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15-14 潜入

ランパシア公国の首都ランパシア。

一室で会議が行われていた。

一室といっても昔は地下牢として使用されていた場所で、調度品も無ければ壁も削られた岩がむき出しとなっている。

いくつもの松明が焚かれ、明かりと温かさを提供していた。


「クソッたれめ、結局ゼリアニア兵団は来なかった。その件で問合せちゃいるが、返ってきたのは“ランパシア軍の奮戦を賞す”って紙ぺら一枚だけだ」

「派兵が遅れた理由を正式に求めるべきだと思うが・・・」

ラグロの意見にメルダが異を唱えた。

「無駄」

「無駄とはどういうことだ」

「最初から兵を送るつもりは無かった。元々ゼリアニアの西部戦線における戦略はゼリアニア(・・・・)への侵攻を抑えること。軍が拠るに適さないランパシアの領土をヴァリオンが抑えてもゼリアニアは痛くない。むしろヴァリオンは側面を突かれる位置になる」

「あの野郎、俺たちは捨て駒か」

「ヴァリオンが突破作戦で来たら2個軍団の増派があっても厳しい。後方に戦力を集中した防衛ラインを敷いた方が総合的な作戦としては理がある」

「だからって俺たちには何も言わんか。くそッ」

「ルナヴァル、ゼリアニアってのはこういうものなのか?」

「・・・」

「ルナヴァルどうした?ついでに言っておくが、お前もランパシア軍じゃ上位の将軍なんだぞ、ロングボウガン隊は大事だが、死に飛び込むような事はするな」「それと、アディアと何を話していた?」

「その件も含めまして、私は説明する義務があります」

「は?義務だと?」

「はい。まずはお聞き下さい。そしてご判断下さい」


ここにはアジッカ、メルダ、ラグロ、マゴルタ、そしてルナヴァルの5人しかいない。

まさにランパシア軍の中枢といえる。


ルナヴァルは語った。

ランパシアに身を投じた理由を。

それは私怨を晴らす戦いであって、全てではないにせよ、ここにいる人間もいない人間も欺いていた事は事実だった。

熱血漢のマゴルタはすぐにでも剣を抜きそうな顔をしている。


アジッカの低い声に視線が集まった。

「ルナヴァル、全てを話せ。そして落とし前は自分で決めるんだ」

これからの時間は裏切り者への制裁の時間だ。

全員の制裁が済むまで終わらないのが盗賊団の掟である。


ルナヴァルは生い立ちから全てを話した。

そして誰の言葉も待たず上着の前を大きく開き、美しく白い肩も胸も露にした。

すかさず松明を取ると、右の乳房に押し付ける。

人の肉がはぜる音と異様な臭い、そしてルナヴァルの押し殺した呻き声が部屋に満ちた。

さすがのマゴルタもラグロも一言も無かった。

「はぁ、はぁ・・・。わ、私は全てを捨てた。望みはザレヴィアとアリエス教会の崩壊のみ」

「他には何もいらない。報酬も位もいらない。命も復讐が終わるまでしかいらない。ランパシア軍の覇権、ゼリアニアの滅亡を報酬として、改めて私をランパシア軍に加えてはもらえないだろうか」


沈黙と異臭の漂う地下の会議室。

今はルナヴァルへの制裁の時間だ。


「ごめんなさい」

蒼い顔をしていたメルダがやっと声を出した。

よろよろと部屋の外に出て行く。

「よし、メルダは降りた。ラグロ、マゴルタ、お前らはどうだ!?」

かしら、俺も降りる。こんな女は初めてだ」

ラグロに続いて、最も怒りを露にしていたマゴルタも口を開いた。

「俺もラグロと同じだ。第3軍団の師団長になって暴れてみたいと思うくらいだ」

「よし、決まった。ルナヴァル、これまで通り戦ってもらうぜ」


「感謝する」

それだけ言うとルナヴァルは気を失った。


*-*-*-*-*-*


広場に集められたランパシア軍。

アジッカが口を開いた。

「俺たちはヴァリオンと組む」

ざわめきが起こった。

つい数日前に両軍はぶつかったばかりだというのに今度は同盟か。

ゼリアニアを利用して蛮族を平らげた後は力を蓄えて南へ侵攻するという戦略はどうしたというのだ。

「騒ぐな!蛮族なんぞ叩いたってたいしたモノは出て来やしねぇ。南を見ろ。俺たちが欲しいものは何でもある」

「俺たちは盗賊だ、ただし昔みたいにみみっちぃ盗賊じゃねぇぞ、これから俺たちが盗ろうってのは国だ。一国丸々頂こうじゃねぇか。領地も城も金も女も!」

アジッカは理論ではなく、男達の欲望に訴えた。

「よく働いた奴は将軍にでも貴族にでも取り立ててやろうじゃねぇか」

「だから戦え、戦って勝て!」

ざわめきは歓声に変わった。


そこにマゴルタに支えられたルナヴァルが姿を現す。

歓声が収まり、またざわめきへと変わっていった。

ランパシアの兵士はルナヴァルが味方を守るために最後まで前線に踏み止まったと聞いている。ヴァリオン数万を前に最後まで戦ったという。

その時の負傷だろうか、かなりの傷を負っているように見えた。

「これからも私は戦う」

たった一言だった。

男達は戸惑ったが、気持ちが昂ぶっていった。一言でいえば意気を感じたのだ。

欲望ではなく意気のために戦う。

それはプライドといおうと自尊心といおうと構わない。

見栄であろうと体裁であろうと構わない。


盗賊であった男達に精神が根付きつつあった。


*-*-*-*-*-*


ヴァリオンはランパシア軍の撤退後、ゼレンティ街道から25ファロ(約10㎞)に部隊を進出させ、バルナウル軍と対峙するゼリアニア軍を牽制した。

その上でランパシアとはにらみ合いとなっているように見せたのだ。

その理由はランパシアからの回答を待つ事にある。


そして、先の戦闘から5日目の事だった。

“ランパシアより使者きたる”

