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ロストA9

「彼らの状態は?」

「概ね良好です。ただ№911と№912はやはり安定していません」

「うん、仕方ないだろう。落ち着いたら能力のチェックを行ってくれ」

「それと、№513の件ですが・・・」

「あれは不幸な事故だ。№911と№912に責任はないし、もちろん№513の不手際でもない」

「しかし、どうやって説明をすれば」

「機器の接続不備とでもしておいてくれたまえ。もちろん機器類の事前準備をしたのは№513本人だ」


*-*-*-*-*-*


「こ、こんな・・・こんな事が許されるか!!」

「あんな鼻たれどもを生かすためになぜ星野が死ななきゃならんのだ!!」「水野さん・・・これが組織ってモンですか?」

「石崎君、すまないとしか言いようがない。全ては私の責任だ」

「水野さん、アンタ汚いよ!そう言われたら俺がどうにもならないのを知ってるくせに!」

「組織が悪いとでも言ってくれりゃ、少しは文句でも言おうかって気にもなるのに!」

「水野さんの責任だって言われたら、俺はどうしようも無いじゃないか! 」

「そうやって自分を悪者にして、結局は組織の中の自分を守ってるんじゃないか!」

「考え方の違いと言うつもりは無い。私の責任も、組織の決定に従うという私の考えも事実でしかない」

「くっ・・・くそぉッ!」


「・・・済みません。俺も熱くなって言い過ぎました」

「私は君のそれを必要な事だと思う。そういったものを切り捨て無視していく事で組織は白けたものになっていくのだろう」

「・・・済みませんでした」

「それで、言いづらいのだが、君は異動だ」

「異動?俺は厄介払いってわけですか」

「君にはコンタクターとして活動してもらう。とりあえず中原さんのチームだ」


コンタクター承認付きレギュレーターは戦闘系覚醒者の最高位のポジションだ。

石崎は元々戦闘系のレギュレーターだったが、その粗放な性格から大きな事故を起こし、インジケーターという望まない任務に就かされていたのだ。

レギュレーターとしての活動を望む石崎にとって、コンタクター承認付きレギュレーターとは、能力的には目標であり、過去の過失から考えれば夢だった。

確かに今回の件で石崎は良く働いた。

彼が指揮下のインジケーター達を上手く運用した事がアトラクター回収作戦において有効作用したのだ。

しかし、それはインジケーターとしての働きであり、コンタクターとしての能力とは別だ。


「俺が・・・コンタクターに?」

「そうだ、君が望んでいた仕事だ」

「コンタクター・・・俺が・・・」

突然、石崎の目から涙が溢れた。

「ちくしょう!!くそったれめ!!」

「済まない。異動の件も私にはどうにもならない」

「いや、伝えてくれたのが水野さんで良かった。他の誰かだったら感情を抑えられなかったと思います」


石崎は、憧れ、目標としていたコンタクター承認付レギュレーターに任命された。

それを告げられた時に石崎が感じた「歓喜」「自己嫌悪」「怒り」を水野は理解していた。

石崎も水野の立場を理解していた。

だからこそ、この異動を石崎は受け入れたのだ。

石崎が爆発させ、水野が理解した感情。

石崎は熱望していたコンタクターへの異動を一瞬でも喜んでしまった自分に無性に腹が立ったのだ。

組織は組織の都合で星野の命を絶った。

そして石崎に執り成すようにコンタクターの地位を与えたのだ。

組織の汚点を知る者、組織に不満を持つ者、その石崎を懐柔しようとしたのだ。

それは石崎の適正を考えたわけでもなく能力を認めたわけでもない。

しかし、石崎は一瞬であれ喜んでしまった。

「俺は何て下衆な男だ!」

投げられた餌をくわえた犬。

石崎はそう思った。


「水野さん、いつからネイバーはこんな風になっちまったんでしょう」

「ホルダーもノンホルダーも増えた。気持ちだけでは組織が保てないのだ」

「わかってはいるつもりです。むしろ異動もコンタクター以外の話だったら俺だって納得できたはずです」

「君のような人間が組織にいる事が私に力を与えてくれる。私を叱咤してくれるのだ。今後とも君は君でいてくれ」


◇*◇*◇*◇*◇


アトラクターのレギュレーター任務が正式に認められた。

また、フォーミュレーターの前段階として、インジケーターからIG、アトラクターからAGというポジションを設けた。

つまり、これによってアトラクターと従来の覚醒者の間にあった垣根は全て取り払われ、彼らはフォーミュレーターは勿論、コンタクター承認付きレギュレーターになる事も可能だ。

