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3-8 依頼

何者かは分らないが敵に包囲された。

1人を仕留め、便所の裏に姿を消してから反撃に移るはずだった。

裏に回った瞬間、横から刀が迫る。


間に合わないと感じる間もなく、何かがサイモスの足がぶつかり体勢を崩した。

僅かな頭上を刀がいでいった。

サイモスは無理に体勢を立て直さない代わりに刀を確実に抜いた。

地面に預けた身体を回転させて、刀を振った男を下から突く。

しかし突きは浅く、死ぬ直前の反撃を肩に受ける。

「ぐぅ、くそっ」

前から3人、後ろから1人が駆けて来る。

前方に突っ込む。

3人は動揺した。手薄な後方へ走ると考えていたのだ。


交差して2人、切り返して1人を仕留める。

残る後方の1人は逃走を図った。

「バカが・・・」

つぶやくと瞬時に追い付き、首元へ一撃を加える。


便所の裏に戻ると、マントの男が死んでいた。

さっきはコイツに躓いたのか。

働くのが嫌いな男だったが、最後に良い働きをしたようだ。

懐に木箱はない。

あの木箱に入っていたのはマスエナルだ。そこそこの品だが、どうでもいい。

襲った男達をあらためたが、何も出ては来なかった。

荷馬車を襲った賊との関連づけるものも見つからない。


物取りとは思えない。

我々の組織に何かが近づいている。誰かが何かに気付いたのか。

用意周到な割に稚拙な戦い方をする敵の襲撃。

考えがまとまらない。

肩の傷が心臓の鼓動に合わせて痛む。


◇*◇*◇*◇*◇


バイカルノが組織しているのは武装商隊だけではなかった。

いや、むしろこちらが本業だ。

それは、この世界で“レノ”と呼ばれ、諜報活動や密書などの運搬を行う者たち。

ある者は国や郷に雇われ、ある者はその都度の契約で働く。

活動内容は幅広く、敵国の調査や諜報活動だけでなく、風説流布や情報操作、果ては暗殺まで行う。


総首領のバイカルノは配下の“レノ”達を“サバール隊”と名付けていた。

サバールとは“水飛沫みずしぶき”の事だ。

隊員は約20名。機敏さに優れた者ばかりで、やはり気の属性のエナルダが重宝される。

驚くべきはその身体能力で森の中は猿のごとく、草原では鹿のごとしと評される。

1日の移動距離は馬以上であり、駅伝制度が整った街道でも無い限り、レノの者が一番早い情報を運ぶ事になる。

その運ぶものは時として暗殺という命であったりもするのだが・・・

レノの優れた点は山道だろうと崖だろうと踏破できるところにある。

時間の最短距離を進める利点は計り知れない。

また運用に馬のような設備や手間は要らないし、隠密活動には最適なのだ。

サイモスはサバール隊を任されているが、今回は武装商隊に同行を命じられていた。


肩に布を当てて縛る。男からマントを剥ぎ取って羽織るとサイモスは一旦街を出た。

街の境界線になっている水路の外側を暫く走ってから街に入った。

あのスピードで走れば追っ手がいてもまいたはずだ。

すぐに医者へ行った。レイソンとホーカーを治療した医者だ。


◇*◇*◇*◇*◇


老人は唐突に切り出した。

「全ての面で今より満足できる仕事がある」

「どこぞの貴族か政府の者だろうが、俺を使おうって話なら、まずは名乗ってもらおう」

若い男はにらみつけ、老人はまた笑いながら詫びた。

「ギルモア国バルカ郷、内務府のヴェルーノだ」

この老人はそれ以上言わなかったが、バイカルノは国や郷の要人の名前は全て記憶している。

眼前の老人はバルカ郷の内務大臣ヴェルーノ・マラウィ卿だ。

「この男は親衛隊のランクスだ」

ランクスは目だけで挨拶をした。

茶を入れて二人の前におくと部屋の入口まで下がって控えている。


老人は目以外の笑顔をバイカルノに向けて言った。

「調べさせてもらった。お前の武装商隊を」

「それは構わんよ。隠すものは何も無い」

「お前の頭の中以外はな」

「何が言いたい?」

「お前の優れた所はその頭脳だろう。商隊を経営しているが、むしろ軍師としての才能がある」

「お前の組織ごと丸々抱え込みたいのだ」


バイカルノは警戒心が表に出ないように注意しながら聞いた。

「丸々とは?」

「武装商隊のメンバーの事だ。軍事の面でも優秀なのだよ、お前の組織は」

「言っておくが、今回のメンバーのうち、3人は雇い入れた護衛だ。そいつが欲しいんだったら直接聞くんだな」

「そういう交渉も含めての依頼だ」

「もう少し詳しく話しを聞かせてくれ」


バイカルノは無性に喉が乾いていた。

しかし喉を潤すよりも、老人の説明を欲している。

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