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ロスト①

携帯に連絡したけど出ない。

1回目は、かなりドキドキした。

2回目は、何度も掛けると引かれるかなと思った。

3回目は、電波が通じなかった。


これまで、失ったり、壊れたり、傷ついたりするのが怖かった。

気持ちに正直じゃない分、違うところで無理をしてたと思う。

何度も思い返してる。どうして言わなかったんだろう。

テーブルにあったライターの事。


でもライターがなかったら電話なんてできない。

あたしって何て弱いんだろう。


ライターをつけるとオイルが燃える匂いが心地いい。

夏休みは、時に早く、時にゆっくりと過ぎていく。


◇*◇*◇*◇*◇


千夏が、持ち主の消えた携帯へ連絡をした翌日、美沙子はテーブルの上に置いたままにしてあるハガキを手に取った瞬間、息子に呼ばれたような気がした。

息子は、もう27にもなるのに、聞こえたのは子供の声だった。

でも確かに聞こえた。確かに息子の声だった。

ハガキの表に書かれた息子の名前を見ながら

「いつも心配なのよ、アンタは。お父さんに似てるから」

話しかけるような独り言の後、自分のため息と台所の換気扇の音がなぜか不安な気持ちを掻きたてた。

なんだろう。落ち着かない。

さっき作ったきゅうりのスープもほど良く冷えている頃なのに。

迷惑がるだろうけど、連絡してみよう。

3日前と同じようにハガキを手に受話器を手にした。

「お掛けになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が・・・」

何度か掛けたが同じだった。

そうだ。よく考えたら今日は月曜日だ。

しまった、仕事中に電話しちゃった。

心の中で頭を掻きながらも、不安は心の底に溜まっていった。


◇*◇*◇*◇*◇


「おい上原、ナルミが来てないって?」

「あ、加藤主任。携帯も繋がらなくって連絡が取れないんです」

「・・・実家に連絡しろ」

「え、実家っスか?だってナルミ主任は一人暮らしじゃないですか」

「じゃ、行って来い。居なかったら実家に連絡する」「課長には俺から言っておく。すぐに行け」

「でも、加藤さんはうちの部署と違うじゃないですか」

「分ってる。でも、今日はあいつが絶対に休まない日だ」

「何です?それ」

「休み明け、特に今回は有給明けだ。こういう時にアイツは絶対に休まない。無理だろうが何だろうが、通常通りに出社する」

「意味が分りませんけど」

「いいよ、分らなくて」

課長がコーヒーカップを手に席に戻る。

「課長。ナルミが出社してないんですけど、連絡が取れないんですよ。上原に行かせたいので、許可を頂けませんか」

この課長はナルミと合わないからな・・・。放っておかれるかもな。

「来てないのか?ナルミが」「加藤君、済まなかったな。上原、行って様子を見て来てくれ」

いざとなったら、今日が締め切りの書類があると嘘をつこうと思ったが、課長はナルミが出社していない事に、加藤と同じように何かを感じたようだ。

課長は上原が出て行くのを見届けた後、念のためかナルミの携帯へ連絡をしている。

やはり繋がらないらしく、落ち着かない様子で腕を組んで何か考えているようだった。

そして「済まなかったな。後はこちらでやるから戻ってくれ」と言って小さく頷いた。


俺もナルミもまだまだって事か。俺らは知らない所で恵まれているんだ。きっと。

俺は無意識にいつもより深く礼をして部署に戻った。


◇*◇*◇*◇*◇


ライターのオイルが無くなった。

コンビニで出来るだけさり気なく聞いて、オイルの小さい缶を買う。

その夜の事だった。

偶然にテレビで見た。あのバイクは。


行方不明?

井戸の近くに携帯が落ちていたって。

井戸の中を捜索したけど、見つからなかったって。


そして私の携帯に警察から連絡があった。

着レキがあったからだ。

バイトの事と、その時に話が弾んで連絡先を教えてくれたと説明した。

また嘘をついちゃった。


同じ事を何度も聞かれた。

表現を変え、順番を変え、何度も聞かれた。



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