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ロストA4

「神代さんイマージャーに接触指示よ、ワイルド2体ツー、SD(即対応)。詳細はデータを転送するって」

「え、俺に?」

「そういう事みたいね」

「おいおい、相手のレベルは?」

「ちょっと待って・・・あ、来た来た。ん~、データではA相当ってなってるわね」

「A相当か。微妙な情報だな。って言うか、どうやるんだ?これって」

「中原さんの補助に何度か付いたでしょ。あんな感じよねぇ」

「あんな感じって、随分アバウトなアドバイスだな、おい」

「だって、私コンタクターじゃないもの、ねぇ?」

「待てよ、やっぱり変だ。何で俺なんだ?ミキだったらまだ分かるが」

「イイじゃん、パパ、これって出世よ」

「パパって呼ぶな。いいかミサト、勘違いというのは誰にでもある。しかしだな、この勘違いは俺の家庭にも影響するんだからな」

「なに言ってるのよ、娘さんはサークルとバイトであまり帰ってこないってボヤいてたじゃない」

「そりゃそうだが、それとこれとは関係ない」

「どうしてよ、パパの心の隙間を埋めてあげようっていうのに」

「俺の心に隙間なんてないよ」


「どうでもいいけど、指示を無視すると厳罰ものよ」

「おっと、そうだった。ミキ、フォロー頼む」

「指示にもそうなってるわ。神代さんがコンタクター、私とミサトちゃんがフォローするみたいね。中原さんには別チームとして指示が出るらしいから、ミサトちゃんも正規レギュレーターに認められたって事かしらね」

「きゃー!やったー!パパと仕事が出来る~!」

「だからパパはやめろって!」


◇*◇*◇*◇*◇


「最近、瀧代表の考えが分かりません。実験の強引な進め方もそうですが、神代さんのコンタクター承認の件もそうです」

「神代さんの件は特別扱いなのは間違いないだろうね、あの能力でコンタクターの任務は厳しい。それはまだ良いとして、あの実験は突発的に加速したといえるだろう。元々はBMIの実験を装って覚醒実験の検体を探すことだ。それが今じゃ覚醒物質の作用実験だそうだ」

「なにか危険を感じますね」

「そうだ、この実験は手続きを失っている。個人の意見と都合が優先されたのだ。瀧代表はワンマンだが優秀な方だ。瀧代表が正しいうちは何の問題もない。しかし・・・組織としてはやはりいびつな構造だった」

「サーヴェントとの確執も決定的になりそうですが」

「元々、瀧代表と“榊原”代表は交流があったんだ。ある意味、お互いの力を認め合った仲だといえる。しかし、“榊原”代表は組織の運営に全くタッチしなかった。だから下の連中が勝手に組織を動かし始めた。私は“榊原”代表に原因があると思うがね」

「・・・中原さん、我らネイバーは他の組織に比較して強力だと思います」

「覚醒者は覚醒者であること自体は大した力ではない。世が戦国時代でもあれば活躍できただろうがね。覚醒者の力とは、その超人的な身体能力ではなく、それらを利用して得た経済力や権力だ。だから政界・財界に多くの構成員を持つネイバーが覚醒者組織の中で抜きん出た存在となりえたのだ」

「考えても見たまえ、覚醒者とはいえども素手で軍隊に勝てるかね?戦争の不幸とは常人に超人的な攻撃力の武器を持たせたことによるのだ。それはもう政治ではなく単なる暴力ゲパルトに過ぎん」


「話が脱線したな、つまり覚醒実験など元々意味の無い実験なのだ。あれだけの資金、労力、そして犯罪に手を染めてまで実施するなど正気の沙汰ではない。他組織の反応も然りだ。エンパイヤならいざ知らず、サーヴェントまで過剰な反応を示している。むしろストラグルが冷静だ。“高原”は優れた男なのかもしれんな」

「エンパイヤは覚醒者を直接的な戦力としているし、サーヴェントは覚醒者を人間の未来形と位置づけていますからね」

「単に崩壊してくれれば良いが、イマージャーワイルドだけを大量発生させられてはたまらん。特にエンパイヤは要注意だ」


◇*◇*◇*◇*◇


「星野、おい星野。・・・おい!513ゴーイチサン!!」

「あっ、はいっ!」

「どうした寝てたのか」

「すみません、つい」

「このところ寝てる暇なんぞないからな。だがここでお前の運命が決まる。実験の検体などいくらでも集める事は可能だ。しかし、アトラクターを失うわけにはいかない」

「わかってます」

「なら管理者通信を速く復帰させろ」


管理者通信とはこのゲームにおいて管理者が個人や特定グループまたは全体に向けてメッセージを送る事だ。プレイヤーからの通信は基本的に受け付けないが機能としては存在する。しかし、この管理者通信が故障しているのだ。

