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13-5 正眼

シェンリー川、ブレシア側の川原。


シャオルの目の前で強行斥候隊が次々と敵に飲み込まれていく。

敵陣はおそらく2個大隊規模でしかない。しかし上流でも下流でも同時に戦闘が発生し、ブレシア軍が放っていた強行斥候隊が敵と対峙している。

斥候といっても1個師団、そこそこ戦えるだけの戦力だし、状況からすれば小競り合いだ。それなのに兵を消耗しているのはブレシア側だけだった。

所詮強行斥候隊は敵斥候を想定した編成でしかないのかもしれない。

シャオルは1個師団の兵力を分散して簡単に失ってしまったのだ。


「許さんぞ!敵中央へ突撃する!」

上流と下流にいる敵の数が掴み切れていないのにも係らず、シャオルは中央突破を狙った。ミ

ューレイも止めきれないほどの激情に駆られている。


そのシャオルを躱すように敵陣は引いた。数が少ない事もあろうが、見事なほど迅速な後退だった。

そして、それはシャオルの激情にますます油を注ぐ結果となった。

「ミューレイは軽騎でクロフェナへ取って返せ。ラオファに兵をつけて急行させよ、以後はクロフェナ城で後方を守れ!」

「・・・しかし!」

いて行け!!」

「はッ!」

「リョウカは上流の敵に、ホウレイはバイカルノを連れて下流の敵にあたれ!必ず粉砕せよ!」

『ははッ!』

「ジュノは本隊後方につけよ、状況を見て必要であれば指揮を取れ!」

「はッ!」

馬を準備していたミューレイは耳を疑った。

「馬鹿な、シャオル様の周囲には傭兵の2将しか居らんではないか!しかも後方から必要に応じて指揮を取れとは・・・」

ミューレイの心配など気にも留めないシャオルは残ったクラトに顔を向ける。

「クラトは私と共に参れ!」

「りょーかーい」

この場にそぐわないクラトの明るい声にシャオルは一睨みしたが、急に表情を崩した。

「ハイシャムを煮て食べるような愚か者は戦場の恐ろしさも感じないと見える」

軽口も出てシャオルは落ち着きを取り戻していった。


(この異人め、たった一言で私を静めおったか)


