12-11 配属
クラトを審査する立ち合い。
クラトの相手はリョウカ。ジュノの立ち合いを見て中隊長クラスでは相手にならないと判断したリョウカが自ら名乗り出たのだ。
立ち合い開始を告げるラオファの声が響く。
リョウカはクラトが背負う大剣がまるで刀のように軽々と抜かれるのを見た。
「いかん!」突き出そうとした剣を防御に変えた。
と、同時に異常な剣圧を感じた。
受けるのが精一杯だった。もし中隊長クラスを出していたら死んでいたかもしれない。
クラト片手で打ち込んできた。片手ゆえに軌道が伸びる。
しかし信じられない打撃だ。恐らく手首の返しで打撃を増しているのだろう。
片手?手首?10リグノ剣だぞ?常識で考えれば両手剣だ。
エナルダでもない限りめったに使わない大剣を片手でここまで捌くとは。
前に立ち会った時も出来ると思ったが、今日の剣筋は別人だ。
「しかし・・・!」
リョウカは全力で打ち込んだ。10リグノ剣が受ける。
凄まじい勢いで打ち込み続けた。
打ち込みを止めたら・・・俺は死ぬ。
そんな恐怖を感じさせるクラトの一撃だった。
「うぉぉ!!」
リョウカの打ち込みを受け続けていたクラトが打撃で迎え撃った。
凄まじい音と共にリョウカが後方へ弾かれる。同時にクラトは追撃で前に出る。
「止めぇッ!!」
ラオファの悲痛とも取れる声が響いた。
その後、バイカルノは中隊長となかなか良い立ち合いを見せていた。この男、軍師とはいえ、武装商隊の頭目であったし、その前は盗賊だった。意外と剣の腕は立つ。
「よし、それまで!この後、別室にて私から面接を行い、その者達の配属を決定する。では解散!」
三々五々散っていく兵達の話題は10リグノ剣の一撃に集中していた。
「何者だ?シャオル様の客人らしいが、どこぞの武人でも引き抜いてきたか?」
「しかし、3人ともかなり出来るぜ、さすがはシャオル様だな」
そんな声が聞こえる中、ミューレイは愕然としていた。兵士が見ていない力をはっきりと感じた。
「あの2人は力を出し切っていない。シャオル様は分っていて引き込んだのか?」
「あまりに突出した力が編入される反動は生半可なものではないぞ・・・」
「危険だ。あの者達はあまりにも危険すぎる・・・」
同じくクラト達の力を感じ取ったシャオルは驚きながらも、口許に笑みを浮かべた。
それは純真な笑顔ではなかった。何かを狙う野望に燃えた目だった。
◇*◇*◇*◇*◇
「おい、あいつが背負ってるのは15リグノ剣じゃないのか?」
「冗談だろ?今時エナルダでも使わんぜ、そんな非効率な武器」
「立ち合いでは10リグノ剣だったじゃなかったか?」
「って事は15リグノ剣が本チャンの獲物って事かよ」
「しかし、どこから持ち出したんだ、あんなモン」
ザワザワと囁く声が聞こえる。
兵士の視線の先には15リグノ剣を背負ったクラトが立っていた。
クラトはリョウカが率いる旅団の兵としてこの会戦に参加している。
ジュノも同じ隊に配属されていた。
今日の敵はバルナウル軍と呼称しているが、実際はアジェロン国の兵士達だ。
バルナウルと共にジルオン連合を離脱したアジェロン国は、南をギルモア、東はブレシアに対峙する位置にある。
ジルオン連合時代はブレシアやマバザク族と友好な関係にあったが、バルナウルの武力と北の回廊の利益にくらんでバルナウルについたのだ。
バルナウルとアジェロンの離脱に対してブレシアの動きは早かった。連合の盟主として求心力の回復という意味もあったのだろう。その攻撃は素早く、そして苛烈だった。
いきなりブレシアから攻撃を受けたアジェロンは大混乱に陥った。バルナウルの援軍が駆け付け、ブレシア軍は撤退したものの、アジェロンは大きな損害を蒙る。
それ以降アジェロンとその北にある4部族は北東部首長連合と衝突を繰り返しているのだ。
リョウカはラオファに確認するように言った。
「おい、あの2人を同じ隊に配置してはバランスが悪くなるんじゃないのか?」
「あぁ、私もその点はシャオル様にお伝えした。どうやら彼等の示威の場にするようだ」
「示威?」
「元々シャオル様は彼等の力・・・力だけでなくその人間性もお認めになっていた。抜擢する為に手っ取り早く戦果を挙げさせようというのだろう」
「シャオル様はあの2人で大隊規模の戦力と見積もっておられるようだ」
「馬鹿な?エクサーでもあるまいに」
「うむ、私もそう思うのだが・・・」
「それはそうとあのバイカルノとやらは後方か?」
「そうだ。面接でそう判断してミューレイ様の下に配属させた。シャオル様はお気に召さぬようだったが、何とも仰らなかった」
「よぉ、リョウカ、突撃する時は敵の本陣まで突っ込んでいいのか?」
「クラトさん!リョウカ殿は隊長でしょ!」
「あ、そうだった。リョウカ隊長、シャオルは突っ込んでいいって笑ってたけど、どうよ?」
「シャオル様でしょ!!」
じれるジュノに目礼を送りつつ、リョウカに代わってラオファが説明する。
「クラト殿、斥候からの情報では我等の正面は敵本隊の前衛にあたおる師団です。私の隊が西に展開する敵の別働隊を殲滅してから敵本隊の側面を崩します。その時にリョウカ殿の隊が突撃を行いますが、東に軍団規模の敵が展開していますので深入りは禁物です」
「東の敵には本城の第3軍団が対処しますが、兵力的に第3軍が崩れる事はないでしょう。逆に敵を蹴散らして本隊の東側面から攻撃できれば敵は撤退するしかありません。そうなれば後は追撃戦で敵陣深く斬り込んでいけます」
「何だかまどろっこしいな」
クラトのぼやきをジュノが慌ててたしなめた。
「またそんな口を!突撃という戦法としてこれは確実な戦い方ですよ」
「それより、本隊を潰しちまえば確実だろ」
「それは突撃大隊でなければ無理・・・、いや、突撃に特化した師団規模の兵力が必要です。それに失敗したら待っているのは全滅です」
やりとりを聞いていたラオファは気にする風でもなく言った。
「シャオル様が指揮をとる場合、指示が頻繁に出ます。ご注意下さい」
黙って聞いていたリョウカが顔を上げた。
「さて、そろそろ配置についた方がいいだろう。クラトとジュノは俺の直属だからな。よろしく頼む」
「おぅ、任せとけって」