3-1 栄養
馬を売って得た金でまずは飯を食おう。
宿で馬を預け、食事をする。久々に食事らしい食事だ。
「クラトさんは何を食べますか?」
「え~っと、よう分らんわ。字が読めねぇし」
「じゃ、栄養があるものを私が適当に頼みますよ」
「おぅ、頼む」
暫く待って出てきたのは、嫌なニオイを発した大きな椀だった。
「これは・・・チト臭うな」
「慣れると美味しいんですが・・・」
バツが悪そうなジュノに悪いのでトライしようとスプーンですくってみる。
「うぉッ、何やら得体の知れない動物の臓物が・・・!」
(しかも、タップリ入ってるじゃねぇかよ。こ、これはイカン)
(どうしようか、謝っちゃおうかな。・・・いっそ滑ったふりしてこぼしちまおうか)
(調味料とか肉の臭い消しは無ぇのかな)
などと考えながら外を見ると、見覚えのある顔が一瞬見えて消えた。
振り返ってジュノを見るとジュノも気付いたらしい。
「ホーカー・・・だったよな?」
「はい。でも、どうしてこんなところに」
「よし、俺が聞いてくる」
「しかし」
「大丈夫だよ。任せとけって」
俺は刀が納まったベルトを着けると外に出た。
これで誤魔化せるかもな。あの臓物汁。
宿から出ると、ホーカーは大きな背中を向けて突っ立っている。
「おい、ホーカー」
俺が声を掛けると、びくっとして埃にまみれた情けない顔で振り向いた。
「どうしたんだ、帰らなかったのか?」
ホーカーは俯いて黙っているだけだ。
「そんなところにいてもしょうがないだろ、その桶の水で顔を洗って来い」
その時、ホーカーの腹が鳴った。
ホーカーが思わず腹を押さえる。
「腹が減っているのか?飯を食ってから話を聞くから、顔を洗えって」
俺は満面の笑みだった。臓物汁から脱出成功。
顔を洗ってきたホーカーは、ジュノに膝を着いて挨拶をした後、戸惑っていた。
「どうしたホーカー、まずは座れよ」
ホーカーは首を横に振る。
「クラトさん、彼は奴隷だったので同じテーブルでは食事をしないのです」
「ジュノは構わないか?」
「はい、私は全く気にしません」
「という事だホーカー。まずは座れって。そして栄養タップリのコレを食え」
「じゃ、俺は違うものでも頼もうかな」
「あ、もう頼みましたよ。クラトさんの事だからホーカーを連れてくると思ったので」
「・・・何を頼んだの?」
「栄養タップリの料理です」
「ンガッ!謝る!これは駄目だぁ、食えねぇよ!」
ジュノは楽しそうに笑って、違うものを頼んだと言った。
「何だよジュノ、驚かすなよ」
その横でホーカーは泣きながら肉を掻き込んでいた。
食事の後、ホーカーは言った。
「俺は命を狙ったのに許されました。恩を返してから会おうと思ってずっと後をつけて来たんです」
「でも、その前に腹が減っちまって。森なら獲物を取れるんですが・・・」
「会わせる顔なんて無いんですが、逆に頼っちまいました」
「それなのにクラトさんは、あんな笑顔で俺を・・・」
何だか勘違いがあるようだが、まぁイイか。
「奴隷の俺と同じテーブルで食事を・・・」
そんなの気にしねぇよ。
「クラトさんに当たった矢は俺が射ったのに・・・」
「そうか・・・って、お前か!コノヤロー!痛かったじゃねぇかよ!」
俺が背中をベシベシ叩くと、ホーカーはなぜか照れていた。
そんなこんなで旅の一行は3人になった。
ホーカーは力もあるし、足も速い。
馬の扱いも巧いし、気も利く。そして何よりイイ奴だ。
旅の道すがらジュノから剣術指南を受けた。
さすがは若いながら親衛隊第一隊長だけの事はある。
俺が剣道をやっていた事も随分と為になっている。
ジュノはベナプトルとの戦闘よりも、教え始めてからの方が驚きが大きいと言った。