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13-10 編成

時間をイグナスのラムカンへ軍を進めた当時まで戻す。


イグナスはラムカン制圧の命令を受けて軍を整えるのと同時に使者を送っていた。

送り先は、ジェダン、バルカ、グリファ、タルキアだった。

ジェダンに向かった使者はジレイト街道をクエーシト国境まで西へ進み、そこからジルジェオ山脈を越えてウェルゼを経由してジェダンへ至るルートをとった。

バルカに赴いた使者の任務は北の戦乱後に締結された平和条約の確認だ。こういった点でバルカは信用できる。

それが命取りになろうとも騙し討ちなどできないバルカはいずれ消えねばならない国家なのかもしれない。やはり郷としての存在がバルカを輝かせていたと言っても過言ではないだろう。

イグナスが最も力をいれたのはタルキアへの使者だった。タルキアへの使者はクエーシト管理機構へ北東部首長連合の崩壊と神聖ジェダン王国の成立、ギルモアの4部族領有、ラムカン内乱とジェダンおよびギルモアの介入を説明した。

勿論タルキアは状況を把握していたが、ジェダンとギルモアの全面戦争に至る危険性よりも、バルナウルからバルロス街道、ペテスロイ街道、ジレイト街道、タルキア街道を経た商業路の確保に興味を持ち、その確保の為にはラムカン全域をジェダンの勢力下にしてはならないというギルモアの主張を認めたのだ。

そして使者はクエーシト管理機構の職員と共にクエーシトへ向かう。

ギルモアの使者の目的の一つはこのクエーシト入り、もう一つはクエーシト領内からジェダンへ入る為だ。ウェルゼ経由の使者がたどり着かなかった場合の保険だが、クエーシト内情の偵察もかねている。

さすが敵中で城を守り続けたイグナスだけに、その行動はいくつもの事項を同時に実施する為のものだった。


ジェダンからの回答は、ギルモアとの戦いは望まないが、ラムカンの正当たる王位継承権はルペロスにあるとし、反乱軍であるカノヴァ軍との戦いも厭わないという姿勢を見せたものの、その上で交渉を行なう用意はあるとして含みを持たせた。

この予想されていた回答に対してイグナスは、ブレシアやアティーレの平和が脅かされる場合、再び戦乱に突入するのもやぶさかでないという回答を持たせている。

勿論、ギルモア本国、国王に至るまでこのような回答の許可は与えていない。いくらイグナスに総指揮の権限があるといっても、国家間の交渉権、ましてや戦端を開く権限など与えられているはずも無いのだ。

しかし、この対応によってジェダンに交渉相手はイグナスであると認識させる事に成功し、それはジェダンのシャゼル・リオンの動きすら鈍らせたという。


ラムカンの王弟を助けるという名目でラムカン入りしたイグナスはカノヴァをラムカン王として即位、宣言させ、身の安全を確保するためとして軍務から遠ざけた。

カノヴァの身に万が一の事があったらギルモア軍はその大義名分を失う事になるからだが、実際のところは、カノヴァの身柄確保とラムカン軍の指揮権を奪取である。


こうしてラムカン西部をその支配下に置いたイグナスの元に、ギルモア本国から急使が到着。東へ侵攻し全土を制圧せよとの命令が下された。

直ちにイグナスの使者がクロフェナ城へ向かう。

「クロフェナ城主シャオル・ブレシアは兵8,000を率いてゼリアム城にて合流すべし」

ゼリアム城とはラムカン西部にあるカノヴァの居城である。

一方のルペロスもかつてのラムカン本城に居るものの、軍の指揮はウェルゼから派遣された将軍が執っているらしい。

この内乱はカノヴァとルペロスの名前で戦われようと、ギルモアとジェダンの代理戦争でしかないのだ。


◇*◇*◇*◇*◇


イグナスからの使者が城を発つや、シャオルは主だった者を集めた。

シャオルは憮然とした表情で不満をもらす。

「8,000だと?クロフェナのほぼ全兵力ではないか」

「は、それはイグナス様も承知でありましょう。後詰はマバザクという事になりましょうか」

「馬鹿を申すな。この作戦は一歩間違えば・・・いや、常識で考えればギルモアとジェダンは全面戦争になる。そうなれば北部の3部族は最前線だ。バルナウルが条約を守ったとしても、マバザクは北部戦線で手一杯になるだろう」

