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13-17 篭城

クロフェナ軍5,000がベリュオン城の南西から接近した。

この時、ジェダン・ウェルゼ連合軍はベリュオン城の東に主力の15,000を置き、北に10,000、南に10,000、合計35,000で城を包囲している。北と南の各10,000はウェルゼ軍、東の15,000がジェダン軍、その後方、森の外にもジェダン軍本隊20,000が展開している。

ベリュオン城西側は谷が多い山地となっており大軍の配置が困難であり、伝令や工作員などの活動が盛んだったが、それを狩るべくレノや強行偵察隊などが展開、情報戦の主戦場となっていた。ベリュオン城と北に展開するギルモア軍は連絡をとろうと多くの伝令を放ったが、その殆どはジェダンのレノ部隊に討ち取られている。


ミューレイは斥候を進路にのみ集中させていた。可能な限り速く進軍するためとはいえ、ここまで思い切れる将軍はおるまい。

斥候の情報では、ジェダン東軍15,000が主力となって盛んにベリュオン城を攻めているらしい。

「一刻の猶予もない。南側に展開している敵から叩く!」

先陣を希望して許されたミューレイはいつになく積極策に出ていた。一個旅団1,000を率いて森に入っていく。遭遇戦も覚悟の進軍は、まさに全滅と隣り合わせだ。

しかし、後方からジュノとクラトが続いていると思うと心強い。

「傭兵などと考えていたが、ジルオンの独立に向けて動き始めたのはガンファー動乱ばかりが理由ではない。あの者達の存在が私の背中を強く押したのだ」


ベリュオン城攻防戦でギルモア兵の被害は20,000を超えているだろうと思われた。常識では考えられない被害だ。ガミリム元帥、カノヴァ王の消息すらつかめない。

これは決してミューレイの責任ではない。しかし自分では気付かぬほどに冷静さを奪っていった。

クロファットの声が響く。

「左方向から敵来ます!」

「構うな!このまま進め!」

「しかし、ミューレイ様!」

「あれくらいはジュノとクラトが何とでもする!」

「今日の戦いは敵に包囲されてから始まると思え!少しでも城に近づくのだ!」

「はっ!」

ミューレイが指揮する旅団は考えられない速度でベリュオン城に迫った。

それは、敵はおろかジュノやシャオルの想定をも超えていた。

その結果、ベリュオン城の南に展開したウェルゼ軍の後方を衝く事となる。


ベリュオン城の南に陣をはるウェルゼ軍陣地は混乱が起きていた。

「後方から敵です!」

「後方から?我々の後方には5,000からの友軍が展開しているんだぞ、そんなバカな事があるか。クロフェナ軍が近づいているらしいが、どんなに早くても夕刻になるはずだ。確認してみろ」

そんなやりとりの中に、敵の斥候ラインを突破したミューレイ師団が突入する。

そのスピードは敵に驚く暇さえ与えなかった。

しかも一直線に本陣に向かい、敵軍団長と将校数名を討ち取った。

「敵を蹴散らせ!」

5,000のウェルゼ軍は僅か1,000のクロフェナ軍に追われ、東へ逃走した。


そのクロフェナ軍の後方では乱戦になっていた。

ジュノ、クラトの各500、更に後方からホウレイの1,000、シャオルの本隊2,000が軍を進めてくる。

エナル濃度が濃いせいだろうか、森の中でジュノの動きはますます冴えた。

今日は珍しく弓を装備しているが、この弓は長さが1リティ(80cm)ほどで短弓の部類に入る。射程は短いものの取り回しが容易で、このような場所では有利といえるだろう。

その速射は敵を驚かせ戦闘意欲を奪った。逃げる相手にも容赦なく矢を放ち、刀を抜いて追う。いつもながらジュノの戦い方は実に効率が良い。まるで作業のように刀を振るい、敵兵の戦闘力を奪っていく。


もう少しでミューレイの師団に追いつくとうところで東方向から優勢な敵がぶつかってきた。

「クラトさん、敵を抑えてください。私は先に進みます」

「おう、頼むぜ!シャオルと合流したら追うからな」


ベリュオン城の南西に展開していたウェルゼ南軍4個軍団10,000は突破され、東部からベリュオン城を攻撃していたジェダン東軍の軍団長は南西部へ援護が必要と判断した。

ベリュオン城を南から攻める5,000と、その後方の5,000が同時に崩れたため、ウェルゼ東軍はクロフェナ軍をギルモア増援部隊、しかも複数区域で戦えるほどの大軍だと考えた。森の中での戦闘だけに実損失は少ないが、早く立て直さないと被害は大きくなる一方だ。それに篭城するギルモア軍と連絡を取らせてはならない。

