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13-14 避戦工作

イグナスからの密使を受けた元帥は上機嫌であった。

「イグナスも守りだけならなかなか大したものだからな。まぁ、ウェルゼの弱兵相手では出番はないだろうが」


カノヴァ軍が大敗した理由を考えなかったのだろうか。

カノヴァ軍が弱いのでもウェルゼ軍が強かったのでもない。

となれば第三の力が働いていると見るべきなのだ。そして地理的に第三の力がどこからやってきたのかは明白なはずだ。

ガミリム元帥は自分の欲望に都合が良い事実しか見ようとしなかった。

「セシウスとは親しいと聞いていたが、イグナスは意外と融通が利くのかもしれん」

元帥はイグナスの希望について善処すると回答、勇躍ゼリアム城へ軍を進めた。


しかし、イグナスの願いが実現する事はなかった。

“バルカとトレヴェントに不穏な動きあり”

ギルモア本国は対バルカとしてイグナスを当初の予定通りアティーレへ配置した。

「偽情報だ」

イグナスは臍を噛んだが間に合わない。

そして、その誤報はセシウスが流したものだと探り当てた。

当然、イグナスはセシウスを問い詰める。

セシウスは次のように語った。

「将軍は地、人、時を見、国家・元帥の過ちまで見通し、大局の転換に難ありと見るやへつらってまでこれに備えようとなされました。確かに将軍がお考えの通り事は進むでしょう。しかし、そうなれば将軍の御身は危ういと言わざるを得ません」「大局の転換に難ありとお考えになった理由は、本国政府の無能さと元帥の狭量でありましょう。ならば元帥がウェルゼで一敗地にまみれた場合、その責が将軍に向けられるであろう事は、むしろ必然です。名将を小人の責の転嫁で失っては国家の大損失です。故に将軍の意に沿わない事は充分に承知ですが策を打たせていただきました。恨まれようとも不満は申しません」


イグナスはセシウスの言葉を無言で聞いていたが、「我、及ばず」とだけ言い残してアティーレへ帰っていったという。

後日、セシウスの元にはイグナスから大量の礼物と慇懃な手紙が届いたという事だ。


これら一連の動きによってラムカン戦線のギルモア陣営に属する軍は全てがガミリム元帥の指揮下に入った。

カノヴァ15,000、クロフェナ8,000、ギルモア20,000。

ガミリム元帥はカノヴァに対し、道案内および相談役として1個軍団2,300を率いてギルモア軍に加わる事を求めた。残りのカノヴァ軍12,700はラムカンの拠点防衛に振り分けられ、クロフェナ軍8,000は攻略したラムカン城を拠点として後方支援を行うと決めた。

元帥が自ら率いるギルモア軍は本国から更に2万の兵力が補充され、合計40,000。これを8軍団、各5,000とした。これは対ジェダン戦の可能性を見越しての増員である。


バルナウルを始め、他の国々はギルモアの動きを黙認した。蛮族の統治が困難である事を知っているからだ。ギルモアは領土を拡大するかもしれないが、ギルモア軍にとって国内での仕事が増えるだけだろう。

だからこそセシウスは戦いでの領土拡大には反対だったし、親ラムカン部族の編入もブレシアという橋頭堡と、そこへ繋がるマバザクという有力部族があってこそ実行に移したのだ。

今回の戦いは、ラムカン西部の租借か、せめてラムカンを郷として編入すべきであり、ラムカン全土どころかウェルゼまで望むのは明らかに行き過ぎだった。


ラムカン制圧はすぐに終わった。ルペロスはギルモア軍の接近を知るとウェルゼへ逃げ込んでしまったのだ。

ギルモアはカノヴァを正当なラムカン王として認めているが、既に邪魔な存在といえる。しかしルペロスが存在している限りは正当なラムカン王であってもらわねばならない。

これにともなってラムカンのギルモア領への編入は先送りにされた。ガミリム元帥によるラムカン制圧の栄光は据え置かれた・・・・・・

形式上とはいえ、ラムカンは国家として存続し、カノヴァはその国王の地位に就いたのだ。

そして、いよいよギルモア軍によるウェルゼ侵攻が開始される。


◇*◇*◇*◇*◇


「まさかウェルゼにまで侵攻してくるとはな」

「はい。想定はしておりましたが、可能性は低いと見ていました」

「ギルモアの欲望とは恥知らずな程に強いものだな。しかし何とする」

「は、さすがに一時的にせよウェルゼまでは譲れません。ウェルゼとラムカンの国境は山岳地帯にある渓谷で、ここの領有は軍事上非常に重要です。当初ギルモアが主張していたラムカンの西部の領有は山岳地帯の全てをジェダンが押さえるので問題ではありませんでしたし、ギルモアがラムカン全土を領有したとしても事態は大きく変わりません。ただウェルゼ西部まで領有されては、ジェダンは丸裸も同然です」

