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3-6 意識

タルキア国を南北に走る街道。

街道の西側にある低い崖の上に2人の人影があった


「風が出てきたな・・・」

「はい」


「それにしても・・・」

老人は風に乗ってきた砂のせいなのか言葉を探しているのか、少し間をおいた。

「とんでもない者達がいたものだな」

「はい」

若い男の声が僅かに棘を帯びる。


「本格的に接触してみるか」

若い男、思慮深さに満ちた顔と力に溢れた身体を持つ男が答える。

「わかりました。では早速追いましょう。次の街で休養を取るはずですし、護衛を補充するかもしれません。どちらにせよ我々には好都合です」


老人は目の前に手をかざし、街道を南から北へと見渡した。

「あの武装商隊には、私が欲しいものが揃っている」


◇*◇*◇*◇*◇


俺は初めて人を斬った。

斬った相手は血を流し骨が砕けた。

僅かな時間の苦痛と永遠の闇を与えたのだ。


死とは恐ろしい。死自体は苦痛ではない。

むしろ苦痛や悩みから逃れる手段でもある。

死の恐ろしさは、意識の喪失だ。

今、自分がここにいる。

呼吸をし、光を浴び、自分自身を認識している。

意識が切断されたら、本当に自分は消えてしまうだろう。

そして本当の恐ろしさは、自分が消えても世界が存在し続ける事だ。

認識できない世界が存在し続ける。

見る事も感じる事もできない世界が。

それが恐ろしいのだ。


俺がいた世界でも人間は大勢死ぬ。

戦争で、事故で、事件で、死ぬはずでは無かった人間が死ぬ。


死ぬはずでは無い?

ふざけるな。永遠の命でも手に入れたつもりか?

人間は死ぬのが普通なのだ。

力と運があって、やっと生き延びる事ができるのだ。

わかったか?

命とは、我々に力と運を要求しているのだ。


誰の言葉だっただろう。頭の中に響いた。


◇*◇*◇*◇*◇


生き残った護衛は、俺たち“護衛傭兵”の他、ベック、レイソン、ロキウス、グラッサーの4人だ。

この4人は、やはりエナルダだった。

傷は軽傷で済んでいるが、レイソンが戦闘中に自分で抜いた矢はやじりが身体の中に残ってしまったらしく、次の街で医者に見せるという。

ホーカーは5本の矢を受けて重傷だが、ジュノが馬車の移動中も治療するので何とかなるだろう。

しかし、ジュノ自身もだいぶ消耗しているし、2~3日滞在するらしい。

バイカルノが途中の休憩で説明すると、武装商隊のヤツ等は驚いていた。

ベックとロキウスの話が漏れ聞こえたが、普通なら重傷者を置いてでも先に進むらしい。

また、バイカーと呼ばせる事も無いそうだ。

ジュノとホーカーは相変わらずバイカルノと呼んでいるから、バイカーと呼ぶのは俺だけだが、良くなかったかね?

でも本人が言ったんだし、気にしないでおこう。


クラトが覚醒者ではないと知ると、皆が一様に驚く。

若いベックとロキウスは興味を持ったようだが、いつも不機嫌な顔をしている年配のレイソンは、ますます苦い顔をした。

グラッサーは「エナルダであろうと無かろうと力が全てだ」とベックとロキウスに言い聞かせたが、「だからクラトは優秀だという認識で良い」と付け加えてクラトの力を認めた。


ホーカーの治療を続けるジュノにバイカルノが声をかける。

「ジュノ、次の襲撃があるかもしれん。治療を止めて自分の回復に努めてくれ」

「・・・」

「大丈夫だ、ホーカーを置き去りにはしない」


置き去りにしたらジュノはどうする。

たぶん俺たちに付いて来るだろう。契約だから。

いや、もっと根源的な、約束を守るというプライドだ。

それは俺もヤツも分っている。しかしクラトはホーカーと残るだろう。

あいつは甘ちゃんだからな。

しかし、こいつら、クラトが抜けたら力は出し切れないだろう。

それにクラトの戦闘力は惜しい。これからの旅を考えると、遠距離戦のホーカーと近距離戦のクラトは重要な戦力だ。むざむざ捨てる訳にもいくまい。


「ホーカーを残すとクラトも残る。ヤツ等が抜けると戦力的に旅自体が困難になる」

「わかりました。そうしましょう」


◇*◇*◇*◇*◇


「お、俺はいつもので・・・」

「また臓物汁か!その臭いが嫌いなんだよ俺は。お前はあっちで食えよ、まったく!」「だいたい、いつものって、馴染みの客かっての!」

「クラトさん、これは本当に栄養があるんですよ。私も今日は同じものにします」

「うはぁ、タマランなぁ。両脇で臓物汁かよ。俺は肉と野菜のスープにパンでいいや」

テーブルの反対側ではベックとロキウスが笑い、レイソンは不機嫌で、グラッサーは考え事をしていた。

バイカルノは従者を連れて出掛けている。戦場で拾い集めた武具や馬を売りに行ったのだ。


バイカルノは市場に集まる品を覗きながら歩いていた。

「変わったヤツだ」

まだ左腕には掴まれた時の感覚が残っている。

右手でさすりながら、不思議な感覚に捉われてた。

一種の警戒ににた感覚。自分が変わっていくような感覚だ。

しかし何だろう。不快ではなかった。

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