早々に2,500×3個軍団を向かわせ、北部、森外の部隊に伝令を走らせる。

結果から言えばこの判断は誤りだった。

ミューレイの突破力とクラト・ジュノの戦闘力がジェダン軍の判断を狂わせたといえる。


東から城を攻める圧力が一時弱まった。

その直後、城からも見える場所にミューレイの師団が現れ、ウェルゼ南軍へ応援に向かおうとするジェダン軍7,500の側面にぶつかった。

ジェダン軍は大混乱に陥る。ギルモアの増援が予想より遥かに早く現れた事とウェルゼ軍10,000が機能しなくなっている事でジェダン軍は動揺した。

ジェダンの軍師は森の外に展開する20,000を指揮下においてウェルゼ城、ジェダン本国、ベリュオン城包囲軍との中間に位置して情報を集めつつ作戦を遂行していた。

もし彼が東から攻めるジェダン東軍にいたら結果は違っていたかもしれない。

報告を受けたジェダンの軍師はすぐに指示を出した。

自らの軍5,000を森沿いに南下させ敵の退路を絶ち、更に5,000を攻城のジェダン軍へ補充する。北の10,000は動かさない。ここでウェルゼ軍を動かせば必ず穴となる。


万単位の軍勢が僅か3日でギルモアから到着するなど在り得ないのだ。

在り得ない事が起きる理由などない。それは事実とは違う、つまり何かを見逃していたという事だ。

ギルモアから出発したのではないが、既に接近していた軍勢でもない。ギルモア方面には斥候を濃密に展開させている。10,000もの軍勢を見逃すはずはない。

となればここに出現できる敵軍はクロフェナ軍という事になり、兵力は5,000にも満たない。更に通常よりかなり速い移動であれば更に兵力は小さくなるだろう。

「ウェルゼめ、簡単に混乱しおって」

しかし、悪態をつく軍師もミューレイの師団がベリュオン城近くにまで進出している事は知らなかった。


一方のギルモア軍は、ミューレイの旅団を城外に見ても城に篭ったまま動けなかった。

北に10,000の敵軍が構えていて、城を空けるわけにはいかないからだ。

東のジェダン軍も混乱を取り戻しつつある。

みるみるミューレイの部隊が打ち倒されていく。

「くそっ、城からは兵を出さんか・・・ならばこちらから押し入るまで!」

「あ、ミューレイ様!」

何とミューレイは先ほどまでジェダン兵が侵入しようと攻撃していた城壁の破損部分に割り込んで、更に破壊していった。これにはギルモア兵もジェダン兵も驚き、その隙に入城できるだけの隙間を開けることに成功した。

間髪をいれずミューレイは城に侵入する。

我に返ったように攻撃を再開するジェダン兵に、城のギルモア軍もミューレイ隊の援護に当たり、城壁の上から矢をジェダン軍に射掛ける。

それでもミューレイの師団は半分以上が討たれた。ジェダン兵はミューレイ隊の後から城への侵入を試みる。


「構ぇッ!!」

鋭い声が響き、城壁にずらりと弓兵が並んだ。

ぇッ!!」

侵入を試みたジェダン兵がバタバタと倒れる。

それとは別に狙撃的な射撃がロングボウガンで行われている。

指揮を執っているのはカノヴァ王のようだ。

ジェダン軍はあっという間に退いて盾を並べた。


ミューレイは何とか入城を果たした。

友軍の到着に城内が沸く中、ミューレイは報告もそこそこに元帥へ提案する。

「元帥、南西よりクロフェナ軍が侵攻中であります。直ちに城内の兵で討って出て下さいますよう」

「何を言うか、我等が城を出た途端に北の10,000が城を確保するに違いない。南には10,000、東には15,000もの敵兵だ。もし突破できなかったら城にも戻れず包囲されてしまうではないか」

「南の10,000は混乱状態にあります。しかもクロフェナ軍が中継しておればこそ撤退も可能でしょう」

「暫し待て、考る。なおも考える」

「元帥、クロフェナ軍の本隊が南西部で敵と交戦中です、今なら撤退ルートが見えています。行動を起こさねば我等はこの城で朽ち、クロフェナ軍は敵に圧殺されるしかありませんぞ!」

「待て、明日までに決める」

なおも食い下がろうとするミューレイから逃げるように自室がある5階へ戻っていった。


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