「それにしても、ここまで我慢しなければならんのか?」

「はい。親ウェルゼの3部族の併合は思いのほか評判が悪いのはご存知でしょう。ウェルゼ併合は充分に気を配る必要があります」

「勝算は?」

「勝つのは間違いありません。問題はどこまで勝つかでしょう。ただ、その流れでラムカンを領有するのは何ら問題ありませんが、カノヴァとルペロスが邪魔になります」

「ルペロスは良いとしてカノヴァはどうする」

花蜂レルヴァルを差し向けます」

「レルヴァルだと!先方・・は承知しているのか?」

「承知させるのが私の仕事です。それよりも先の戦いで護神兵が5騎討たれました」

「うむ、それは聞いている。エナルダ隊にも大きな被害が出ているらしいな」

「はい。戦力として決して小さくはありませんし、緒戦では有効に機能していました。その点では痛い損失です」

「これが先方の軍師が言っていたエナルダの使いどころの難しさか」

「はい、それにしてもクロフェナの軍は侮れません。できれば当らないのが得策です」

「しかし、いずれは相見あいまみえよう」

「ただ、敵にも色々とございます。戦うべき敵と戦わざるべき敵と」

「クロフェナとは戦わざるべきと申すか」

「はい、現在のところは。時に国王、大軍への対処をご存知ですか」

「分断して殲滅せよ・・・だったな」

「仰せの通りです。そして大国に対する対処も同様なのです」


◇*◇*◇*◇*◇


ギルモア軍42,300は満を持してウェルゼに侵攻を開始した。

通常なら露払いとしてクロフェナ軍に先陣とするだろうが、よほど自信があるのか、それとも戦果を独占するためか、土地の案内役だけ伴って進軍していった。

まずはラムカン国境から近いフォルデン城の攻略が緒戦の目標となるだろう。


≪ラムカン城≫

「ミューレイ、ウェルゼ軍をどう見る」

「は、ウェルゼ軍は弱兵ではありますが、強将に率いられ強兵と化しております。故に敵将を討つを最優先とします」「数で申し上げるならば、討ち取るのに必要な力を強将5、強兵2、弱兵1、と致しましょう。強将1名が率いる中隊38名を兵から戦えば38×2=76に5を足して81となりますが、敵将から倒せば5に足す事の38×1で43となります。むしろ無力化という点でいえば更に小さい数値となるでしょう」

「先の戦いでカノヴァ軍を打ち破ったウェルゼ軍に対し、クロフェナ軍があれほど快勝できたのは、クロフェナの強力な中軍に敵将がまともにぶつかり、敵騎兵隊長、師団長とおぼしき敵将を早い段階で討ち取ったためです」

「で、戦法は」

「暗殺が最も有効です。次は分断、そして奇襲となりましょう」

「うむ。・・・バイカルノ!」

「はっ」

「暗殺は可能か?」

「優秀な者を使えば7割までは」

「成果に係らず暗殺者の生還はどうなる?」

「状況にもよりますが相手がウェルゼなら7割、もしジェダンから派遣されていれば、まず3割というところでしょう」

「それほどまでに違うか」

「はい。ジェダンから派遣されているとすれば将も兵もかなり上と見なければなりません」

「優秀な者でも3割か・・・」

「行かせますか?」

「いや、止めておこう。そんな事で失うより情報戦で活かした方が良いだろう。優れた将兵は得がたい」


≪アティーレ城≫

「元帥の軍が崩れてもクロフェナが控えておれば大敗はあるまい。しかし、クロフェナの勢力拡大は好ましくない。それならラムカンを存続させて条約で縛った方が良いだろう」

「将軍、我等が動く時は来るのでしょうか」

「恐らく我等が動く事はあるまい。動くとすればクロフェナも崩れてラムカン東部から撤退した時か・・・または、ウェルゼで戦いが膠着した時か」

「では、我等は」

「こうなった以上、積極的に関与すべきではない。あくまで本国の命令に従って動くのだ」

「積極的に助けなかったと元帥から恨みを買いませんか?」

「ははは、元帥が敗退するなら相手はジェダンだ。それなら元帥が生きているはずもなかろう」

「しかし一国の元帥が戦死するような状況を放置して良いのでしょうか・・・」

「気にするな、代わりはいくらでもいる」


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