プレイヤーがゲームに接続し続けている以上、プログラムは止められない。

何とかアトラクターだけに通信を行って明確な指示を与えたいが、結局、復旧できたのは全体へのメッセージのみだった。

一つの判断が下る。


*-*-*-*-*-*


それは突然視界の右下に表示され、スピーカーから音声で響いた。

『全プレイヤーに連絡:システムの故障によって不具合が発生しています』

「あれ、なにこれ?」

「これって外部通信じゃないの?」

「やった、通信が直ったんだ、戻れる方法がわかるかも!」


『全プレイヤーに連絡:復旧に努めております。できるだけ安全な場所で待機して下さい』

「お、復旧するみたいだ!」

「やったぁ~!!」

遭難した時に救難ヘリを見たらこんな気分だろうか。

そうだ、俺達は遭難していたんだ。大海原に浮く漂流者のように。

何日が過ぎたのだろう。しかし復旧されれば戻れる。戻れるんだ。

千夏ティウカ夏海アユナも跳ねるようにして喜んでいる。


その直後だった。三度みたび外部通信が表示された。

『全プレイヤーに連絡:アトラクターは集合。3名でパーティを編制し、ゲームをクリアして下さい』

「なんだ、これ?アトラクター?」

夏海アユナ分かる?」

「え、あの・・・知らない」

「何なんだ?待機してくれって言ったり、クリアしろって言ったり」


しかし、それきり通信が入る事はなかった。


夏海アユナが言った。

「クリアしよう。待ってちゃ駄目だよ、行こう」


◇*◇*◇*◇*◇


組織内で№502を与えられている水野は40歳に満たないが、ネイバー内でも古参の部類に入る。つまり若い年齢で覚醒し、優れた能力を持ち、瀧と出合い、認められた、という事だ。そして、そのナンバーから分かるように、彼はフォーミュレーターである。

急遽呼び出された彼は、石崎、星野らを指揮下に置き、この事故の解決に向けて陣頭指揮を執っている。


着任後時をおかず、瀧代表から状況の報告を求められた。

「水野君、なぜアトラクターは3人パーティを組まないのかね」

「№906が指示に従わず、DPAのパーティに留まっています」

「DPAの3人は高校の同級生だったらしいじゃないか」

「その影響は小さいと思います。№906は私が覚醒施術を行いました。優秀なアトラクターですし、組織への帰属意識が非常に強い」

「アトラクター同士の接触が困難という事はないのか」

「マップを見る限り考えづらいと思います。しかも、№906は一度№905と接触しています」

「では何故だ」

「№906の考えは分かりませんが、接触した№905はゲームクリアのために予定していたDPBの殲滅を中止しています。№906との合流失敗を想定し、パーティ要員としてDPBを保存したのだと考えられます」

「つまり№905は、№906が我々の指示に従わない可能性があると判断したのか」

「はい。DPB保存の件は、情報が限られている中で的確な判断だと思います」

「DPCにDPBの中で最も優れた1名を加えるとクリア率はどうなる?」

「52.9%です」

「む、低いな・・・仮定の話ばかりで済まないが」

「どうぞ」

「DPAのD1-009(伊藤)とD1-029(神代)が死亡したら№906はDPCに合流するだろうか」

「死亡理由にもよるでしょう」

「つまり2人を消した対象に対し、報復に走るとでも?」

「身体をこちらが確保しているので危険はありませんが、自暴自棄の行動に出ると他のアトラクターが巻き込まれる可能性があります。しかし、あの№906がそのような行動に出るなら、我々のアトラクターに対する認識を考え直さねばなりません」


「今回参加しているアトラクターは、ゲームの内容や現状をどの程度理解している?」

「他の参加者と大差ありません。彼らには参加者の中からセンスがある者を選定する任務だと伝えてありますが、彼らのフォーミュレーターとしての才能調査でもあるのです」

「ある意味、彼ら自身も被験者という事か」

「はい。ただ、アトラクターの1人が、ゲームオーバーした者のデータがゲーム内に残っているなど、異変を知らせる通信記録が残っていました」

「通信記録?」

「はい。正確には書き込み記録です。アトラクターは一般プレイヤーとは違う身分で参加していましたので、管理者への連絡用データが保存されていたのです」

「記録の内容は?」

「ゲームが終了すると消えるはずの所持品が残っているのだそうです。そして最後に、現状をほぼ正しく推測した内容の書き込みも入っています」

「誰だね、そのアトラクターは」

「№905“松原海斗”です」

「DPBの保存を判断したのも彼だな。よし、№905を中心に組み立てよう。それと・・・№908を待機させてくれ」

「まさか“ブラギ”へ新たな参加者を投入しようというのですか」

「そうだ。№906がどうしても協力しない場合、他の被験者を加えた3名ではクリア率が6割にも満たない。№908を加えたらDPCのクリア率はどうなる?」

「9割は優に超えるでしょう。全ての情報を持って参加できるのですから」

「つまり、そういう事だ」

「しかし・・・」

「意見は無用だ。ただ君は実行すればいい。それと、№908の任務はアトラクターの回収だけではない」


◇*◇*◇*◇*◇


ここでもう一つの判断が下る。被験者の身体の取り扱い・・・・だ。

彼らの状態は遷延性意識障害せんえんせいいしきしょうがい。これは重度の昏睡状態を指し、この状態が3ヶ月以上続くと俗にいう植物状態とみなされる病状である。

つまり被験者の意識は全く確認できず、その生命活動は装置または処置によって保たれている。

現在のところ、水分栄養分の補給にはNGチューブ(経鼻胃管)、排泄には介護用オムツを使用しているが、順次、胃瘻カテーテル(直接胃に栄養物などを投与するチューブ)とストーマ(人工の排便排尿口)の外科的処置が施される事となった。

これは彼らに食事と排泄を意識させないための処置である。

ゲームのキャラクターは睡眠で全てを補充され、食事や排泄などする必要はないのだ。

彼らはゲームに熱中していれば良いのだ。

現実の身体に穴を開けられ全てが晒されようと。


それは、被験者の回収断念を意味していた。

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