気付く。

赤い髪に浅黒い肌、目の下を横に走る傷痕、それにあの口調。

ルシルヴァの美しさを隠すものは多い。

「な、なに見てんのさ」

「いや、なかなか美人だな。と思ってさ」

ルシルヴァが目を丸くすると同時に頬が染まる。

(ドガッ!)

「ぐぅ、痛ぇ・・・」

「じょ、冗談いってんじゃないよ!まったく!」

「お前、けが人じゃなかったっけ・・・冗談みたいに痛いよコリャ。いや、美人だってのは冗談じゃな・・・」

(ガスッ!)

「ぐぁ、処刑される前に死んじまうよ」


◇*◇*◇*◇*◇


牢に入れられてから何とか逃げ出せないものかと色々やってみたが、牢は頑丈な造りだし、足には鎖をかけられているし、どうにもならなかった。


ルシルヴァと話して過ごす。

俺はこの世界の事を色々と聞いた。

リグノの50分の1がグノン。500倍がリガルだ。

リグノは大体0.5kg位と考えてよさそうだ。

長さはリティが約80cm、50分の1がミティ、500倍がファロだ。

「今さらそんな事聞いてどうするんだい」

「色々と知りたいんだよ、知らないままってのも気持ち悪いだろ」

「じゃ、アンタの事を教えてくれないか」

俺は色々と話してやった。お互い自己紹介する時間はたっぷりある。

ルシルヴァも次第に自分の事を語りだした。


ルシルヴァの歳は23、なんだ俺より歳下じゃないか。

また殴られるから黙っておこう。

ギルモア国の西部にあるマーカスという郷の出身らしい。

ジプシーのように放浪してあの砦に落ち着いたって話だ。

ルシルヴァは俺の世界の事をしきりに聞いた。

まるでおとぎ話のようだと言っては、目を丸くして驚き、目を細くして笑う。

表情が豊かで魅力的だと感じた。

話を続けるうちにルシルヴァは少女のようなあどけなさを感じさせた。

15歳で覚醒して自警団入り、17歳で自警団隊長、18歳で村を追われて、20歳で盗賊の首領か・・・

なかなか過酷な人生だ。

戦い以外はまだ15歳の少女のままなのかもな。


◇*◇*◇*◇*◇


意外と早く時間は過ぎて、処刑の朝を迎えた。

マジでどうにもならなかった。死ぬのか?

死にそうになって痛い思いして、痛い思いして死にそうになって、結局死ぬってか。

アホくさ。ま、少しは楽しかったし、まぁイイか。

俺の、死というもの、いや命というものについての考え方が変わってきたのか、それとも現実感がないだけなのか、自分でも驚くぐらい冷静でいられた。

覚悟ってのは過酷を経験して出来るものなのだろう。


昼頃、長官がやってきたようだ。

処刑方法を決める代わりに、捕まった賊はエナルダとエナルダ以外に分けられた。

俺とルシルヴァは聞かれもせずにエナルダに振り分けられている。

エナルダと申請したのは6人だ。

隊長も落ち着かない様子で、書類を何度も確認している。

エナルダには水と粗末な食べ物が与えられた。

足の自由を奪う鎖まますます厳重になり、歩くにも難儀する。


「お前らエナルダで良かったな。とある筋からお前らを欲しいと要請があったんで、お前らは死ななくて良い事になった」

「俺はエナルダじゃないぜ」

「バ、バカッ」ルシルヴァが慌ててクラトを引っ張る。

長官の質すような視線に隊長は慌てた。

「お前ふざけるな!15リグノ剣を片手で振り回しておいて、エナルダじゃない訳がないだろうが!」


「バカだねアンタは。なにやってんだい」「それよりクラトは逃げられるんじゃないか。この鎖さえ何とかすれば」

「ん~、いいよ。お前、まだ走れないだろ」

「は?なに言ってるんだ、1人で逃げりゃいいじゃないか」

「そうもいかんだろ。仲間を裏切ってまで助けた意味がねぇよ」「そんな事したら仲間にも悪いし」

「ほんと訳わかんないね。裏切っといて何が悪いだよ・・・」

「ふふっ、クラトがおかしいのは元々だからね。ま、ありがと、うれしいよ」

ルシルヴァは柔らかく笑った。


◇*◇*◇*◇*◇


その後は監視が厳しいものの、扱いは良くなった。

俺たちは馬車で運ばれる事になり、檻車かんしゃに乗せられた。


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