「しかし、そのような対応はギルモア本国から指示があるのでは」

「指示だと?考えがあるならその指示とやらが出ているはずであろうが!」「ギルモアにとって大陸北部レストルニアの土地など単に面積でしかないのだ。条件が悪くなれば簡単に手放すだろうし、取られても取り返せば良いと思っているに違いない」

「では、ブレシア本国軍に協力要請を」

「いらん!」「ラオファ!」

「はっ」

「1個旅団規模の市民兵を組織して城の防衛にあたるのだ」

「はっ、承知しました」

「リョウカ、ホウレイは1個旅団を率いて我が軍の両翼とする」

「ミューレイは2個大隊を率いて、我が本隊の中核をを成せ」

「クラトとジュノは同じく2個大隊を率いて我の左右につけよ」


ここまで4,500の兵を配備した。残り3,500。


「バイカルノは居るか!」

「は、ここに」

「そのほうには特に1個旅団を任せる。ミューレイの更に後方にあって万事に備えよ」

作戦室にざわめきが満ちた。

傭兵に1個旅団?しかも最後方に置いて遊撃の構えとは・・・

これでシャオルが直接率いるのは2,000足らずとなってしまった。

ミューレイがたまらず口を開く。

「シャオル様、この陣立ては・・・」

「意見無用!」

「し、しかし」

「我が陣立ては両翼を2重にしている。本隊は両翼にクラトとジュノ、後詰にミューレイが居る。これで本隊は3,500といえよう。ラムカン東部からウェルゼにかけては地形が複雑だ、一つの隊をあまり大きくしたくない」

「リョウカとホウレイはこの戦は勝手次第とする。遊軍的な両翼と考えよ」

「この戦いは敵陣深く攻め込む事になるやもしれん。バイカルノは後方で情報を収集しつつ、万が一に備えよ。要所に砦を築きつつ進むが良い」

ここでホウレイが手を挙げる。だいぶ緊張しているようだ。

「イグナス様の軍がありますれば、バイカルノ殿の1個旅団はより有効な使い方が出来るのではないでしょうか」

「ホウレイ、そのほう、めったに発言などせぬのに今日は意見までするか」

「い、いえ、滅相もございません。ただシャオル様の本隊が少のうございます」

「ホウレイ、お主はギルモアに命を預けられるか?」

「・・・」

「そういう事だ、私が命を預けら得るのはクロフェナの兵だけだ。だからそなたにも私の命を預けよう」

「ははぁッ」

ホウレイはその場に伏して低頭した。

「皆の者も怪しんでくれるな、ギルモア無くともブレシア本城なくとも、私にはクロフェナ城があり、お前たちが居る。私が戦場に立つことができる理由がそれだ」「これで軍議を終わる。準備にかかれ!」

『ははッ』


クラトとジュノ、バイカルノにはラオファが兵を配分した。中隊長と大隊長を交えた会議が行なわれる。

クラトやジュノ、バイカルノはシャオルが直接迎え入れた傭兵であり、その力は誰もが認めるところであるので、配属となった兵士達にも不満はないようだ。

むしろ、軍において特に力量が求められる遊軍と、シャオル本隊の両翼という配置に誇りを感じているようだった。

「俺たちの役目はシャオルを守る事だ。いざって時は俺たちが壁になってシャオルを守る」

「クラトさん、シャオル様でしょ、いい加減にしてくださいよ、もう」

「あぁ、そうだったな。すまん」

兵士達はクラトの不遜な言葉に動じるふうでもなかった。

側で見ていたラオファは思った。そして兵士達も同じように感じているのだろう。

この傭兵はベルロス兵団から命懸けでシャオル姫を守ったのだ。あの時、ラオファの到着が遅れたら命は無かったはずだ。

この男は常に先頭に立って斬り込む。生きているのが不思議なほどだ。

だから言葉遣いなどどうでも良いのだ。この男の言葉とは意味でしかない。その心や精神はその行動で表しているのだから。言葉などに頼る必要がないのだ。

聞くところでは、この男は異人でこの世界に来てからは戦いばかりしてきたという。

戦場の言葉が身についても仕方あるまい。目をつぶろう少しぐらいは。

それよりエナルにも頼らず、元の世界の言葉も捨てて、この世界に自分を置こうとする姿に目を向けよう。

ラオファは誰に言うでもなく呟いた。

「シャオル様もお認めになられている」


「ま、たまに蹴られてるけどな」

腕を組んだバイカルノは楽しそうだ。

相変わらずこの男たちに戦場の緊迫感は感じられなかった。


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