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3-7 交差

武装商隊の従者はやや猫背で腕が長い。

黒ずんだ顔色のうだつがあがらなそうな男だ。

バイカルノの傍に従者の姿は無かった。


◇*◇*◇*◇*◇


バイカルノは盗賊との戦いを思い返して、不思議な感覚に浸っていた。

激しい戦闘だった。記憶にあるのは腕を掴んだクラトの顔だ。

まったく甘ちゃんだよ。あいつは。


突然、背中に声を掛けられた。

若い声だ。かなり出来ると感じた。


愛想の良い商人、バイカルノが振り返る。

「わたくしでございますか?何の御用でしょう?」

「依頼だ」

「私は荷を運ぶ商人でございます。今も荷を運ぶ途中でございまして、新たな仕事はお請け致しかねます」

若い男は全てを見通しているような冷ややかな目をバイカルノに向けていた。

「仕事の声を掛けていただくのはありがたい事ですが、実に残念でございます。また機会がございましたら、よろしくお願いいたします」


若い男の重圧プレッシャーは相当なものだ。バイカルノはいつになく喋り過ぎていた。

それだけでなく、若い男の背後に老人がいる事にも今気付いた。

老人はバイカルノが気付くのを待っていたかのように口を開く。

「まるごと買いたい」

「何かのご冗談でしょうか」

「場所を変えよう。我々には時間が無いのだ。良いだろう?武装商隊の頭目、バイカルノ」


バイカルノは顔に張り付いた笑みを外して言った。

「この若い奴と込みなら、あんたを雇ってやってもいいぜ」

若い男が半歩前に出て言った。

「ふざけるな。武装風情が軽口を叩くんじゃない」

「何だ、少しは出来ると思ったが、ガキはガキか。お前らを雇う話は無しだ。そっちの話を聞こうか」

若い男はつまらなそうに横を向き、老人は嬉しそうな顔をして言った。

「では付いて来てくれ」


バイカルノは自分が細い糸を掴んだような気がしていた。

それは大きな宝に繋がっているのか。それとも生きてきた己の人生をほつれさせる糸なのか分らない。

分らないが気持ちが高揚していくのを感じた。


◇*◇*◇*◇*◇


市場の外れに酒場があった。中心からかなり外れている。

置いてあるのは安酒、建物もそうだが、テーブルやイスも古く汚れている。

当然、集まる人間も決まってくる。


陽が落ちた頃、集まる人数も人間の種類も増えていく。

その酒場の一番奥、裏口がある厨房に近く、入口が良く見えるテーブル。

顔色の悪い男が、背を丸めるようにして干した肉をかじりながら酒を飲んでいる。

そこへマントを羽織った男が近づいて座る。

顔色の悪い男は酒を注文した。

酒が運ばれて来ると、マントの男は手を付ける前にもう一杯注文する。

一気に飲み干すと、革で包まれたものをテーブルの上に置いた。

2杯目の酒が運ばれてくる。

また一気に飲み干す。テーブルの上に置かれた小さな木箱を掴むとそのまま出て行った。


テーブルに残されたサイモスは革の包みを懐に入れると暫くの間、肉をかじっては酒を飲み続けた。

つい先ほどから入り口に害意を持った気配を感じる。

暫く待ったが気配が消えない。しかし時間もない。

サイモスは新たに酒とつまみを注文し、運ばれてくると用を足すのは外かと聞いた。もちろん外だ。


酒を運んできたまだ若い男は思った。

なんだこいつ。こんな安酒を出す酒場に便所がある訳無いだろう。外の市場共同の便所に行け。


サイモスはすぐに戻るから言うと、若い男は体を寄せてきた。睨むような目つきは疑いの色に満ちている。

(俺が食い逃げってか。やれやれ)

サイモスは代金を支払い、テーブルを片付けるなと言ってから裏口から外に出た。


外へ出るとサイモスは酔った足取りで歩く。

大丈夫だ。気配は感じない。


サイモスは気付かなかったが、市場の共同便所の裏には一つの死体があった。

血でも流れていれば気付かないはずもなかったが、その死体は首を絞められていた。

首を絞められた死体の臭いは排泄物と同じだ。これでは気付かない。


サイモスは共同便所に近づきながら、かすかな気配を感じた。

右から3つ、左から2つ。

随分と念入りな事だな。サイモスは口許を少しだけ歪めて酔った足を進める。

あと数歩というところで5人の足音が聞こえた。

取り囲むように動こうとしている。


こいつ等、足音も消さずに近づくのか?

念入りなのは数だけか・・・

俺が酔っていると本当に思っているのか。

それとも5人で囲めば封殺できるとでも思ったのか。

サイモスは苛立った。

「舐められたものだ」


サイモスの酔った足取りは乱れ、左によろめく。

次の瞬間、体勢は疾駆に移り、左から近づく男の胸に短剣を押し込む。

後方では明らかな動揺が感じられた。便所の裏に回る。

と、潜んでいた男が構えていた刀を振った。


間に合わない!

言葉にもならない確信が脳裏を貫いた。

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