「さぁ、私に続け!討たれた同胞の仇を討つのだ!」


◇*◇*◇*◇*◇


アジェロン軍はブレシア軍の動きを把握していた。

「僅か1,000の兵を率いているのはシャオル・ブレシアだ。周囲にミューレイもラオファなどの有力な武将も居ない。何とも無防備な、もはや愚かとしかいいようがない」

「この配置なら殲滅する事も造作ない。これまでの雪辱を晴らす時が来たようだ」

しかし、クスカから届いた伝令は15ファロ(約6km)後方の砦で防戦との内容だった。

「ばかな!目前にある勝利を掴まないでどうしようというのだ?」

アジェロン軍の軍団参謀は神経質そうに辺りを見回して言った。

「将軍、ここはクロフェナ殲滅のチャンスですぞ!ここで退くなど考えられません!何とぞ総攻撃のご命令を!」

「待て」

「しかし、このような好機は望んでも得られませんぞ」

「うむ、しばし待て」

「将軍!ベルロス兵団などの指示で動くなど我らのプライドが許しません」

「そうか、お前の意見の理由はそれか」

「な、なにを仰せられます」

「戦いの目的とは何だ?勝利を得る事に決まっている」「プライドは重要だ。しかし目的ではない。よし、砦まで退くぞ!!」


*-*-*-*-*-*


「頭目、アジェロンの外翼が退いていきます」

「まさかここで退くとはな・・・アジェロンめ、命拾いしたか」

バイカルノはサバール隊からの報告を受け、シャオルがミューレイに指示を出す前にラオファへ応援要請をしていたのだ。

「俺としたことが、これじゃクラトと変わらんな。クラトのように姫に蹴られるのは嫌だが、数時間の遅れが致命的になるからな」

ベルロス兵団に近づいたサバール隊のうち数名が討たれた。網がしっかりと張られている軍隊は危険だ。

「リョウカ隊は本隊の後を追ったようです」

「上流に展開していた敵はどうなった?」

「外翼の内側を同じく退いています」

「小さい獲物も無しか。随分ときれいに退いたな。せっかくラオファに急がせたのに」

「アジェロンの外翼が退くならアジェロン本隊は既に退いているでしょう。この展開ならクロフェナ本隊も深追いはしないはずです」

「しかし、蛮族の戦いは領主次第だ。しかもクロフェナの領主はレギオルスと呼ばれるほど激しい気性の姫だ。どうなるか分からんぞ」

「ジュノが居ります。リョウカも判断は誤らないでしょうし、クラトも分かっているはずです。シャオル姫を抑えるのも守るのも充分かと」

「まぁ、な。しかし、リョウカ、ジュノ、クラト、結構戦力を見られてしまったな」


◇*◇*◇*◇*◇*◇


ジュノは馬を飛ばすが急進するシャオルには追いつかない。

敵は退くに急いても潰走はしていない。危険だ。

今や隊は縦長となってシャオルとクラトは100騎ほどの騎馬と突出していた。

単騎追おうとするジュノにリョウカが追いついてきた。

「リョウカ殿、敵は!?」

「相手は1個大隊規模だった。討ち取った敵は少ないが蹴散らした」

「このままではどこかで包囲されます。シャオル様へ引き返すよう助言願います」

「よし、分かった」

馬をとばしてリョウカが兵士達を追い越していく。

しかし、この時すでに戦闘が始まっていた。

その戦闘は寡兵のクロフェナ軍が圧倒的に押していた。

追撃戦だった事もあるが、シャオルのハルペー、クラトの大剣、それはまるで次元が違った。

敵兵は難なく斬り伏せられ、残った兵士は背後の森に逃げ込んだ。

「よし、クラトは2個中隊を率いて右方向2ファロ(約800m)まで強行索敵せよ!」

「了解!」クラトは預けられた2個中隊を率いて走り出した。

シャオルは敵が逃げ込んだ森を前に周囲を警戒する。

地には敵兵の死体が散乱している。

ここにミューレイが居たら気付いただろう。死体の兵装がアジェロン軍のものだという事に。


そして、見慣れない甲冑を身に着けた敵将が姿を見せた。その異様な兜が目を引く。

直後、敵将の背後から兵が溢れ、たちまち乱戦となった。

「俺たちはベルロス兵団だ、お前がシャオル・ブレシアか?」

「ふん、貴様のような下賎の者に名乗る名前など無い」

シャオルのハルペーを持つ手に力が入る。

そこへ、リョウカが飛び込んできた。

シャオルの前で身構えて吼える。

「無礼者め!お前など名乗る事さえ許されるお方ではない!」

「アジェロンの大隊長は良いヤツだった」

「は?何を言ってる?」

「お前も死んだら誰かが言ってくれるだろう。良いヤツだったとな」


シャオルは息を呑んだ。

「あの構えは!」

対峙するリョウカも気付いた。この構えはまるでクラトだ。


「引けぇ!リョウカ!引くのだ!」

引こうとするリョウカにクスカが間合いを詰め、剣を払う。

辛うじて受けたが、剣を弾かれて胴が開いた。すかさずそこへ剣が突き出される。


「ぐおぁぁ!」

倒れたリョウカは立ち上がる事すらできなかった。震わせながら身体を起こそうとして地に伏した。

そこへシャオルが割って入る。

「お前だな?クロフェナのレギオルスというのは」

「バルナウルの犬め、ゼリアニアで虚勢を張っておればよいものを!」

「お互い時間がない。早速行くぞ!」

ものすごい勢いで剣が振り下ろされた。

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