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13-1 友

バイカルノはラオファ隊の第6大隊長兼軍師、ジュノはホウレイ隊の第2大隊長、クラトはシャオル直属の護衛として“雇われた”。

護衛とはいっても、シャオルは自ら前線に出てしまうので、むしろ攻撃的な動きが多くなるだろう。

ミューレイはこの配属に苦い顔をした。

これではシャオルはますます前線へ出てしまうだろう。そうなればミューレイは後方に控えねばならない。

“これではシャオルを守る事など出来ぬ”



蛮族の軍編成は小・中・大隊はレストルニアの軍団制とほぼ同様ながら、その兵力の殆どは領主が指揮する本隊であり、本隊支援・遊撃・索敵などを目的とした2~3個大隊相当の旅団で構成されている。

このような編成は国王の権力が極端に大きい蛮族特有のもので、旅団は軍団のように独自に動く事はなく、本隊の指示、つまり総指揮者の命令で動く。よって、旅団には指示を忠実に実施する事が求められ、狼煙や旗による信号、伝令体制が発達している。

もっとも現在は軍団制を敷いている国がほとんどで、ブレシア本国軍も軍団制を敷いている。戦うのがいきなり本隊では戦術に奥行きがないというのが理由だ。

戦いが単純なら問題ない。つまり平原など開けた場所での総力戦だ。

しかし、戦いは多方面で多角的に行われる。全てに指揮を執るのは不可能であり、軍団制への移行は必然であった。


シャオルは、8,000の兵力を本隊2,000、残りを6個大隊1,500名からなる旅団として運用している。軍団制を採用しない代わりに旅団の規模を2倍とし運用したのだ。

ただし、あくまで本隊が中心であり、旅団は補助でしかない。ただ、旅団単独でも充分に戦えるだけの規模にしたという事だろう。

シャオルの戦闘時における指示は非常に頻繁だ。各隊長も兵士も指示についていくのがやっとという状況だ。しかし、それが無駄な動きを無くしている。

シャオルが直接戦場に出る場合は、“勝手次第”という指示が出る。その指令を受けた旅団長は自らの判断のみで旅団を指揮するのだが、彼ら曰く、その責任と高揚そして信任への感動で身が震えるのだという。


バイカルノ・ジュノという戦力補充は、ラオファ隊の作戦能力とホウレイ隊の指揮・戦闘力を補強した形となった。これによってラオファ隊は遊軍的な動きも可能になるし、ホウレイ隊は攻守にわたって柔軟な動きができるはずだ。

そしてミューレイの意見によって、リョウカはシャオルの護衛から外し、新たな旅団を指揮させる事とした。これで攻撃戦力は大幅に向上するだろう。

リョウカが指揮していた護衛の別同部隊はミューレイが率いてシャオルを護る事となるが、ミューレイは本隊軍師としてその作戦立案や軍の編成などに携わっており、シャオルが前線に飛び出してしまうと全戦線の掌握と命令を行わねばならない。

ミューレイとて武に劣るわけではないが、シャオルの戦い方は本隊を置き去りにする場合も多い。むしろミューレイが本隊にいるからこそシャオルの戦闘力も活きるといえるだろう。

また、ミューレイはクラトをリョウカ隊の大隊長として攻撃力の向上を主張したが、シャオルは受け入れなかった。


「クラトを連れておれば旅団に護られているが如くであろう」

「うわ、それはまた大きく出たなぁ。ま、言ってもらうのはありがたいけど、人数を揃えないといざって時に壁が作れないぜ」

「親衛隊が居ることは居るのだが・・・」

「え?見たことないけど」

「親衛隊は本国が手配したのでな、いざという時に信用できぬ」

「信用できないって、同じ国じゃないか」

「お主はブレシアの人間ではないから解らぬだろう」

「私の母はライゼン・キルジェの娘なのだ」

「ライゼン・キルジェ?」


一言で言えば英雄だ。ただし、英雄が覇者だというのなら英雄ではない。

我が祖父は徹頭徹尾ブレシア本国を支え続けた行政区の長官だ。ブレシアが中央区と地方行政区に分かれていなければ、国師として活躍したに違いない。

有能な政治家であり、優秀な戦士だった。

ジルオン連合の崩壊時、ブレシアを救ったのは祖父ライゼンなのだ。だが愚か者はジルオン連合を崩壊させた首謀者だと糾弾し始めた。ジルオン連合など既に崩壊しておったのにな。

そしてブレシアがギルモアに編入されるという愚行に反対し、死をもって国王を諫めたのだ。

しかし、国王はギルモア傘下に下るという判断を覆さなかった。ジルオン体制崩壊後にぎりぎり保っていた国家としての体面をも失い、国民からプライドまで奪って得たもの。それがギルモアからの援助だ。

表向きは力を蓄えるための隠忍の時などと言っておるが、ギルモアからの援助で潤うのは本国にいる王族と一部の貴族だけだ。

ブレシア王は国民のプライドと引き換えに僅かな餌を得たのだ。


シャオルの言葉は次第に辛辣になっていく。


ギルモアからも首長連合からも離脱して国体を守るべしという私の意見は全く無視された。

中心部への抗議行軍も皆に止められた。そして多くの者が私の許を去っていった。抗議の声すら起きないこの国に私は失望しているのだ。


私の父はジェノン・ジェゼ・ブレシア、ブレシア国王だ。

しかし、私の母はルファ(王妃の意味)では無い。祖父が死んだ後に廃されてしまったのだ。どうして私がレラ(姫の意味)のままで居るのかは分らぬ。

もしかすると、私はレラではなく戦士として区別されているのかも知れぬな。

そう思えば合点がいく。自分で言うのも何だが武力では負ける気がせんし、軍略も多少は出来るつもりだ。

ブレシアの門番として適任なのかも知れぬ。だからこそ8,000もの兵の指揮権を与えられているし、何も言っては来ぬのだろう。

私と父を繋ぐ接点は軍務だけだ。随分と前から言葉を交わした事はない。手紙も書かなくなった。今では国王と将軍の関係、指示書と報告書だけの交流でしかない。


「恨んでいるのかい」

「馬鹿な。父に対して感情的なものは一切ない。恨みとも・・・思わぬ」

「そんなモンか」

「私はな、生まれてすぐこの地に、祖父が長官を務めるこのクロフェナに送られたのだ。母と会ったのも私が15を過ぎてレラの位に就いてからだ。母は泣いていたが私は何とも思わなかった」

「私はこのクロフェナの地で育ち、教育を受け、戦ってきたのだ」

「あのミューレイと申す将軍が居るだろう。あれはクロフェナ貴族の息子でな、私と同い年だ。幼年学校から一緒だった」

「あいつは出来るヤツだな」

「まぁ、な。ちょっとばかり無愛想だが」

「ミューレイが国とかクロフェナ行政区?をどう考えているか知らんけど、シャオルを守るという点で揺るがないね。だから強いし信用できる」

「そうか、クラトはやはり珍しいな」

「どうして?」

「ミューレイは気位が高いし、優秀な分だけ人の意見も聞かぬ。かなり辛辣な事も言うし、皆から少々煙たがられるようだ」

「嫌いな奴じゃないよ、俺としては」

「そうか、それは良かった」「よく考えれば、ミューレイはいつも傍に居た。言うなれば、私の友なのだろう」


私が戦いで死ぬのなら、最後を看取るのはあやつなのかもしれんな・・・


ふと浮かんだ思いをシャオルが口にする事はなかった。

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