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11-7 先導

「クラトさん、あの老婦人があんなところに」

ジュノが指差す方向を見ると、確かに婆さんが屋台で何か飲んでいる。

俺達が背後から近づくと犬が消えていた。そして気付けば俺達の背後に回っていた。

驚かそうとした俺が驚かされてしまった。

何だ、この犬は。

害意や特殊な力は全く感じないが、この動きは相当訓練されたのだろう。


「おい、婆さん。昨日男達に囲まれてたのは馬を盗んだせいだって聞いたんだが、それは本当か?」

「冗談じゃない。あたしゃ殺しはやっても盗みはやらないよ」

「そうか・・・って、物騒だな、おい」

「なに言ってんだい、身を守るために殺す事はあっても、身を守るために盗むってのは無いだろ。殺される奴はそいつに原因があるのさ。でも盗みは理由があっても正当性は無いんだよ」

「では、どういった理由で追われていたのですか?」

「あいつらは馬泥棒だよ」

「はぁ?」

「あいつらが運んでる馬にはあたし等の郷でつける焼印があったのさ。馬を売る時にはその隣にもう一つ印を焼くんだ。だから盗まれた馬かどうかは一目で分かる」

「ややこしいなぁ」

「もしかすると盗まれた馬を買ったのかもしれませんが」

「そんな事ぁ関係ないね。売却済の焼印がない馬はウチの郷のものだ」

「そうですか。そういえばお供の方々はどうしたのですか?あなたは貴族とお見受けしましたが、いつもお供がいらっしゃらない」

「へぇ、随分詮索好きじゃないか。せっかくのいい男が台無しだね」

「私は街に巣食う伊達男とは違いますから」

「ふん、なかなか言うじゃないか。で、私をどうしようってんだい。縄に繋いで突き出すかい?」

「つーか、その焼印を見つけた時にどうして聞かないんだよ」

「はッ、お前はバカかい?奴等が馬泥棒じゃなかったら何て答える?」

「そりゃ、違うって言うだろうな」

「じゃ、馬泥棒だったら何て答えると思う?」

「まぁ、違うって言うだろう・・・あっ!」

「やっと自分のバカさ加減に気付いたかい。相手に答を求めるなんてのが間違いの元だよ。目の前にある事実で自分が決めればいい」

「あいつ等が正しいかどうかなんて、あいつ等が証明すべき事であって、あたしらが骨を折る必要なんてないんだ」

「う~ん、婆さんなかなかワイルドな考え方だな」

「オゥン!」

突然、犬が吠えた。

1人の男が駆け込んでくる。

「シャオル様!」

「ラオファ、どうした?」

「ホウレイが捕まりました!」

「あいつ等か?」

「はい、申し訳ありません。不意を衝かれました。私一人ではどうにもなりませんので、まずはお知らせしようと戻りました」

ラオファと呼ばれた若者は、ここで初めてクラトとジュノに気づき、驚きの顔のまま老婆の顔を見た。

老婆は視線でラオファに気にしないように告げ、俺たちに向かった。

「そういう事で、おしゃべりは終わりだ」

「おいおい、婆さん、お供が2人で敵わなかったんだろ?そこへ婆さんが行ってどうしようってんだよ」

「うるさいね。あたしゃ、お前らよりよっぽど強いんだ。心配ご無用。ネーベルもいるし、あんな奴ら軽くひねってやるさ」

「他の3人はともかく、リーダー格の大男はかなりできますよ?」

ジュノが問い詰めるような口調で言った。

「だからどうしたって言うんだ?戦争だろうと喧嘩だろうと、戦いで後ろを見せる訳にはいかないね。あんたは退く事も必要ですよとかほざくんだろうけどさ」

「その通りです。個人が個人の責任だけで争うなら無謀でも無茶でも勝手でしょうが、貴方には配下がいる」「あなたが彼らの生殺与奪権を持っているとしても、あなたの死に他人を巻き込んだという事実は残ります」

「はッ、言うじゃないか。私がいかないでどうしようって言うんだい?配下を見殺しにして私が生き残るのはどうなんだ?それでいいとでも言うのかい?」

「それで良いのです。あなたはリーダーです。リーダーは部下を死なせてでも生き延びねばなりません。つまり部下の死は貴方が生きる為のものでなければならない」「そして、部下の命は貴方のものですが、貴方の命は貴方のものではありません」

「じゃ、どうすれば良い?」

「勝てない戦いはしない事です。馬か部下、どちらを取るかでしょう」

「ならば、引き下がれというのか、一度は奪い返した馬を返して。主張を曲げて、ジルオンが許しを請えというのか!」

「そうですか、あなたはブレシアでしたか。しかし、損害や退却を受け入れられない軍隊は既に死者の集団ですよ」

「無礼者!このお方は!」

「よしな、正しいんだよ、この若造が言ってる事は。でも、そんな事は分ってるんだよ。それでもやるのがジルオンなのさ」

「じゃ、俺たちは見物させてもらうわ」

「なんだって?」

「こいつ、言わせておけばシャオル様に向かって!」

「放っておくんだ、あたし等には関係ない」

「しかし・・・」

「いいから。それより案内しな」

「はいッ」

婆さんと若い男は走っていった。

「うわ、何だ?あの婆さん、走るの早くないか?気持ちワルイな、おい」

「そうですね、エナルダでしょうか」

ふと見るとネーベルはきちんと座って俺たちを見ている。

「おい、ネーベル、ご主人様について行かなくていいのか?」

「オゥオゥン」

「なんだこいつ、俺達を待っているような感じだな」

「オゥン」

「ま、行くけど・・・って、婆さんがあんなところまで!」

俺とジュノは婆さん達を追った。かなり速い。

俺はジュノについて行くのが苦しくなった。

「クラトさん、私は先に行きます」「ネーベル、クラトさんを先導するんだ!」

「オウン!」

ジュノは一気にスピードを上げた。反面、俺の息は上がり、足がもつれる。

だいぶ遅れてしまったが、ネーベルが地面を嗅ぎつつ、俺を振り向きながら、先を進んでいる。

俺はこの犬の後に続きながら、ベルファーを思い出していた。



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