この時点でアトラクターという名前の意味は消え、後に施術によって覚醒した者の正式配属前の状態を表すものとなっていく。

しかし、このような体制が整えば整うほど、人に対する細やかな配慮は消えてしまうものなのだ。


誰も考えなかったのだろうか。

覚醒者とは常に不安定である事を。

そして人間の精神とは時として非常に脆い事を。


◇*◇*◇*◇*◇


ネイバーのレギュレーターは急激に増員された。

レギュレーターが活動すれば、当然ながら損失ロストが生じる。しかし、ネイバーのレギュレーターは次々と補充され、他の覚醒者組織を圧倒し始めていた。

そのレギュレーターとはかつてアトラクターと呼ばれた者達であり、施術によって作り出された覚醒者だ。


この不自然かつ、圧倒的な状況は、他組織にネイバーが覚醒施術の技術を確立した事を、はっきりと認識させ、そして敵対させるに十分な理由だった。


「他の組織は悟ったでしょうな」

「そうだろう」

「サーヴェントからは問合せすらありません。完全な敵対組織として考えるべきでしょう」

「覚醒者組織の戦いなど結局は水面下の動きでしかない。今後はより大きな権力が必要となるだろう。その中で、君が担当する警察機関は非常に重要だ。武装集団といえば自衛隊だが、日常において有効なのは圧倒的に警察だ」

「はい、分かっています」

「イマージャー対応はアトラクターが安定的に提供されるようになったので、彼らの忠実さは、困難な任務も可能にした。そういった意味でもアトラクターは非常に有効と言えるだろう」

「そうでしょう。・・・しかし、私の部隊も困難な任務をこなしています」

「それは十分に解っているつもりだ。私と君だからこそ口には出さないが」

西山は喜びを感じた。

今日の会議は瀧代表とサシだ。

№901林や№902水野、№004藤田、№005中原、組織内の有力者といえる人間が誰も参加していない。

じきに私のナンバーが繰り上がるかもしれないな。

しかし、当然だ。私のこれまでの業績を考えれば。


瀧は西山の要求するような視線に気付いていたが、それを無視して言った。

「今日はこれまでにしよう。今後とも力を貸してくれ」

西山は軽い失望を見せて部屋を出て行った。


「ふぅ」

瀧は小さなため息一つで西山の件を頭の片隅に追いやった。

かねてから考えていた組織の再編。

この際、表で活動する者と裏で動く部隊は分けたい。幸い覚醒施術が軌道に乗った事で裏の仕事から何人か有能な者を表に回せそうだ。


アトラクターが有効なのは、彼らが組織への帰属意識が高く命令にも忠実であるためだ。いわゆる忠誠心が高いといえる。

しかし、それは覚醒施術を行ったフォーミュレーターへの忠誠心であり、フォーミュレーターが組織に忠実であれば、アトラクターも忠実であろうとするのだ。

ところがアトラクターは覚醒者の中でも特に不安定な傾向を持っていた。フォーミュレーターの管理下から外れると、組織への帰属意識は極端に低くなってしまうのだ。

つまり、フォーミュレーターは覚醒施術をおこないつつ、アトラクターの管理まで行わなければならないということになる。

そして、フォーミュレーターの存在がなくなると、アトラクターはその精神的支柱と組織とのつながりを失い、コントロールが困難になってしまう。

これが、後にネイバーを震撼させる、フォーミュレーターの喪失に伴なうアトラクターのイマージャー化だった。


この問題点が表面化したのは、№501林がイマージャーブリードによって殺害された時であった。

林の管理下にあるアトラクターが、エンパイヤのイマージャーを数名狩り、その報復として戦闘部隊ではない林が狙われた。もっとも、他組織はフォーミュレーターの存在に気づき、その奪取を目論んでいたのだ。

しかし、フォーミュレーターといえど覚醒者である。その抵抗による戦闘で死亡したというのが事実だ。

そして、彼が施術し管理下に置いていたアトラクターに対するコントロールは失われたのだった。


フェノル・サギータという名前の男がもたらした厄災は、実験や施術での犠牲では止まらず、覚醒者たちを混乱に陥れた。その混乱が一般人ノーマルに及ぶのに時間はかからなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


日本で行方不明者の数は年間10万人と言われる。

危機感を抱くような膨大な数だが、このうち92%は生きたまま・・・・・発見される。そして、発見時の死亡者が約6%。つまり、本当の行方不明者は2%、2,000人ほどだ。


その2%の中に、ストラグラーとアトラクターが含まれている。

それを知るのは、ごく僅かな者だけだ。


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