報告を受けたダイアスは一言「ほぉ」とため息のようなものを洩らした。


アディアはランパシアからの回答期限を10日とし、経過したら即刻攻撃を再開する予定だった。


ランパシアが共闘を拒むのであれば返答すら寄こさぬでしょうが、どちらにせよ答えを出す前にはルナヴァルの件を消化せねばなりません。

ルナヴァルは私怨のためにランパシアを利用していた事をアジッカに告げるでしょう。どういう形にせよ制裁を受けるはずです。処刑されるかもしれません。


「ルナヴァルは己の不利にしかならぬ事を語るだろうか」


私が同じ立場であれば告げずにはおれません。よってルナヴァルも告げると考えます。


「今更告げるとは思えないが」


ルナヴァルは復讐を強く思うが余り信念を見失っていたのです。

そのルナヴァルをアジッカがどう裁くのか、何日後に回答があるか。この2点でランパシアを計ることができるでしょう。

誰もがヴァリオンがルナヴァルを憎んでいると感じているでしょう。ランパシアをも欺いたルナヴァルをヴァリオンへの心証として処刑する事はむしろ当然と言えます。しかし、なぜ告白をしたのかを含めルナヴァルをよく知れば、ランパシアには欠かせない人物である事が分かるはずです。

また、回答までの期間ですが、3日以内であれば、それはアジッカ個人のみの意思であり、公国の体を成しても内情は盗賊団と大差ありません。逆に7日以上かかるようであれば、戦いの主導権を持たぬ者としての認識が無さ過ぎます。

もし、このような日数で回答があった場合、並び立って南に向かう相手ではございません。いずれ内部崩壊するか戦略で転ぶか、いずれにせよ対ザレヴィアで当てにできる戦力ではありません。

つまり、4~6日の間に使者が訪れる事、そしてルナヴァルが処刑されていない事、この2点が揃うのであれば、ランパシアとの同盟を締結するべきでございます。


「それはまた随分と厳しい条件をつけたものだな」


私が見るところ、アジッカはついに全てを揃えたのです。人・地・武・治・略。

5日ほど後にランパシアより使者は来るでしょう。そして確認すれば良いのです。ルナヴァルがどうなったのかを。


*-*-*-*-*-*


ランパシアの使者はルナヴァルだった。


ヴァリオン軍内でルナヴァルの名前は轟いている。

ヴァリオン軍に最も被害を与えたのはロングボウガン隊だが、ルナヴァルに恨みを持つ者は少なくあるまい。

ルナヴァルが使者であると聞いたヴァリオンの誰もが唸った。

「エルヴァ・ルゥ様を戦線離脱に追い込み、アディア様を討ち取ろうとした者が使者とは。よほど肝が太いのか、それとも狂ってでもいるのか」

その中でダイアスとアディアだけが笑っていた。1本取られたと。

「これでは問いかけるまでもない。アジッカめ、味なことをしおる」


*-*-*-*-*-*


ルナヴァルには何人もの衛兵が付いた。

先の戦いで高い戦闘力を見せつけたのだ。警戒して当然といえた。


別室に通されたルナヴァルは衛兵に声を掛けた。

「アジッカ公爵よりエルヴァ・ルゥ様をお見舞いするよう仰せつかっております。これは公爵からの見舞いの品でございます」

それは見事な装飾品や宝物、武具の数々であった。

国王に対する貢物としても十分に通用する品々に、衛兵は目を丸くしながらも問いただした。

「見舞いとはルナヴァル殿が自らみえられるか?」

当然、断るつもりでの質問だった。

「いえ。私は平和裏に交渉を行なうべく派遣されておりますが、両軍は剣を交えたばかりでございます。それにエルヴァ・ルゥ様はその際に負傷なされておいでです」「見舞いの品は先にお納めいただければ結構です。そしてこの者をお連れ下さいませ」

衛兵はルナヴァルの傍らに立つ少女に初めて気付いた。


なんだ、この仏頂面したガキは。

こんな子供を見舞いの使者に立てようというのか?

使者がエルヴァ・ルゥ様と一騎打ちで戦ったルナヴァルである事といい、ヴァリオンを舐めているのか?


思いあぐねている衛兵にルナヴァルが説明を加えた。

「その者は見舞の使者ではありますが、見舞品の一つとお考えいただいて結構です。もしエルヴァ・ルゥ様がお気に召すようであれば奴隷としてお納め頂ければ幸いでございます」


なるほど。

先の戦いで負傷されたエルヴァ・ルゥ様への謁見だからな。

献上する使者など口上を告げる形だけのものだし、危害が無い人選ならばこれで良いのかもしれん。しかし、使者自身を見舞品にするとは考えたものだ。見舞品の奴隷ならば子供である事にも納得がいく。むしろ、ランパシアは随分と気を遣ったようだ。


ほどなく見舞いの品は運び出され、衛兵は使者であり見舞品である少女を連れて部屋を出た。

エルヴァ・ルゥの部屋の前で振り返ると、少女は相変わらず不機嫌な顔のまま睨むように見上げている。

衛兵はため息をついた。

・・・それにしても、もう少し愛想が良い子供はいなかったのか。


身長は90ミティ(約150㎝)ほど。

金色の髪に白い肌の少女が初めて口を開いた。

「何をしている。早く通せ」


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