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3-10 女剣士

さて、護衛傭兵隊の3人だが・・・


ジュノは指揮能力に優れ、バイカルノと同様に作戦の遂行と結果を最優先し、流されない心を持つ。

軍団を任せられる人物だ。

ルーフェン郷はギルモア国に近く、ジュノの名前はバルカ郷にも伝わっていた。

それは近隣国に響き渡ったタレス将軍の養子にして後継者と目されていたる部分があるにせよ、その実力だけでなく人柄や容姿を含めて、“ルーフェンの青騎士”と称され、特に婦人方には人気が高かった。

元第一親衛隊長という過去にこだわらず、食事の準備や歩哨、武具馬具の手入れなど、率先して行ってその真摯は姿勢は他の者の身を正すものだ。

ホーカーやクラトへの剣術指南を見ると、ジュノの才能が戦闘力だけではなく将としても優れている事がわかる。

10人預けても、1,000人預けても任務を完遂するだろう。

つまり、兵士としても士官としても将校としても優れているという事だ。


ホーカーは元奴隷らしい。バルカ郷貴族の奴隷ならば放置できないが、他国の脱走奴隷にとやかく言うつもりはない。

奴隷はその生殺与奪権を含めて持ち主の所有である。どの国でもごく普通に売買されている。

奴隷は市民としての権利は無いが、生産力として見れば市民以上のそれが期待でき、多くの奴隷を所有する事で多くの収入を得る事が可能だった。

事実、貴族は奴隷の上に成り立っていたと言っても過言ではない。

しかし近年、国や郷が奴隷税を導入してから奴隷の数は急激に減っていった。

“稼ぐ”奴隷でなければ税金で赤字になってしまうのだ。

このホーカーという奴隷は射手としての能力が高く、オルグ狩りに参加していたというから“稼ぐ”奴隷だったのだろう。その能力は先の戦いで確認済みだ。


そしてクラトだが・・・

その戦闘力はこれまで見てきた一線級の武人と比べても遜色無い。

むしろ突貫力では群を抜いている。

ただ、あまりにも不安定だ。

その力は感情の爆発であり、自らコントロールしきれていない。

これでは大小に係わらず隊は任せられない。

しかし、休憩の時など、クラトの周りには人が集まる。

皆が言う。「クラトの前だと話がしやすい」

言い方を変えれば気を遣わなくていいという事か。

聞けば異人だという話だし、あれだけの戦闘力を持ちながら“未覚醒”だとという。


不思議な男だ。ギルモア国の創世記に記された王に似ている。

創世記によれば、ギルモア建国の王は、友人のように語りかけ、親を頼るように請い、子供を守るように助ける。

喜怒哀楽を明らかにして隠すところがない。

人々は集い全てを語る。それが故に真実を知る。

真実を知り私心無くば大業の基なり。


本当に不思議な男だ。話をしていると何でも出来そうな気がしてくる。

危険だ。気をつけなければなるまい。

クラトという男、多くの人間を死に導く者かも知れない。


ランクスが合流して4日後、ギルモアとタルキアの国境にさしかかった。

ここから西に向かえばバルカ郷に至るが、バルカに入るのはまだ先だ。

ギルモア国のパレント郷を北上する。

パレント郷は東をグリファ国ベルサ郷、北東はクエーシト国と接している。

つまり両国と国境を接するギルモアにとっては重要な郷である。


ここまでランクスが見せた戦闘力はヴェルーノ卿の言葉どおり、非常に高いものだった。

ジュノはランクスの動きに武人を感じ、違和感を感じた。

そして、ランクスはサイモスが途中から先にクエーシトへ向かった事に違和感を感じていた。

それぞれの立場と思惑が交差しつつ、商隊は進む。

クエーシトに到着するのは4日後の予定だ。

そう、この旅も後4日のはずだった。


◇*◇*◇*◇*◇


国境は国の中心から外れ、賊の住処すみかになっている場合が多い。

特に最近のギルモア国内では盗賊の数が増えていた。

国力が低下している証拠だ。

盗賊は古来より山中に砦を作って暮らしているのが普通だが、村の中に存在する場合もあった。

これらの村は盗賊に貢ぎ仕える事で被害を回避し、さらに他の勢力から守ってもらうのだ。

この村と盗賊の関係は、生産と防衛の分業によって一体化し、ここに地方勢力を形成する。

この防衛の部分を自警団的な組織が担う場合もあるが、職業的武装集団の維持は、経済的にも戦闘能力的にも非常に困難であった。

この世界では盗賊も一つの職業と言えるのかもしれない。


国境で盗賊の襲撃を受ける。ランクスが合流してから3度目だ。


◇*◇*◇*◇*◇


ギルモアの国境付近で襲ってきた盗賊は、異常な強さの女首領と、戦慣れしていない配下の男達だった。

女首領にグラッサーとベックが挑み、逆に深手を負う。

戦闘力を奪ったと考えたのか、止めも刺さずに荷馬車へ向かう。

荷馬車を護るクラトは真正面からぶつかる。

もの凄い音がした。


ルシルヴァ・バークレイは目の下に真一文字の刀傷がある赤い髪の女剣士だ。

実力優先のこの世界でも女の首領は珍しい。

彼女は優秀なエナルダだった。元々の身体能力にも優れており、エナル係数が効率よく作用しているのであろう。

それまで負けた事など無かった。相手が何人であろうと打ち倒してきたのだ。

そのルシルヴァが打ち負けて身体ごと弾き飛ばされている。

弾き飛ばされながら信じられないという目を見開いた。


さすがに醜く腰を打つ事もなく、何とか踏みとどまったところへクラトの剣が横殴りに迫る。

甲冑は割れ、今度こそ文字通り身体は宙を舞った。

信じられなかった。

一太刀も浴びせられないまま地に這っている。

起き上がろうとして身体が転がる。

青い空が見えた。


クラトがゆっくりと迫る。

そこへ左右から2騎ずつ賊が迫り、2人が斬られる間にルシルヴァを馬へ救い上げた。1人は自らの馬を譲り、もう1人が手綱を引いて逃走を図る。

降りた賊は首領の逃走を見送ると、クラトに打って掛かり、追い付いたレイソンに斬られた。


今回は蹴散らすだけではなく、賊の砦まで攻め込む。

これまでの襲撃と関係ありと見たバイカルノが、クラト、ジュノ、ホーカー、ランクスを連れて追撃したのだ。


クラトが砦の中まで単独で突っ込んだ。ジュノ達は援護すべく周囲の賊と戦い始める。

「またクラトの先走りかよ。まったく」

バイカルノが剣を振るいながらもぼやく


森と岩場が混在する場所に柵が造られ、戦いにくい事このうえない。

こんなところに単独で突入するなど、無謀すぎた。

バイカルノ達はクラトが気になりつつも、なかなか突破できないでいた。


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